放課後、秘めやかに

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二月某日【はやくここまで堕ちてきて】蓮見

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 二月になった。
 三年は自宅待機で、学校へ行くことはほとんとなくなった。何日か登校日があって、他は各自自宅で勉強なりなんなり、ということになっている。
 大学受験が本格化する時期だから仕方ないが、早々に合格した俺は三月の最後の期末テストの勉強、くらいしかやることがなかった。
 他は、というと、ろくに会えない鴫野のことを考えて、ひとりですることが増えた。
 しかも、鴫野に酷くされる妄想で、ケツを弄りながら抜くのが癖になっていた。毎日とは言わないが、結構な頻度で。
 乳首を捏ねまわされて、中指と薬指で前立腺をやらしく捏ねられて、いじめられて。ちんこも一緒に弄られて、射精する。その後はケツを思い切り割り開かれて、鴫野のちんこを入れられる。皺が伸び切るくらい、鴫野の雁首を飲み込んで。
 まあ、一人で全部は出来ないので、いつもなんとなく不完全燃焼で、それが余計にフラストレーションを溜めていた。
 こんなの、知られたら呆れられる。引かれて、嫌われるかもしれない。
 わかってるのに、止められない。
 鴫野、はやく、こんなやらしい俺のところまで、堕ちてきて。
 そんなことを考えながら、俺はまた、妄想の中の鴫野とよろしくやる。だけど、俺の妄想の中の鴫野は、いつだって俺の想像の範囲でしか動いてくれない。当たり前だけど、いい意味で俺を裏切ってはくれない。
 もっと俺を翻弄して、ぐちゃぐちゃにしてほしい。
 それができるのは、本物の鴫野だけだ。
 早く、本物の鴫野に会いたい。
 会いたいって言えば、きっと鴫野はいつだって迎え入れてくれる。それを邪魔するのは、俺のちっぽけで怖がりなプライドだ。鴫野にはあんなこと言ったくせに。
 今日はちょっと無理ですなんて言われたら、多分立ち直れない。
 だから俺は、俺から鴫野に会いたいって言えずに、ひとりで俺を慰める。
 言ってしまえば、楽になるのに。

 そしてやってきた登校日。
 やっと鴫野に会えるのが嬉しくて、しなくてもいい早起きをしてしまった。
 授業がある訳でもなく、ロングホームルームがあって、その後は各自自由。帰る奴もいれば、勉強していく奴もいる。
 俺はというと、東堂の勉強を見守っていた。東堂は俺と勉強したいらしい。放課後までやることもなかったので、俺は東堂に付き合うことにした。
 東堂の質問に答えたり、採点したり、問題が解けたら褒めてやったり。これ、大学に行ったら家庭教師できるんじゃないかと思ってしまう。
「ちょっと休憩」
 ペンを置いて、東堂が背伸びした。
 いつの間にか、時刻は昼前になっていた。
「昼メシ、一緒に食おうぜ」
「おう」
 昼飯は東堂が買ってくれた。いいと言ったんだけど、付き合わせて悪いからと購買でサンドイッチを買ってくれた。しかも二個。東堂は一番高いやつを買ってくれた。
 購買の帰り、バレンタイン前だからなのか、やたらチョコレートやら甘いものやらを貰った。クラスの女子、バスケ部のマネージャー、女子バスケの子、他にもまあ色々。甘いものは嫌いじゃないけど、これは流石に多い。東堂と一緒に少し食べたけどまだたくさん残っていた。
 鴫野、食うかな。
 ふと、そんなことを考える。早く会いたい。
 その後も、何だかんだ夕方まで、東堂の勉強に付き合った。
 各教科みっちりやって東堂は満足したようで、嬉しそうに帰っていった。東堂を見送って、貰った可愛らしい紙袋をいくつも提げて、俺は鴫野との待ち合わせ場所に向かった。

 鴫野はいつもの場所で待っていた。
