【無才】のウェポンスミスは諦めない! 〜才能の欠片もないと工房をクビにされ捲った私が〝夢〟〝復讐〟〝助力〟を経て、武器職人の頂点に至るまで〜

るっち

文字の大きさ
上 下
11 / 40

第6話 開花

しおりを挟む

「あわ、あわわ、あわわわわ……」

 己の尊厳が失われている可能性に気づいた途端、気が動転しすぎてガタガタと震えだす私の身体。
 その異様な光景に「どっ、どうされましたか!?」とティナちゃんは驚きつつも、この震えを止めようと精一杯に抱き締めてくれた。

 身長差があるので柔らかい感触に包まれたのは下半身だけだったが、それだけでも震えを止めるには充分すぎるほどの喜びと快感を得られ、その多幸感により無敵状態となった私は〝あのこと〟について聞いてみることに。

「……あ、ありがとティナちゃん、震えはもう止まったみたい……と、ところでさ、あのことを聞いてどう思った?」

「……? あのこととはどのことでしょうか?」

「えーっと……お、お漏らしのこと、なんだけど……実はあれ──」

「──あぁ、先程お話しされたジョークのことですね? ふふっ、大変楽しませて頂きました。お陰様でこうして元気になれましたので、改めて感謝の念に堪えません」

「……へ? あ、気づいてたんだ……」

「……?」

 よっ……よかったぁぁぁ~っ!! あの時冗談だって言えなかったからさ~! マジ話だと思われてるんじゃないかって不安だったんだよ~! いやマジで~!

 ……と、脳内で安堵の叫びを上げ捲っている一方、表面上では和かな笑顔を作ってティナちゃんになんでもないアピールを。
 それが功を奏したのかこのは何も聞かずに優しく笑い返してくれて、その全てを浄化するような笑顔はまるで天使と見紛うほど。

 天使の矢ことティナちゃんの笑顔に心を射抜かれた私は、なんとかして彼女に触れられないものかと熟考に熟考を重ねたすえ、今すべきことと今したいことを同時に叶えられる最善の策を導き出す。

「あ、あのさ……また悪漢に襲われると大変だからテっ、手を繋いで歩こっか……」

 少しの不安と大きな期待による緊張で鼓動を速めながら左手を差し出すと、笑顔のまま「はい、是非っ」と嬉しそうに手を繋ぐティナちゃん。
 その繋いだ手が欲望と汗に塗れているとも知らずに……──



「──ゔっ、何この腐った匂い……それにこの血はまさか、人の──ッ!?」

 ティナちゃんと手を繋げたことで上機嫌の私であった……が、先へ進むにつれて段々とスラム街のヤバさを知ることになり、それはどこからともなく漂う悪臭や路上に飛び散っている人血が物語っていた。
 そしてこの先はより一層ヤバさが増すと見て、「かなり物騒になってきたけど何があっても私が守ってあげるからね!」と彼女が不安に思わぬよう事前に約束を結び、尚も先へと進む。


「ふふっ……」

 緊迫した雰囲気のなか、なんの前触れもなくティナちゃんが笑ったので「……ん? 急にどうしたの? もしかして思い出し笑い? あっ、それとも妄想的なやつ?」と聞いてみたところ、彼女は少しだけ頬を赤らめて笑った理由を口にする。

「えっと……その、もしもルゥ様がわたくしの姉ならばと想像しましたら嬉しさのあまり、つい……」

「そっかぁ、姉かぁ、そりゃあ私が姉だったらぁ……って姉ぇぇぇ~っ!?」

 よもや自分が姉妄想のオカズにされているとは夢にも思わず、嬉しくも驚きのあまり大声を上げてしまった。
 すると、近くの路地裏で寝ていたであろう男たちが私たちの存在に気づくなり集まりだす。

「にぃ、しぃ、ろぉ、七人か……ごめんティナちゃん、私が大声出したばかりに……でも、約束は絶対守るから」

「はい、信じております……ですが、決してご無理だけはなさらないでください……お姉様」

 ティナちゃんのお姉様発言を受けて「可愛い妹のために勝ぁぁぁーつ!!」と吼え、気合十分で男たちの前に立つ私。姉ブーストが発動したからには男など恐るるに足らず。

 だが奴らは全員武器を持っているうえに襲う気満々。
 しかもまともに攻撃を受けたらその時点でアウト。私のみならず彼女まで何をされてしまうのかは想像に難くない。

 悪漢の撃退経験はあっても本格的な戦闘経験は皆無だし、無策で突っ込むより相手の出方を見て対応しよう!
 そう考えつつツールポーチに手を入れ、何か適した武器はないかと探そうとしたその矢先、先頭の男Aを皮切りに次々と奴らが襲い掛かってきた。

