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第29話 ごめん
しおりを挟む「……なぁ、セリーヌ……」
「うん? なに?」
「あ、の、さ……」
(ま、マズい、声が……)
「??」
再びセリーヌの顔を見ると今度は緊張により声が出せなくなり、その姿を見たセリーヌも不思議そうにしている様子。
(……そうだ、アレを試してみよう……)
急にその場で立ち止まり、俺は自己流の呼吸法で緊張を緩和することに。
「スゥーッ……ハァーッ……スゥ」
俺式呼吸法により、どうにか声を出せそうだ。
セリーヌも俺の言葉を待つかのように立ち止まっているので、待たせてはいけないと思い声を出した。
「あ、あのさ……」
「……うん」
俺の真剣な表情を察したのか、セリーヌの顔も真剣な表情へと変わる。
そして、とうとう疑問の答えを尋ねるわけだが不安と緊張で逃げ出したい気持ちが膨れ上がり「やっぱりやめとこう……どうせ碌な結果にはならないし……」そう思い始めてしまう。
しかし「それでもセリーヌは待ってくれているんだから、これ以上格好悪い姿は見せたくない!」という凄くちっぽけな意地を貫くために、ゆっくりとだが口を開く。
「え、えっと、2日前に突然俺はフラれたわけだけど、その理由がどうしても知りたくて……」
「!? そ、それは……」
「!?」
(あの物怖じをしないセリーヌがこんなに動揺するなんて……)
この時、ヒュドラと相対した時よりも動揺して狼狽え出す。すると……
「そ、それは……あっ! ギルドだ!」
セリーヌが指を差しながら、冒険者ギルド付近まで来ていたことを告げる。
それに釣られ俺も冒……ギルドの方を見てしまい、結局はフラれた理由を聞くことは叶わなかった。
(今更、聞く雰囲気じゃないよな……)
残念に思いつつ、理由を聞くことについては一旦諦めた。
「は、早く行こうよ!」
「あ、あぁ……」
セリーヌは急かすようにギルドへ向かい出すが、その様子は明らかに動揺している。
それでも俺は、理由を聞かずにセリーヌの後を追うことにした。
(動揺するほどに話し難い理由なのか……?)
新たな疑問を抱えつつセリーヌの元へ向かい、そして追いつく。
「それじゃあ、入ろっか?」
「ちょっ、ちょっと待った!」
セリーヌの動揺する姿は既になく、いつもの堂々とした姿でギルド内へと俺を誘う。
しかし、今の俺は蘇る恐怖により身体を動かせずにいた。
「ご、ごめん……やっぱり、無理かも……」
ニカナならもしやと思ったのだが無理であることを悟り、諦めの言葉を吐くしかなかった。
「……そう、分かった……」
「セリーヌ……本当にごめん……」
「……ううん、いいの!」
そう声を上げると、突然セリーヌは俺の背後へ回り込む。
「へっ!? せ、セリーヌ!?」
「キュロス、ごめん!」
セリーヌは元気良く謝りながら俺の背中を押して、ギルド内へ突き飛ばす。
「うおぉぉぉーっ!?」
驚き叫びながらギルド内へ進入して転ばぬようどうにか踏み止まると、ギルド内の冒険者達は皆一斉に俺を見ながら茫然としている。
「は、ははは……」
当然の如く、俺は苦笑い。
だがこの時、俺にしか聞き取れないほどの小さな声でセリーヌは呟く。
「……キュロス、本当にごめん……」
その呟きが聞こえた瞬間、あの時の怪しげに微笑むセリーヌの横顔を思い出していた……
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