上 下
100 / 128

第100話 自信

しおりを挟む

「くっ、このままじゃ……」

 良策が考えつかず焦りを感じ始める。
 その焦りはこのままではギンが負けてしまうからでもあるが、何よりこの後に支援せねばならない南門と東門のことも見据えているからだ。
 そして、時間が経てば経つほど全てが不利になることを理解しているからでもあった。
 だがそんな焦るなか、握り締めている左拳を優しく包み込むように両手を添えられる。

「大丈夫です……私ちゃんは信じてるです……」

 俺の左拳を両手で優しく包み込んだのはムツコであった。
 驚きながらもムツコの方を振り向くと、互いの目と目が合う。
 ムツコの瞳には一切の迷いがなく、言葉通りに俺を信じていることが分かる。
 出会って間もないのに何故信じられるのだろうか? ムツコに対して特段何かしたわけでもないのに。
 でも今までに人から信じられることなんて片手で数えられるほどしか無かったからとても嬉しい。
 しかも、心の奥底から何かが沸々と湧き上がるのが感じ取れる。その何かとは……自信だ。
 ニカナを手に入れてから体験したことが自信に繋がっていて、それを信じてくれる人がいて、それが更なる自信へと繋がっている。あとはこの自信を形にするだけだ。
 ムツコの瞳を見つめながら自信を高めていると、不思議そうにムツコが口を開いた。

「……あれ? よく見ると……」

 ……ん? 俺の顔に何か付いている……? 確かに戦場を駆け回りながら魔物達を殲滅しているので、汚れや返り血が付着していてもなんらおかしくはない。汚れ防止として清潔魔法の付与をしているわけでもないし……

「瞳が……いえ、なんでもないです! それより今は魔物をどうにかしなきゃです!」

 アヌビシオの方へ振り向き「むむむ……!」と策を考え始めるムツコ。
 俺としては話の続きが気になるところだが、ムツコの言うことは正しい。なので、早くアヌビシオを倒して話の続きを聞くとしよう。

「何か……そういえば、さっき何かを感じたんだよな……」

 先程、清潔魔法の付与を考えた時に何かを感じたのだ。それがきっと糸口に繋がるハズ……そう直感した。


「……!! そうだ! 付与だ!」

「ひぇっ!?」

 急に声を上げたので隣にいるムツコが吃驚してしまったようだ……すまない。
 けれど、これでどうにかなるかもしれない! あとは上手くいってくれれば!

「破邪の光よ、力を授けん! エンチャントホーリー!」

 ギンの動きを先読みし、そこへ向けて付与魔法を唱える。
 付与魔法ならばどちらに当てても直接的なダメージはないのでリスクを抑えられるのだ。
 すると、付与魔法はギン……ではなく、アヌビシオに当たってしまった。

「あっ! 付与魔法が魔物に!?」

 ムツコは慌てて声を上げた。
 何故なら付与魔法は対象の強化に使われる魔法であるため、これではアヌビシオが強化されてしまうと考えたからだ。しかし、実はそれこそが真の狙いである。


「ギャァァァーッ!?」

 突然アヌビシオは苦痛の表情を浮かべて悲鳴を上げた。
 それは全身が青白色の光に覆われ、纏っていた漆黒が靄となって身体から離散し始めたからだろう。つまりは弱体化したのだ。
 強化されるはずが逆に弱体化したアヌビシオ。これならギンの攻撃もきっと効くハズ。そして……

「ギン、今だっ!!」

 好機を掴むべく、大声で叫んだのであった……
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

俺だけレベルアップできる件~ゴミスキル【上昇】のせいで実家を追放されたが、レベルアップできる俺は世界最強に。今更土下座したところでもう遅い〜

平山和人
ファンタジー
賢者の一族に産まれたカイトは幼いころから神童と呼ばれ、周囲の期待を一心に集めていたが、15歳の成人の儀で【上昇】というスキルを授けられた。 『物質を少しだけ浮かせる』だけのゴミスキルだと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 途方にくれるカイトは偶然、【上昇】の真の力に気づく。それは産まれた時から決まり、不変であるレベルを上げることができるスキルであったのだ。 この世界で唯一、レベルアップできるようになったカイトは、モンスターを倒し、ステータスを上げていく。 その結果、カイトは世界中に名を轟かす世界最強の冒険者となった。 一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトを追放したことを後悔するのであった。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜

月風レイ
ファンタジー
 グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。  それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。  と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。  洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。  カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

処理中です...