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第79話 風雷一身

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「おわっ!? いっ、いきなり!?」

 次の布陣へ向かう近道として、倒した魔物の群れのすぐ脇を通り過ぎた途端、前触れもなく3匹のシャムスリーパー達が背後から襲い掛かってきた。
 どうやら奥の手である「死んだフリ」を発動させていたらしく、魔力や気配を完全に断って襲う機会を狙っていた模様。

「い、今は構うヒマなんて……くそっ、邪魔しないでくれ! 水刃!」

 シャムスリーパー達の奇襲を左方へ跳んでなんとか躱し、愚痴を言いつつも透かさず水刃で3匹を横一文字に斬る。
 それにより大量の返り血を浴びて全身を鮮血に染めるが、構うことなく再び駆け出した。
 着くまでにはまだ1000mはあるので少しの時間も無駄にはできず、駆け抜けながら清潔魔法を唱えることに。

「ゔっ!? 凄く血生臭い……早く綺麗にしないと……く、クリーン……」

 悪食のシャムスリーパーは血肉が臭いことで有名であり、あのゴブリンの血よりも臭いというから驚くしかないだろう。
 しかし、そんな臭いものでも清潔魔法であるクリーンを唱えれば匂いは忽ち消えて、何事も無かったかのように綺麗になる。

「ふぅ、これで綺麗になったな……あとは少しでも早く着くように駆け抜けるだけだ! ……って、そういえば、疾駆と纏雷の両方を唱えたらどうなるんだ……? ん!? これは……!」

 少しでも早く着けるようにと思った瞬間、降って湧いたように何かを閃き、その何かとは「併魔解放」という超絶スキルであった。
 そのスキルを持たずに別属性の魔法を重ねてしまうと、互いに反発し合って片方が無効となったり、最悪の場合は拒絶反応を起こしてショック死する可能性もあるらしい。

「怖いけど、早く着けるのなら……よしっ、行くぞ! 纏雷!」

 一旦その場に止まり、既に疾駆を使用しているところに纏雷を唱えて雷電を纏うと、体内で2つのチカラが重なる度に反発し合い、互いが有利に立とうとしてどちらの効果も不安定となる。
 だが先程得た併魔解放の効果で重なっても反発しなくなり、突然2つの魔法が効果を発揮して身体が羽のように軽くなった。

「軽い……これならすぐに着けそうだ! でも、転ばないように気をつけてなきゃな……転ぶと色々痛いから……」

 石に躓き転んだことを思い出し、あの時の惨めさが蘇って両足が動かなくなる。

「あ、あれ? 足が動かない……!? そ、そういえば、あの時はどうやって立ち直ったんだっけ……確か、ニカナから声が聞こえて、それでニカナを握って、それから……あっ!」

 立ち直る方法を思い出したのでニカナの入った御守袋を握ろうとしたその時、ニカナから声が聞こえてくる。

「ーー」

「その必要は無い? 今のお前なら大丈夫だ? ニカナ、それは一体……?」

 ニカナからの返答はなく、またいつもの沈黙に戻るが、それでも立ち直るには充分で、自然と両足が動く。
 そしてその動きは徐々に速くなり、最終的には今までよりも速い速度で駆け抜けていた。

「速い! なんて速さだ! あまり効果は続かなそうだけど、これだけ速ければ充分だ! 転ぶ気配も無いし、これならもう痛い思いもしないハズ!」

 あまりに速い移動速度と、惨めにならずに済むという嬉しさが合わさり、思わず笑みを浮かべるのであった……
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