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第85話 2つの雷電
しおりを挟む「なっ、何よ! 何がおかしいの?! さっきから笑って!」
イズナは何がおかしいのかを理解できずにいたので、実は全く同じ提案をしようとしていた旨を伝えたところ「えっ、そうだったの!?」と驚きの表情を見せる。
その驚きの表情がまた可愛く見えるものだから自然と顔が微笑んでしまい、それに気づいたイズナは再び誤魔化そうと、今度は魔法を唱え始めた。
「はっ、早く助けに行かなきゃ! て、纏雷! ……ほらっ、アナタも魔法を唱えなさいよ!」
「……」
(あぁ、可愛らしいな……って、ダメだ! 俺にはセリーヌが! ……いや、もう恋人じゃないからいいのか……?)
イズナの顔を見つめつつ、そんなことを考えていると、当のイズナは瞬時に俺の目の前まで来て一言。
「ねぇ、どうしたの? 私の顔に何か付いてる?」
確か、以前にも似た状況があったような……
なんとなく既視感を覚えたが何かまでは思い出せず、この状況に照れては狼狽える。
「だっ、大丈夫です! ただ考え事をしてただけなので!」
「ふーん、大丈夫ならいいんだけど……それより魔法は?」
「そ、そうでした、すみません……ふぅ、それじゃあ魔法を唱えます! 纏雷!」
「えっ、えぇぇぇーっ!?」
気持ちを切り替えて纏雷を唱えた途端、目が飛び出るかと思うほどに驚くイズナ。
ある程度の想定はしていたが、その想定を遥かに上回るほどの驚きようであったため、俺の方は寧ろ冷静になれた。
「さぁ、早く行きましょう!」
「え、えぇ……」
今一つ腑に落ちないといった表情を見せるイズナではあるが、それでも遅れることなく俺に付いてきており、結果的には時間を掛けずに魔物の群れの最後尾まで辿り着けた。
どうやら魔物の群れは縦に伸びているようで、そのことも相まって早く辿り着けたのだろう。
「ねぇ、これからどうするのよ……さっきより倍以上いるわよ、魔物……」
「そうですね……さっきの3倍はいますし……だけど、なんとかしてみせます!」
「凄い自信ね……分かった、アナタに任せるわ!」
イズナからの信頼を得ることができ、魔物達をどう倒すか思案していると、いつの間にか最後尾を追い抜いて中間辺りまで辿り着いていた。
てっきり魔物達に襲われるものかと思ったが、そんな事態にはならず、魔物達はひたすら前だけを見据えて駆けている様子。
「並行に走ってても襲われないのか……それなら、遠慮なく倒させてもらう! 雷牙!」
俺の周囲に短刀を象った雷電が次々と発生し、100本に達したのを見計らい広範囲に放つ。
すると、雷牙に直撃した魔物は雷撃により倒れ、それに触れた魔物も感電して雷撃を浴び、そのように次々と連鎖していくうちに、僅かな時間で中間より後方にいた魔物達を倒すことができた。
「凄い! これならイケるんじゃない?!」
「いや、まだです……まだ半分残っています……」
決して油断などせず、再び魔物の群れを追いかけていくと、中間より少し前方にいた魔物達は異変を感じて急停止する。
その数はおよそ50匹で、残りの100匹ほどは止まらずに5人の冒険者達を追ったままだ。
「やっとこっちを向いたか……でも、倒させてもらう!」
そう呟いたあと、即座に足を止めて左手を前方へ突き出すのであった……
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