上 下
3 / 40

第2話 超絶レア鉱石

しおりを挟む

「それでお姉ちゃん、先ずは何するの?」

 握手を終えてすぐ、少年からそんな質問を受けたので迷わずこう答えた。

「ふふふっ、先ず初めにすること……それは昼食よ!」

 ということで、直ちに台所へ案内してもらって調理を開始。

 先ずは氷の魔石を利用した魔導冷却貯蔵庫……通称〝冷蔵庫〟からピンクボアのバラ肉を加工したベーコンとベジターブルの背中から採った青ネギ、あとはガーデンバードが産んだ卵を取り出し、ベーコンと青ネギを〝イリア〟の包丁で細かく切ってから〝イリア〟のボウルで卵を溶き、それら全てをトーヨーナタネから抽出したサラダ油を薄く敷いた〝イリア〟のフライパンで中火のまま豪快に炒める。
 因みに〝魔導コンロ〟には火の魔石が利用されており、弱火・中火・強火・鬼火と4段階の調節が可能だ。てか、鬼火って必要……?

 次は白米。この米は自国【メガロス・ドワーファ】の北東地域で作られているアシタコマチ。そこいらの米とは粒立ちが違う。
 そのブランド米を火と水の魔石を利用した〝魔導炊飯器〟から〝イリア〟の木杓子で掬い取り、具材を炒め終わったら具材と合わせてまた炒める。この時、火力は強火に。

 白米が黄金色に馴染んだら醤油・塩・胡椒・ガーデンバードの骨を煮込んで作られた鶏ガラスープの素を少量入れ、サッと炒めてすぐに火を止める。

 最後はお皿に丸く盛りつけ、小口切りにした青ネギを乗せれば母直伝〝B.A.T.炒飯〟の出来上がり。
 早速、出来立て炒飯を頂く……前に、イリアさんのために〝自家製梅干し入り玉子粥〟をササッと作り、少年を連れて届けに向かった。


「あのねママ、このお粥お姉ちゃんが作ったんだ! 僕の作る黒いお粥と全然違うよね? うーん……なんでだろ?」

 少年の質問に「な、なんでだろうね。あはは……」と苦笑いで誤魔化してから玉子粥を少しずつ食すイリアさん。
 彼女の美味しそうに食べる姿を見ていたら自然と笑みが零れた。
 されど、スプーンを持つその手は木の枝のようにか細く、今にも折れてしまいそうで見ていてとても心苦しい。

 それにさ、ずっと見てたら食事の妨げになっちゃうよね……
 そう思った私は少年と居間に戻って炒飯を食べることにした。


「いただきます(×2)」

 居間に戻ってすぐ、私たちは黙々と炒飯を食す……とその最中、またもや少年から質問が。

「それでお姉ちゃん、次は何するの?」

 この質問に一旦食事の手を止め、スプーンを皿の上に置いてから一言。

「次は作業場の確認かなぁ」

 質問に答えた途端、少年から「早く食べて行こっ!」と急かされてしまい、速攻で炒飯を食べ終えて息つく暇もなく作業場へと向かうことに。

 それにしても、少年は何故こんなに嬉しそうな表情をしているのだろうか……?



「お姉ちゃんっ、ここが作業場だよ!」

 作業場に着くなり少年は両手を広げて作業場であることをアピール。
 この工房に入った時点で知ってはいたが、「そうだね、教えてくれてありがと」と敢えて少年に感謝を。
 それが少年を益々調子づかせてしまったのか、彼は様々なものを紹介し始める。

 武器製造に必要不可欠な火床ほどや金床、固形燃料である石炭や骸炭コークス、水を溜め込むための水瓶や送風器のふいごに各種金型、更には木材や竹材の他に鉄や銅、金・銀などの金属鉱石まで。果ては……


「えーっと、これが聖銀ミスリルでしょ? これが日緋色金ヒヒイロカネでこれが金剛黒鉄アダマンタイト、これが神之真鍮オリハルコンでこれがナマリだよ! ……どう? 凄いでしょ?」

「うんうん、キミは凄いねぇ──って、え゙ぇぇぇ~っ!?」

 20年間生きてきたなかで一度もお目に掛かったことのない超絶レア鉱石が目の前にある事実に、思わず目が飛び出そうなくらい驚いてしまった。どれか1つでも相当凄いことなのにって。

 で、でも、全部が全部本物なのか分からないし一応調べてみなきゃ……この鑑定スキルで!!