「うわわっ!? なんか武器なんか武器っ……コレだ!」

 空間拡張済みツールポーチから取り出したもの……それは、棍。
 幼い頃、父から護身術とともに手解きを受けていた最初の得物。
 当時は全く気が進まなかったが、それでも自衛のためにと持たされた不殺にして万能の武器だ。
 剣や槍と違って比較的軽いから女の私でも……ほらこのとおり、簡単に振り抜けるから男を倒すことも。まさに万能。

 今倒した男Aは短剣を持っていたが明らかにリーチが違う。それも万能と云われる所以の一つ。
 他にも後方へと回り込もうとする男Bに対し、相対せずとも後ろを突けば……はい、万能故に最小限の動きで二人目も撃破。

 いつもならランニング後に棍を握るのだが今日はそれができなかった。
 なので、今がその鍛錬のときだと思っていつもどおり気負わず冷静に一人ずつ倒していくつもりだ。

 相手が警戒して足を止めた瞬間に突く。倒された仲間の方に視線を向けた隙を突く。怒りでせばまった視界の外から不意を突く。これで残すはあと二人。

 よしっ、このままいけば勝てる! そう判断して口角を上げた次の瞬間、先程倒したはずの男Eが私の右足に抱きつき、それによりどうにか男Eは倒したものの体勢が崩れてしまい、その隙を突かれて男Fに押し倒される羽目に。しかし、そんなことよりも……


「きゃあぁぁぁーっ!!」


 男Gが私を無視してティナちゃんに襲い掛かったのだ。
 このスラム街には似つかわしくないその煌びやかな姿を見れば誰もが貴族の娘だと理解するだろう。事実、そのとおりだ。

 礼儀作法は教われど闘う術など教わっていない彼女は、抵抗する間もなく黄ばんだ下着を嗅がせられて即気絶。
 肩に担がれたかと思えば見る見る距離が開いていき、マズい! 早く助けなきゃ! と焦った私は卑猥な表情で上に跨る男Fをすぐさま棍で殴り倒し、自慢の脚力で追いかけることに。

むぁてぇぇぇーっ!! 妹を返せぇぇぇーっ!!」

 棍を片手に鬼の形相で路上を駆け抜ける私。悪路で走りづらいがそんなの関係ない。

 その後は自慢の脚力で一気に距離を縮ませる……が、あと少しで追いつかんとしたその時、予期せぬ突起により躓いてしまう。
 速度が出ていた分派手に転び、折角縮めた距離が再び開いていく様子をうつ伏せのまま眺めることしかできず、視界を涙で滲ませ、咄嗟に叫ぶ。

「待って! 私はどうなってもいいからそのだけは返して!」

 無駄な叫びであることは分かっていたが、それでも叫ばずにはいられなかった。
 そしてやはり無駄な叫びで終わると、偶然視界に入った棍に向けてふと呟く。「キミが、ソンゴクウの武器だったらよかったのに……」と。

 するとその刹那、棍から眩いほどの光が放たれ、頭の中には謎の知識が流れ込んできた。


【潜在スキル『偉人の銘』が開花した】
【無銘の棍が『ゴクウの棍』に進化した】

【ゴクウの棍:攻『+300%』・耐『+300%』・能力アビリティ『伸縮』】
【詳細:異世界の偉人『孫悟空』が愛用していた棍の魂を宿すことで進化を遂げた元無銘の棍】
【伸縮:武器を自在に伸縮できる。但し、伸縮限度アリ】


「……偉人の銘……ゴクウの棍……能力アビリティ……?」

 急に謎の知識を得て戸惑うなか、幼い頃に妄想し捲った〝もしも偉人の武器が使えるとしたら〟を不意に思い出し、透かさず暗記した台詞を叫ぶことで妄想が現実のものとなる。


「伸びろ如意棒──ッ!!」


 男Gの足を狙って台詞を叫ぶと『ゴクウの棍』は凄まじい速さで伸びていき、瞬く間に開いた距離を無にして貫く勢いで右膝裏に直撃。

 膝から崩れ、豪快に倒れる男G。
 その手から解き放たれたティナちゃんは宙を舞い、再び舞い降りた場所はなんと男Gの背中の上。

 全くの偶然とはいえ、あの可愛らしいお尻でトドメを刺す光景に「あははっ!」と思わず笑ってしまった……が、その一方で着地の衝撃によって目を覚ました彼女は何故かすぐに股を押さえだし……──
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