 学校で会うのは久しぶりで、少し緊張する。そんなに長く会っていないわけでもないのに、制服姿の鴫野がなんだか新鮮に感じる。
「お待たせ。元気そうだな」
「先輩」
 鴫野が笑った。その笑みに、俺の心臓は柔らかく脈打つ。久しぶりに見る笑顔だった。
「鴫野、チョコ好き?」
 食べきれないチョコレートの袋をいくつも提げた俺は、鴫野が道連れになってくれないかとお伺いを立てた。
「まあ、あれば食う感じです」
「はい。食うの手伝え」
 ドーナツが食えたから大丈夫だろうと思ってたから、まあ予想通りだった。持っていた紙袋の半分を差し出すと、鴫野は俺の顔と紙袋を見比べながら複雑そうな、何か言いたげな顔をしている。
「先輩、そういうことしてると刺されますよ」
「刺されねーよ」
「変なもん入れられますよ、チョコに」
 こいつ、なんでそんなこと知ってるんだよ。でも流石にそれは嫌だ。
「それはヤダ……」
「ふふ、俺も一緒に食べたら、共犯っすね」
 鴫野は笑う。共犯、という響きはなんだかとても甘いもののように響いた。
「じゃあ、先輩、これ」
 紙袋が減ったことに喜んだのも束の間。今度は鴫野に紙袋を渡された。
「バレンタイン近いんで。ブラウニーですけど」
「ブラウニー」
「あれ、甘いもの、だめすか」
「いや、食えるけど」
 まさか、鴫野からもらえると思っていなかった。嬉しい誤算だった。
「くれんの?」
「はい」
「ふふ、さんきゅ」
 受け取った袋を覗くと、四角く切られて透明なフィルムに丁寧に包まれたブラウニーが見えた。
「手作り?」
「はい。昨日、作りました」
「誰が?」
「俺が」
「は……?」
 紙袋と、鴫野の顔を交互に見る。
「お前が作ったの?」
「あ、はい」
「なんか、すげーな」
 こいつ、こんなかわいいものも作れるんだな。ちょっと意外だった。
「先輩、ちょっと部室行っていいすか」
「いいよ。何すんの?」
「部室に、置いてきたいんすよ」
 鴫野の手には大きめの紙袋があった。
 覗くと、タッパーに入ったブラウニーが入っていた。
 鴫野と、写真部の部室にブラウニーを持って行った。
 部室には部長がいるだけだった。鴫野のブラウニーを渡して少しだけ世間話をして、鴫野の部屋へ向かった。

 鴫野の部屋。
 後ろの支度をした俺は裸になって壁に凭れた鴫野に後ろから抱かれていた。
 鴫野ももう裸で、肌の触れ合う部分で体温が混ざって気持ちがいい。
 鴫野の指先が、既にはしたなくひくついている俺の窄まりを撫でた。仕込んだローションが滲んで、鴫野が指先で撫でるたびにくすぐったいような快感が生まれる。俺の身体はそれに喜んで、また孔を戦慄かせてしまう。
「ここ、柔らかいっすね」
 鴫野が指先を押し込んだり離したりして、焦らすみたいに窄まりを弄る。
 散々自分でほぐしてあるから当たり前だった。
「ひとりでした? こう先輩」
 耳元に吹き込まれる鴫野の甘い声が吐息が耳の縁をくすぐっていく。こそばゆくて、俺は思わず首をすくめた。
「ん、した」
 今更隠すことでもないので、俺は正直に言った。正直なところ、恥ずかしさはある。だけど、もう散々セックスをしている仲で、鴫野だって俺でしてるんだから、俺が隠すのもなんだか無意味な気がした。
「俺のこと考えながら、ここ、弄ったの?」
 ゆっくりと、鴫野が骨張った指をひくつく窄まりに埋め込んでいく。言い方がなんだか変態くさくて笑ってしまう。
「ん」
 異物感に、俺は思わず小さく声を上げた。それはすぐに馴染んで、俺の吐息を甘く溶かしていく。
「どうやってしたの」
 甘えるみたいな声が耳元から鼓膜を震わせる。息遣いまで聞こえて、心臓が跳ねた。鴫野が、俺に興奮してる。鴫野が興奮してることにまた俺の身体は昂ってしまう。
「っ、ケツ、弄りながら、ちんこ触って、お前に、ひどくされるの、想像、して」
「待って、先輩」
 鴫野が俺の顔を覗き込む。目が怖い。ちょっと待て。なんで怒ってんの?