 最近、この街でも見た目だけ似せた紛い物の鉱石が出回っているため素養のある者は鑑定スキルを習得するのが通例となっており、幸いにも故郷の村で習得済みの私は未だ出会でくわしてこそいないがいつその機会が訪れるか分からない。

 だからこそ、いついかなる時もスキルで鑑定する癖をつけておかなければならないのだ。
 てなわけで、本物か否かを鑑定スキル『鉱石鑑定』で視ることにした。ゴクリ……


聖銀ミスリル:硬度『7』・軽度『6』・魔伝率『10』】
【詳細:全鉱石の中で最も魔力伝導率が高く、毒物に触れても黒く変色しない不思議な銀系鉱石。古代文字で〝聖〟の名を冠する理由もこれに当たる】

日緋色金ヒヒイロカネ:硬度『10』・軽度『7』・魔伝率『6』】
【詳細:全鉱石の中で二番目に硬く、陽光を浴びると黄金色から緋色に輝く謎の金系鉱石。変色のメカニズムは未だ解明されておらず、一説では異世界の鉱石だからとか】

金剛黒鉄アダマンタイト:硬度『11~』・軽度『1』・魔伝率『1』】
【詳細:全鉱石の中で最も硬く、最も重い鉄系鉱石。現在の加工技術では素色の黒から色を変えることは不可能とされている。鉄に属するだけに、まさに黒金くろがね

神之真鍮オリハルコン:硬度『8』・軽度『8』・魔伝率『8』】
【詳細:全鉱石の中で最も総合値が高く、バランスの取れた銅系鉱石。真鍮にも拘らず、錆や黒ズミが付かないのは神が愛でているからだと云われており、それが名前の由来とも】

ナマリ:硬度『1』・軽度『3』・魔伝率『0』】
【詳細:五大金属の一つ、青金あおがね。この世界で唯一の魔力非伝導体であり、最も柔らかい謎多き鉱石。魔素や魔力を一切受け付けず、柔く重いので使い道のない鉱石とされているが……】


「……す、凄い、これ全部本物だ……どれもこれも調べた特徴そのまんま──ってヤバっ! なんかめっちゃ興奮してきたぁ!」

 どの鉱石も特徴と合致した鑑定結果であるため本物と断定。鑑定偽装もないものと思われる。
 生産者ギルドで指標鉱石に指定されているのは鋼鉄……つまりは〝ハガネ〟であり、その鑑定数値は【ハガネ:硬度『5』軽度『5』魔伝率『5』】と全てが中央値。

 ……それにしても、よくこれほどの超絶レア鉱石を集められたものだ。たとえ王家であっても全てを集めることは不可能に近い。だけど、それをイリアさんはたった一人で……

「よーしっ、私も頑張らなきゃ! 少年っ、危ないから下がってて!」

 やる気に火が付いたところで製造作業を始めることにした私は、石炭と火打ち石で火床……謂わゆる〝炉〟に火を熾し、木桶で水瓶から掬い取った水を焼き入れ用の水槽に何度も移しては溜め、手槌ハンマー火箸ペンチなどの工具を作業台に並べて準備を整える。
 因みに手槌だけは自前のやつ。武器職人を始める時に母からプレゼントされた〝イリア〟の手槌で私の相棒……ううん、相槌だから。

「お姉ちゃん! これから何使って何造ってくれるの?」

 瞳をキラキラと輝かせる少年の期待に応えるべく、今造れるなかで一番自信のある武器を造ろうと決心し、ある素材を手にして「これを使って弓を造るの!」と少年に向けて言い放つ。
 すると少年の「おぉ~っ!」と喜ぶ姿に更なるやる気を貰えたため、勢いそのままに弓を造り始めた。

 私が手にした素材はダンシャオ竹。
 この街から西に少し向かった場所にある竹林〝チン竹林〟に自生する背の低い竹であり、通常の竹よりも伸びない分曲がりが少なく丈夫でしなやか。弓にはもってこいの竹だ。
 その竹を縦4分割にしてヤスリを掛け、火床で熱した後に全て重ね、金型に挟んで形を作る。

 村にいた頃は楔を打ち込んで形を作っていたが、この街に来てからは金型に頼る方法を身に付けたので作業がかなり楽になった。

 ……と、昔のことを思い出している内に竹が冷えたので金型から外し、両先端から一定間隔で金具を付けて重ねた竹を固定。

 魔珪石を溶かして作られた耐熱塗料を塗布して自然乾燥させ、軽く熱して塗料を硬化させれば弓の本体〝弓幹ゆがら〟の出来上がり。
 そして、両先端の金具に麻弦を通して竹がしなる手前まで張れば弓の完成だ。

 この工房に備えられてある器具や工具のお陰なのか、過去最高の弓が造れた。
 これから少年に見せることを考えると……ふふっ、彼の驚く顔が目に浮かぶようだ……──
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

処理中です...