Sランクパーティを引退したおっさんは故郷でスローライフがしたい。~王都に残した仲間が事あるごとに呼び出してくる~

味のないお茶
ファンタジー
Sランクパーティのリーダーだったベルフォードは、冒険者歴二十年のベテランだった。 しかし、加齢による衰えを感じていた彼は後人に愛弟子のエリックを指名し一年間見守っていた。 彼のリーダー能力に安心したベルフォードは、冒険者家業の引退を決意する。 故郷に帰ってゆっくりと日々を過しながら、剣術道場を開いて結婚相手を探そう。 そう考えていたベルフォードだったが、周りは彼をほっておいてはくれなかった。 これはスローライフがしたい凄腕のおっさんと、彼を慕う人達が織り成す物語。

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

セリオン共和国再興記 もしくは宇宙刑事が召喚されてしまったので・・・

今卓&
ファンタジー
地球での任務が終わった銀河連合所属の刑事二人は帰途の途中原因不明のワームホールに巻き込まれる、彼が気が付くと可住惑星上に居た。 その頃会議中の皇帝の元へ伯爵から使者が送られる、彼等は捕らえられ教会の地下へと送られた。 皇帝は日課の教会へ向かう途中でタイスと名乗る少女を”宮”へ招待するという、タイスは不安ながらも両親と周囲の反応から招待を断る事はできず”宮”へ向かう事となる。 刑事は離別したパートナーの捜索と惑星の調査の為、巡視艇から下船する事とした、そこで彼は4人の知性体を救出し獣人二人とエルフを連れてエルフの住む土地へ彼等を届ける旅にでる事となる。

野生児少女の生存日記

花見酒
ファンタジー
とある村に住んでいた少女、とある鑑定式にて自身の適性が無属性だった事で危険な森に置き去りにされ、その森で生き延びた少女の物語

勘当貴族なオレのクズギフトが強すぎる! ×ランクだと思ってたギフトは、オレだけ使える無敵の能力でした

赤白玉ゆずる
ファンタジー
【コミックス第1巻発売です!】 早ければ、電子書籍版は2/18から販売開始、紙書籍は2/19に店頭に並ぶことと思います。 皆様どうぞよろしくお願いいたします。 【10/23コミカライズ開始!】 『勘当貴族なオレのクズギフトが強すぎる!』のコミカライズが連載開始されました! 颯希先生が描いてくださるリュークやアニスたちが本当に素敵なので、是非ご覧になってくださいませ。 【第2巻が発売されました!】 今回も改稿や修正を頑張りましたので、皆様どうぞよろしくお願いいたします。 イラストは蓮禾先生が担当してくださいました。サクヤとポンタ超可愛いですよ。ゾンダールもシブカッコイイです! 素晴らしいイラストの数々が載っておりますので、是非見ていただけたら嬉しいです。 【ストーリー紹介】 幼い頃、孤児院から引き取られた主人公リュークは、養父となった侯爵から酷い扱いを受けていた。 そんなある日、リュークは『スマホ』という史上初の『Xランク』スキルを授かる。 養父は『Xランク』をただの『バツランク』だと馬鹿にし、リュークをきつくぶん殴ったうえ、親子の縁を切って家から追い出す。 だが本当は『Extraランク』という意味で、超絶ぶっちぎりの能力を持っていた。 『スマホ』の能力――それは鑑定、検索、マップ機能、動物の言葉が翻訳ができるほか、他人やモンスターの持つスキル・魔法などをコピーして取得が可能なうえ、写真に撮ったものを現物として出せたり、合成することで強力な魔導装備すら製作できる最凶のものだった。 貴族家から放り出されたリュークは、朱鷺色の髪をした天才美少女剣士アニスと出会う。 『剣姫』の二つ名を持つアニスは雲の上の存在だったが、『スマホ』の力でリュークは成り上がり、徐々にその関係は接近していく。 『スマホ』はリュークの成長とともにさらに進化し、最弱の男はいつしか世界最強の存在へ……。 どん底だった主人公が一発逆転する物語です。 ※別小説『ぶっ壊れ錬金術師(チート・アルケミスト)はいつか本気を出してみたい 魔導と科学を極めたら異世界最強になったので、自由気ままに生きていきます』も書いてますので、そちらもどうぞよろしくお願いいたします。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

聖女召喚に巻き添え異世界転移~だれもかれもが納得すると思うなよっ!

山田みかん
ファンタジー
「貴方には剣と魔法の異世界へ行ってもらいますぅ~」 ────何言ってんのコイツ? あれ? 私に言ってるんじゃないの? ていうか、ここはどこ? ちょっと待てッ!私はこんなところにいる場合じゃないんだよっ! 推しに会いに行かねばならんのだよ!!

処理中です...