「先輩、ひどくされたいの?」
 鴫野の声は少し震えていた。なんか、誤解されてんのか?
「ん、や、いてーのは、やだ、けど、お前に、雑に抱かれて、獣みてーなセックス、したい」
 それなのに、俺ときたらぞくぞくと背筋を駆け上がる甘いものに身体を震わせて、掠れた声ではしたない願望を口にしていた。
 胸の奥に押し込めていたものが、溢れ出して止まらなかった。上手く、全部言えたかどうかわからない。言いたかったことが伝わったかもわからない。
「はー、あんた、ほんと」
 鴫野が項垂れた。額を肩口に押し付けて、深く息をつく。
「ひいた?」
 流石にこれはなかったかなと思う。でも、嘘をついたって意味はないから、こう言うしかなかった。
「引くわけないっしょ、逆ですよ」
 鴫野に抱きしめられる。
 濃くなった温もりと匂いに、俺はまた昂る身体を抑えきれない。
「すき、先輩」
「引かねーのかよ」
 そんな鴫野にちょっと引く。だけど、嬉しかった。
「俺だって、妄想であんたに色々してんのに、引くわけないでしょ」
 お前もかよ。と思って少し笑った。
 まあ、俺も鴫野も健全で不健全な男子高校生だから、仕方ない。もう何もかも曝け出して、鴫野を浴びて、心の底まで鴫野でいっぱいにしてほしい。
「けだものみたいなセックス、したいんでしょ」
 耳元で甘く低い声に囁かれると、俺の正気は容易く揺らぐ。そうだ。俺は鴫野にぐちゃぐちゃにされたい。いっぱい触られて、涙とか涎とか汗とかに塗れて、鴫野に胸の奥まで引っ掻き回されたい。
「ぐちゃぐちゃになって、こう」
 低く唸るみたいな鴫野の声を聞いたら、もう駄目だった。全部、鴫野に明け渡したくなってしまう。
「ぐちゃぐちゃになって、俺のところまで堕ちてきて」
 鴫野も同じようなことを考えてて、安心した。
「おれじゃないと、ダメになってよ」
 そんな切実さを滲ませた声が聞こえて、俺は頬を緩めた。
 心配しなくても、もうお前じゃないとだめになってるよ。
 答える代わりに、鴫野の腕に擦り寄った。
「みきたか」
 腰には鴫野の硬いものが当たっている。貪欲な俺の身体は、もうそれが欲しくて仕方ない。なのに、鴫野はまだそっちをどうこうするつもりは無さそうだった。
 鴫野の左手が俺の左の乳首を捏ねる。右手は中指と薬指で俺の中を掻き回す。二本の指で、前立腺を執拗に捏ねられる。
 俺の左手はちんこを扱いて、右手で右の乳首を弄る。
 鴫野の手と俺の手で、俺の身体から快感を引き摺り出していく。自分で呼び起こす快感と、鴫野の手で引き出される快感で身体中を埋められて、気持ちよくて溶けそうだった。
 鴫野と俺の共同作業。夢のフルコースだ。鴫野の手から与えられる全部気持ちいい。鴫野の手は、もうどこがいいのか知り尽くしている。たまにわざと気持ちいいところを外すのが小憎らしい。
「ん、みきたか」
「こう、気持ちいい?」
「ン」
 鴫野の指が乳首を捏ねる。縮こまって小さくなっているのを指先で優しく捏ねて、摘んで、指先だけで弄り回される。生まれる快感は腹の底に溜まって、鴫野が捏ねる前立腺と合わさって俺の腹の底の火種を煽っていく。自分で触るのよりもずっと気持ちいい。
 腹の中をいじくる鴫野の指は、おれの前立腺をしっかり捉えて離さなかった。膨らんだしこりをゆっくり、輪郭をなぞるように撫でていく。ねっとりとした動きで押し込みながらなぞっていくせいで、俺は甘ったるく喘ぐしかない。壊れたみたいに先走りを垂らす俺の昂りは、射精したくてはしたなくしゃくりあげる。
「みきたか、いきたい」
「いいっすよ。いってみせて」
「っ、く」
