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第9話 迂回
しおりを挟む「うーん、どうしよう……何か方法は……?」
グラスウルフの件で悩み続ける俺。
一応、収納アイテムであるアイテムポーチを所持してはいるが、グラスウルフほどの大きさとなると収納許容量を一気に超えてしまう可能性が高く、無闇矢鱈に試すわけにはいかない。だがその時……
「……!! コレは……!?」
突然あるイメージが流れ込む。
ソレは明らかに不自然な閃きではあったが、俺はソレに名称を付けてそのまま唱えた。
「黒箱!」
黒箱の効果により、グラスウルフは俺の影に飲み込まれ収納されることに。
どうやら闇属性の収納魔法が発動した模様。
「まさか、俺が魔法を使えるなんて……」
流石にこれには驚きを禁じ得ない。
そもそも魔法適正が皆無の俺には魔法自体が使えないハズ……!? と驚きながらも、時間が勿体無いので歩を進めることにした。
「うーむ……分からん……」
歩を進めながら考え込む俺。
それは、ニカナが頭上に降ってきたのは俺の固有スキルが関係しているのか? という疑問に至ったからだ。
俺の固有スキルは『一度きりの幸運』という地味なスキルであり、レアスキルだが位は泣けるほど低い。
因みに〝幸運〟の上には〝強運〟があり〝強運〟の上には〝豪運〟が存在する。
つまり〝幸運〟程度では誰も見向きなどしないということである。
「固有スキルがせめて〝強運〟であれば、俺の人生はまた違ったのかな……」
無い物ねだりで心が沈んでしまった……が、それでも絶対に歩みを止めたりはしない。
今までに俺を嘲笑い貶してきた奴らを見返すチャンスが訪れたのだから。
こうして考え事に夢中となっていた。すると……
「えっ、魔物!? いつの間に!?」
あれこれと考えているうちに、いつの間にか大勢の魔物に囲まれていたようだ。
「ピンクモンキーか……妙だな……」
目の前にいる『ピンクモンキー』という魔物は、脅威ランクFの賢く温厚でとても愛らしい猿系魔獣である。
そして本来なら人間を襲うことはしないはずだが、今回は何か様子がおかしい。
「キーッ! キキーッ! キッキキーッ!」
ピンクモンキーたちが激しく威嚇している。
その行動は何かを守ろうとしているのだろうか? 多分にそんな気がしていた。
するとその時、頭の中に不自然な閃きとある単語が流れ込む。
「……!! これは……魔動物言語理解……?」
「キーッ! キキーッ! キッキキーッ!」
「……なるほど、分かった。このナワバリから出て行くから安心してくれ……」
何故かピンクモンキーたちの言葉が理解でき、それはきっと先程ニカナから得たスキルの効果に違いない。
そして話から察するに、どうやら大人のピンクモンキーたちは子どもを守っているようで、そのことを知ったからにはこれ以上の直進はせずにこのナワバリから抜けて迂回しようかと。
そう考えて行動に移そうとした途端、ピンクモンキーたちの激しい威嚇は突如として鳴りを潜める。
恐らくは俺の取る行動を予測し、理解したからだろう。
(ピンクモンキー……やっぱり賢いし可愛いな……)
ピンクモンキーたちの姿を見て癒された後、改めてヒュドラの巣窟へ向けて進み出す。
「ふふっ、こういうのも悪くないな……」
結果として少し遠回りにはなるが、それも冒険の醍醐味である。そう心で感じながら先へ進むのであった……
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