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十二月某日【写真部】蓮見
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その日、俺は気まぐれに写真部の部室を覗きに行った。鴫野と約束をしているわけじゃなかった。なんとなく、部活中の鴫野が見たかっただけ。
部室に行くと、鴫野はいなかった。代わりに、三年の、何度か部室で見かけたことのある女子生徒がいた。
「あ、蓮見くん」
普通に名前を呼ばれて、そうか、名前知られてるのか。と思った。女子生徒は続けた。
「パパはちょっと外出中だよ」
「そっか」
いないなら大人しく帰ろうかと思ったところで、思わぬ言葉が聞こえた。
「多分すぐ帰ってくるから、待ってれば?」
思わず目を見開いてしまった。
女子生徒は他意も無いようで、どうぞ、と言う。
写真部の部室に通された。まともに入るのは初めてだった。
通されたのは部室の中央に置かれた長机とパイプ椅子の席。
「どーも。ええと」
鴫野以外の写真部のメンツはまるで知らない。この子が同じ三年だというのは辛うじて上履きでわかる。
「部長の枝川でーす」
「枝川さん」
「ミルクティーでいい?」
「あー、お構いなく」
接待用の飲み物まであるのかと感心した。
写真部の部室は運動部のそれよりも少し狭い。人数の問題もあるかも知れない。壁に並ぶロッカーの数は明らかに少ない。
「蓮見くん、もう推薦の合格出たんでしょ?」
枝川さんは俺の斜め向かいに座った。
「あぁ、うん。なんで知ってんの」
「パパから聞き出した」
相変わらず、あいつパパって呼ばれてんのか。
「そっか」
「暇なら、写真部入る?」
「え」
「あれ、パパと仲良いから、写真好きなのかと思った」
そうか、側から見たらそういう風に見えるのか。俺が呼び立てて連れ回してるようなもんなのに。
「まぁ、嫌いじゃねーよ」
嫌いじゃない。
素直じゃねーなと思うけど流石に好きと言うのは照れるから、そう言うしかない。
「考えといて。うち、三年は三月までいるから」
「ん」
俺は曖昧な返事をした。興味はあるが、部活に入るほどかというとそうでもない。鴫野が撮っているのを眺めている方が楽しいような気もする。
鴫野と同じ部活、ね。
思わず頬が緩んだ。
「楽しそうじゃん。入るよ」
鴫野が驚いた顔が見たかった、というのもある。
「は、ほんとに?」
枝川さんも驚いていた。言い出しっぺが驚くなよ、とは思うが、無理もない。完全に思いつきで、ただ楽しそうだから乗った。
「入部届とか書く?」
「お試し入部なら書かなくてもいいよ」
「はは、じゃあそれで」
こうして俺は、写真部にお試し入部することになった。
案の定、戻ってきた鴫野は二度驚くことになった。
一つは俺が部室にいること。
もう一つはお試しだけど俺が写真部に入ったこと。
「まじか……」
枝川さんに聞かされて、鴫野は複雑そうな顔をしていた。
「なんだよ、ダメなのかよ」
「いや、いいんですけど、なんかこう、家族に紹介するみたいな気分です」
「じゃあパパ、蓮見くんの面倒見てあげて。次期部長なんだから」
「ッス」
お兄ちゃんなんだから、みたいなことを言われて、鴫野が渋々返事をする。こいつ、次期部長かよ。すげえな。
「そうなの?」
「らしいです。部長の言うことは絶対なんで」
卒業まで、退屈することはなさそうだった。
部室に行くと、鴫野はいなかった。代わりに、三年の、何度か部室で見かけたことのある女子生徒がいた。
「あ、蓮見くん」
普通に名前を呼ばれて、そうか、名前知られてるのか。と思った。女子生徒は続けた。
「パパはちょっと外出中だよ」
「そっか」
いないなら大人しく帰ろうかと思ったところで、思わぬ言葉が聞こえた。
「多分すぐ帰ってくるから、待ってれば?」
思わず目を見開いてしまった。
女子生徒は他意も無いようで、どうぞ、と言う。
写真部の部室に通された。まともに入るのは初めてだった。
通されたのは部室の中央に置かれた長机とパイプ椅子の席。
「どーも。ええと」
鴫野以外の写真部のメンツはまるで知らない。この子が同じ三年だというのは辛うじて上履きでわかる。
「部長の枝川でーす」
「枝川さん」
「ミルクティーでいい?」
「あー、お構いなく」
接待用の飲み物まであるのかと感心した。
写真部の部室は運動部のそれよりも少し狭い。人数の問題もあるかも知れない。壁に並ぶロッカーの数は明らかに少ない。
「蓮見くん、もう推薦の合格出たんでしょ?」
枝川さんは俺の斜め向かいに座った。
「あぁ、うん。なんで知ってんの」
「パパから聞き出した」
相変わらず、あいつパパって呼ばれてんのか。
「そっか」
「暇なら、写真部入る?」
「え」
「あれ、パパと仲良いから、写真好きなのかと思った」
そうか、側から見たらそういう風に見えるのか。俺が呼び立てて連れ回してるようなもんなのに。
「まぁ、嫌いじゃねーよ」
嫌いじゃない。
素直じゃねーなと思うけど流石に好きと言うのは照れるから、そう言うしかない。
「考えといて。うち、三年は三月までいるから」
「ん」
俺は曖昧な返事をした。興味はあるが、部活に入るほどかというとそうでもない。鴫野が撮っているのを眺めている方が楽しいような気もする。
鴫野と同じ部活、ね。
思わず頬が緩んだ。
「楽しそうじゃん。入るよ」
鴫野が驚いた顔が見たかった、というのもある。
「は、ほんとに?」
枝川さんも驚いていた。言い出しっぺが驚くなよ、とは思うが、無理もない。完全に思いつきで、ただ楽しそうだから乗った。
「入部届とか書く?」
「お試し入部なら書かなくてもいいよ」
「はは、じゃあそれで」
こうして俺は、写真部にお試し入部することになった。
案の定、戻ってきた鴫野は二度驚くことになった。
一つは俺が部室にいること。
もう一つはお試しだけど俺が写真部に入ったこと。
「まじか……」
枝川さんに聞かされて、鴫野は複雑そうな顔をしていた。
「なんだよ、ダメなのかよ」
「いや、いいんですけど、なんかこう、家族に紹介するみたいな気分です」
「じゃあパパ、蓮見くんの面倒見てあげて。次期部長なんだから」
「ッス」
お兄ちゃんなんだから、みたいなことを言われて、鴫野が渋々返事をする。こいつ、次期部長かよ。すげえな。
「そうなの?」
「らしいです。部長の言うことは絶対なんで」
卒業まで、退屈することはなさそうだった。
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