 二本の指が、しこりを押し込む。
「っあ!」
 俺の昂りが跳ねて、白濁が噴き上がる。
 ろくに擦っていないのに、俺は射精していた。
 蕩けた身体が左に傾いて、顔を上げると、鴫野に唇を奪われる。深く重なって、舌を絡めて。唾液を混ぜ合わせて、俺はそれを全部飲む。鴫野の味がして、胸が満たされる。
 すっかり勃ち上がって震える昂りからは、とろとろと白濁が垂れ落ちる。幹を伝うそれすら快感として拾い上げて、俺はもう限界だった。
 ゴムを付けていなかったことを今更思い出す。最近こんなのばかりだ。鴫野のシーツを汚す罪悪感も、それに興奮してしまう背徳感も、みんなこの行為のスパイスでしかない。
「みきたか」
 このまま入れられたら、どうなるんだろうという好奇心が頭を擡げる。所謂背面座位だ。
「な、みきたか、このまま、いれろよ」
「このまま、すか」
 鴫野は後孔から指を抜いて、凭れ掛かる俺の身体を脚に乗せた。
 背後で、ゴムをつける音と、ボトルからローションを垂らす音が聞こえる。それだけで俺の胸は期待で鼓動を早める。
「なあ、おれの、は」
 ゴムはつけないと、という気持ちはある。だからそうやって訊くけど、実のところ、つけないで出すことを覚えてしまった俺はその誘惑に勝てない。出したもので鴫野の手を、シーツを汚す背徳感の味を知ってしまった。
 そんな俺のことはお見通しなのか、鴫野は。
「こうはつけないで、全部出してみせて」
 鴫野の欲を滲ませた低音が耳元に響いて、脳髄まで溶かされる。
「ン……ッ、バカ」
 そんな申し訳程度の悪態をついて、俺は腰を少し浮かせた。ひくつく孔に鴫野が先端を押し当てて、ゆっくり埋めていく。
 熱くて硬いものが前立腺を弾いて、何もしなくても俺の自重で、鴫野はずるずると奥まで入ってくる。
「あ、ぅ」
 そっちに気を取られて他がおざなりになるけど、奥まで届いた鴫野に襞を押し上げられるとその快感だけで俺はいっぱいになってしまう。
「ん、く」
 圧迫感はあるけどそれが気持ちよくて、俺は甘えた声を漏らす。少しずつ緩む奥の窄まりを捏ねるように鴫野がゆったりと腰を揺する。
 勃ち上がり震える俺の昂りを擦ろうとするけど、気持ちよくて手が思うように動かせなくて、自由の利かない手を下手くそに動かす。中で鴫野から与えられる快感が上乗せされて、溶けそうだ。
「あう」
 やばい。
 ゆっくりなのに、逃げ場がないから、快感を逃せなくて苦しい。苦しいのに気持ちよくて、俺はもっと欲しくて強請ってまう。
「ッ、みき、たか、はやく、おく」
「こう、バックでしていい?」
 鴫野とするときは圧倒的に正常位が多い。鴫野が顔を見ながらしたがるからだ。後ろからすることはあまりない。だから、少し興奮してしまう。
「ン、いい」
 俺が頷くのを待って、鴫野は俺の身体を支えながら俺の身体をベッドの上に倒す。
「っは」
 ずるりと鴫野が抜けて、俺は堪らず声を上げた。出ていく時の、大きな質量が中をこそいでいく感じが好きだった。
 シーツの上に突っ伏した俺は、荒い息を隠しもせず、ケツだけ高く上げた間抜けな格好で鴫野を誘う。一度受け入れてしまったそこは、物欲しそうに続きをねだっている。
 俺は鴫野に見えるように両手で尻の肉を拡げて、ひくつく窄まりを曝す。
 鴫野の視線を意識してしまって、窄まりが物欲しげにひくつく。仕込んだローションが滲んでいるのがわかる。
「みきたか、はやく」
「っ、ほんと、あんた、そういうとこ」
 鴫野の荒い息遣いが聞こえて、鴫野の興奮が伝わってくる。
「エロくて、好き」
