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第70話 想いの襷
しおりを挟む「き、来た! ぐっ、うぉぉぉっ! お、重い……!」
吹き飛ばされてきた何者かはどうやら冒険者のようで、とても体格が良いために重く、見るからに頑丈そうな筋肉を身体に纏っている。
その姿はいかにも脳筋らしい風貌で、余程打たれ強さに自信が……ん? 以前にも全く同じことを思ったような……?
そう思う間に、衝撃で後方へ足を引きずられながらも受け止めに成功。
「……ふぅ、どうにか受け止められたか……でもこの人って……あっ! トサックさん!?」
門外から吹き飛ばされてきたのはCランカーのトサックであり、きっと魔物にやられたのだろう。
それにしても、衣服を合わせれば150kg以上はあるだろうトサックを軽々と吹き飛ばすほどの魔物がいるとは思わなんだ。
これは油断できないなと用心すると、トサックが助けられたに気づき、俺の顔を見て一言。
「す、すまん、助かった……なっ!? お前はあの時のFランク!? そ、そんな……お前が俺を受け止めたってのか……!? い、いや、コイツならもしかすると……」
俄かには信じ難いといった表情を見せるトサックだが、覆すようにコイツならあり得るかもという納得の表情に変わり、それはあの時の勝負を思い出したからに違いない。
そして、先程の受け止めで俺の実力を再確認したトサックは俺に嘆願する。
「今はBランカーの奴らが魔物どもをギリギリのところで抑えてやがるが、それも長くは持たねぇ……お前に言うのは筋違いかもしんねぇけど、それでも頼む、お前しかいねぇんだ……なぁ、頼む! この街を守ってくれ!」
トサックからの熱意ある嘆願を受けて、俺の中にある熱い何かが込み上げてくる。
その熱い何かはこの街や人、そして信頼を守るという想いであり、己が掲げる信念でもあった。
それによりトサックも俺と同様の信念を掲げていることが分かり、トサックの想いを引き継ごうと決心して口を開く。
「任せてください! トサックさんの想いは俺が引き継いで、必ずこの街を守ってみせます!」
俺の言葉を聞いたトサックは安堵した表情を見せて「あぁ、あとは任せた!」と俺に想いの襷を渡し、それを受け取った俺は早速立ち上がり門下を見据える。
すると門下には1匹の魔物が佇んでおり、俺と目が合うなりこちらへ向けて歩き出す。
門下では日陰となり見えずにいたが、陽光を浴びて現すその魔物はダイアウルフよりも一回り大きい「ジープドッグ」という脅威ランクCの犬系魔獣であり、全身が灰毛で覆われているなかで朱色の瞳だけが怪しく輝いていた。
「あ、アイツの馬鹿力には気をつけろ……」
トサックの忠告はもっともで、ジープドッグは犬系魔獣でありながら爪牙による斬撃よりも張り手や体当たりの方が強力かつ脅威と言えるほどの膂力を持っているのだ。
ただ本来はとても温厚で人によく懐くため、牧畜魔犬としても活躍するほどに従順な魔獣のはずなのだが……
「そんな魔獣が何故こんなことを? まさか、これも統率者の仕業なのか? もしそうなら何が目的で……?」
そう考えると余計に統率者の存在が気になってしまい、できれば会って話がしたいと思い始める……がその前に、目の前の強敵をどうにかせねばと気持ちを切り替えるのであった……
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