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第109話 逆転の報告
しおりを挟む「今の電話、ギルマスから……ですよね?」
分かっていることではあるが念のために聞いてみた。
声を掛けづらい雰囲気なので話すきっかけにしたのだ。
すると俺からの問いに対し、セイナは困惑した表情で返答する。
「はい、兄からでした……ですが、報告内容が少々……」
やはり報告内容は良くないものらしく、言いあぐねている様子のセイナ。
だが俺達に伝えなければならないことがあったのか、一度心を落ち着けてから報告内容を話し始めた。
「ふぅ……申し訳ありません。それでは先程の報告についてお伝えいたします。先ずはーー」
平静を取り戻したセイナの話によると、南門の現状は劣勢の状態であるとのこと。
少し前までは優勢だったのだが、様子見をしていた魔物が動き出したことで逆転されてしまったらしい。つまり、大勢の仲間が戦闘不能もしくは殉職したということになる。
(ゔっ、確かにこれを話すのは躊躇うよな……)
話を戻すが、なんでもその魔物は狼系魔獣であり、金眼に黒い靄を身に纏っていたとの話だ。
その特徴を聞いた瞬間、俺は察した。奴だ、奴しかいない……と。
「その魔獣はアヌビシオですね……俺もココと北門で闘いました……」
「!? アヌビシオですか……? ですが、アヌビシオの姿と先程の特徴では差異があるようですが……」
確かにそう考えてしまうのも無理はない。実際に違いがあるのだから。
通常、アヌビシオの特徴として挙げられるのは深紅の瞳に艶のある黝い毛色だが、今回出現したアヌビシオは金眼に黒い……いや、漆黒の靄を身に纏っている。
それと報告には無かったが、漆黒の靄を身に纏っている分、通常のより二回りほど大きく見えるのだ。
「どうやらミカゲさんや団長様も苦戦している様子で……それでキュロスさんを向かわせろと馬鹿兄……コホンッ、ギルドマスターが仰りまして……」
今、馬鹿兄って……い、いや、それより、あのミカゲでも奴は倒せないのか……それに団長というのは領主が直接雇っている私兵団の団長だよな……何度か街で見たことがある。人柄の良さそうな男だった。
確か、実力はAランカー相当だと聞いたことがある……でも、それほどの実力者がいても勝てないなんて……
独り言のように考え事をしていると、ムツコが顔を覗かせて口を開く。
「行くです!」
ムツコの真剣な眼差しを見て、考え事などしている場合ではないことに気づかされる。
「キュロス様のチカラが必要とされてるです! 早く行かなきゃです!」
ムツコの真剣な言葉を聞き、溢れんばかりに闘志が湧いてくる。
「そうですよね……よしっ、行きましょう!」
「はっ、はいです!」
俺とムツコは同時に頷くと、互いに笑みを浮かべ合った。
その後、俺達は一緒に振り向き、セイナ達3人に出発の挨拶をすることに……
「セイナさん、それから……」
「ハヤタっス!」
「リョウっス!」
どうやら衛兵Dは『ハヤタ』で衛兵Eは『リョウ』というらしい。この辺ではあまり聞かない名前だ。
「そうか……それではハヤタ君、リョウ君、そしてセイナさん……行ってきます!」
「行ってくるです!」
「ウォンッ!」
「「えぇぇーっ!?」」
ギンによる突然の挨拶に皆一斉に驚く。
しかしそれによって、どこか暗く張り詰めていた空気に程良い明るさと柔らかさがもたらされたのであった……
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