 鴫野の、低く響く呻くような声。抑えつけているものをひしひしと感じて、俺の身体はまた少し熱を上げた。
 期待に戦慄く窄まりに、鴫野の逞しい猛りが再び押し当てられる。薄い膜越しにも、それがさっきよりも熱く硬くなっているのがわかる。俺は無意識に溜め息をついていた。
 ゆっくり入れられて、半分を過ぎたくらいで奥の窄まりまで一気に突き入れられた。それはちょっとした衝撃で、俺は思わず喉を引き攣らせた。
 奥まで入ったところで尻たぶに掛かった手を外されて、手綱みたいに両腕を掴まれた。そのまま鴫野は腰を打ち付ける。鴫野らしくない、荒い動きで奥まで突かれる。
 この体制はやばい。身体が動かせないから、奥をガツガツと突かれて、生まれる快感の逃がしようがなくて、与えられるものをそのまま受け止めるしかない。
 ひくつく奥の窄まりは、力強く打たれて歓喜する。もうすぐ陥落しそうなのがわかる。物欲しそうにぱくぱく口を開けて、鴫野にしゃぶりついている。痛みはない。ただ気持ちがよくて、俺はただ甘ったるい声を上げるしかできない。
「先輩、ここ」
「ん、ぅぁ」
「気持ちいい?」
「ん」
 そんなの、気持ちいいに決まってる。
 まともな返事ができなくて、でもなんとか気持ちいいことを伝えたくて、シーツに頬を擦り付けながら鴫野の声に何度も頷く。
「ふ、すげ、吸い付いてくる」
 鴫野が、独り言みたいに低い声で呟く。その声がエロくて、俺は息を呑む。こうやって、雄を出してくるのずるい。
 鴫野は陥落寸前の襞をねちっこく捏ねる。焦らすみたいに、最後のひと突きがなかなかこない。
 不意に、鴫野は俺の腕をそっとシーツの上に下ろしてくれた。かと思えば、その大きな両手で尻の肉を鷲掴みにして、押し付けた腰をゆるりと回した。
だめだ。全部気持ちがいい。
 陥落寸前の肉襞は甘えるみたいに鴫野にしゃぶりついて、早く奥に入ってほしいとせがむ。
「気持ちいいね。こう」
「あ、う」
 口が閉じられなくて、溢れる涎でシーツを汚している。鴫野の指が尻の肉を雑に掴むその感じに、涎が止まらない。
 涎を溢れさせる俺は、シーツを湿らせてしまう。汚して怒られるかもと思って、俺はまた期待に孔をひくつかせてしまう。
 いつもなら引かれないように、上っ面を取り繕おうとするけど、こうなるともう何もできない。力が入らない身体は快感を欲しがって熱を上げていく。
「んぃ、あ……」
「こう、おく、入れるよ」
 待ち望んだそれに、俺は必死に頷く。声を出す余裕もない。
 とちゅとちゅと音を立てて陥落寸前の窄まりを小刻みに叩かれて、そこは少しずつ緩んでいく。
 早く欲しい。早く、一番奥まで。
 暴力的な、嵐みたいな快感で俺をぐちゃぐちゃにしてほしい。
「ふあ、みき、たか」
 俺の腹は期待で疼く。
 一際強く、鴫野が腰を叩きつけた。下生えの感触がわかるくらい深々と突き込まれて、襞は陥落。鴫野の張り詰めた熱い先端が、一番奥の柔い壁を押し上げた。
「っひ、あ」
 熱い飛沫がシーツに散った。
 ダメだ。また。
 鴫野が奥を捏ねるたびに、俺のちんこは壊れたみたいに潮を吹く。
「あ、や」
 気持ち良くて、声が上手く出せない。中は喜んで鴫野をきつく締め上げている。内腿が震える。
「こう、でる」
 一番奥の柔らかい壁に、膜越しに熱いものが弾ける。何度も、何度も、熱が弾ける。膜越しにもわかる熱さと勢いが柔い粘膜を叩いた。
