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第102話 戦の間に
しおりを挟む「一体何が……こ、これは!?」
黒い霧を抜けて目にしたのは、十字の傷を顔に刻まれて地に横たわるアヌビシオ……と、その側には双剣を手にしたイズナと赤い鞭を持ち身構えているメイリンの姿が。
初めは状況が分からず茫然としてしまったが、ニカナの影響で脳内処理能力が向上していたのですぐに状況を理解できた。
「……えっ、あっ! イズナさんが止めてくれたんですね!?」
「えっ!? え、えぇ……なんか、いきなり迫ってきたから、つい……」
「ほ、本当にいきなりで驚いたわ……よく反応できたわね……」
2人の言葉と表情から察すると、互いの存在に気づかぬまま遭遇してしまい、出会い頭にイズナが十字斬りを見舞ったというところだろう。
見舞ったイズナ本人も驚いているほどなので、咄嗟に身体が動いたのだとみえる。
だが、そのお陰で逃さずに済んだわけだ……2人には感謝しかない。
「よかった、これで終わらせられる……っとそうだ、早く倒さなきゃな……聖炎!」
青白色の炎がアヌビシオを覆い燃え盛る。
弱体化していたからなのか、奴は断末魔を上げることなく燃えて逝った。
燃え盛る炎は何事も無かったかのようにすぐに消え、それを見届けた後にアヌビシオの亡骸を黒箱へ収納。
「ふぅ、今回は違う意味で苦戦したな……でも、お二人が来てくれたお陰で無事倒せました! ありがとうございました!」
2人に礼を述べた途端、2人とも視線を外して頬を赤く染めながら照れ出した。
そんな2人を見て微笑んでいると、前方から複数の足音と男の声が聞こえてくる。
「お嬢ぉぉぉーっ!! 待ってくださぁぁぁーいっ!!」
イズナとメイリン、2人の間から声のする方を覗くと、メイリンの取り巻きである3人の男達が猛烈な勢いで駆けくる様子が窺え、声に気づいたイズナとメイリンも同時に後ろを振り向く。
助けた後に置き去りにしてしまったのだが、どうやら追い掛けてきていたらしい。
「「「あっ……」」」
俺達は一斉に口を開いた。
他の冒険者達を助けるのに必死で、うっかりすっかり忘れていたのだ。
俺達が口を閉じる前に男達は合流し、勢いそのままに涙目で訴え出す。
「お嬢ぉぉぉーっ!! なんで置いてったんですかぁぁぁーっ!! 俺達は家族でしょぉぉぉーっ!!」
大の男3人が仔犬のように瞳を潤ませながらメイリンにしがみつく。
てっきり魅了の魔眼で操り下僕にしていたのかと思っていたが、実際はそうでは無かったようだ。
メイリンの苦笑いしつつも柔らかな表情を見るに、男達を心から信頼しているのが分かる。
メイリン達の仲睦まじい姿を見て、俺とイズナは顔を合わせて笑った。
(生死を賭ける戦いの最中だけど、こういうのがあっても許されるよな……)
戦いで精神が摩耗して心にゆとりが無くなってしまう現状では、笑顔になるようなことは先ず無い。きっとこの出来事は先の戦いへの活力となるだろう。
「さて、そろそろ行きましょう!」
俺の言葉に皆真顔で頷き、共に来た道を駆けて戻ることに。
その途中に事の顛末を皆に説明し、情報の共有を図る。すると……
「はぁ……アナタって、本当に無茶苦茶ね……」
「……え?」
事の顛末を話した後、ため息を吐くイズナと顔を引きつらせるメイリン達、そしてそんな5人を見て不思議そうに首を傾げる俺であった……
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