 飛びかけた意識を引き戻すのは、それも鴫野だ。戦慄く粘膜を引き摺り出すように腰を引いて、一番奥から襞を捲るように抜けていく鴫野の猛り。抜けていくのが寂しくて、俺の中は必死に引き留める。かと思えば、奥まで突き入れられた。抜けそうなくらい浅い場所から、一番奥まで。鴫野は大きなストロークで、容赦無く中を擦る。引き出せば張り出した雁首が蕩けた粘膜をこそいで、突き入れれば一番奥の柔らかい部分を押し上げて、俺を絶頂まで攫っていく。
 飛びかけては引き戻され、俺の視界は白飛びして、もう鴫野にされるがままだった。荒々しい鴫野の突き上げに揺すられて、切れ切れに掠れた声が漏れるだけだった。
「こう、また、っく」
 中で鴫野が膨れ、熱いものが吐き出される。膜越しに肉壁を打つ、鴫野の熱いザーメン。
 中で脈打つ鴫野を感じながら、俺は意識を飛ばした。
 最後の方はもう、気持ちよくて何が何だかわからなかった。

 寝起きは最悪だった。
 喉はカラカラで、腰はだるいし、ケツは違和感がずっと残っていて、シーツはびしゃびしゃだった。
 自分の家ならまだしも、ここは鴫野の家だ。自己嫌悪がひどい。
「先輩」
 鴫野が俺を覗き込んでいた。心配そうに眉を下げて俺を見ている。
「お茶飲みます?」
「ん」
 掠れた声で答えた俺は鴫野にグラスを渡されて、お茶を一口飲む。こんなときも鴫野は甲斐甲斐しく世話を焼いてくれる。
 湿ったシーツに俺の体温が馴染んで気持ち悪い。なのに、身体は怠くて動きたくなかった。
「悪い、シーツ、汚した」
「いいっすよ。洗濯すればいいだけなんで。先輩こそ、身体大丈夫?」
「腰がだるい」
「ですよね。すんません」
「ふふ、いいよ」
 手を伸ばして鴫野の頬を撫でると、鴫野は静かに唇を寄せてきた。俺はそれに応じる。
 さっきまでの荒々しさが嘘みたいに、優しいキスだった。
「本物の俺はどうでした?」
「そんなの、いいに決まってるだろ」
 そんなわかりきったことを訊く鴫野の唇に噛みついた。
 そのまま、何度も啄むようなキスを繰り返した。
 あんなに荒々しく俺の身体を穿っていた鴫野がこんなふうに穏やかに触れてくるから、ギャップがすごくて俺は思わず笑っていた。
「ふふ」
「どうしたんすか」
「腹減った」
 小腹が減ったような気はしていたけど、どちらかといえば照れ隠しだ。鴫野にときめいてしまったのを誤魔化したくて、わざと素っ気なく言う。、
「チョコ、食います?」
「ん、食わせて」
「どれにします?」
 鴫野はテーブルの上に並ぶ紙袋を見た。俺が食べたいのはもう決まっている。
「お前の」
「え」
 鴫野は俺を見た。なんで今食うんすか、とでも言いたそうな顔だった。顔に出過ぎだろ。俺は先に食いたいタイプなんだよ。
「早く」
 もたもたしている鴫野を急かすと、渋々紙袋を持ってきた。
 俺が口を開けると、鴫野は包みから出したブラウニーを差し出す。俺は一口で食べた。
 濃厚なチョコの味がする。美味い。
「美味いな」
 俺の素直な感想に、鴫野は少しホッとしたようだった。
「先輩、週末、うちに来ません?」
 鴫野の大きな手が頬を包む。
 真っ直ぐに目を合わせるように俺の顔を覗き込む鴫野。その目は、いつもより熱っぽい。
「俺だって、寂しいんですよ」
 そんなことを聞いてしまったら、俺は絶対、毎週来てしまう。
「いいのかよ。毎週来るぞ」
「いいっすよ。なんなら毎日来てほしい」
「強欲」
 俺も鴫野も笑った。俺も鴫野も大概強欲だ。
「いいよ、気が向いたら、来てやるよ」
 そうは言ったけど、週末も来る気満々だった。
 日に日に大きくなるこの感情も、鴫野はまとめて受け止めてくれる。なんとなくそれがわかって、俺はまた頬を緩ませたのだった。
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