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二度目の逢瀬
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ソウイチとの二度目の予約の日。指定されたのは前回と同じホテルで、約束の時間は二時間ほど早い。
真山は先日よりも少しだけ落ち着いてエントランスにやってきた。
白いスタンドカラーシャツと細身の黒パンツに革靴を合わせ、黒いジャケットを羽織っていつものリュックを背負っている。シャツを着れば少しは格好がつくだろうと思った真山は、クローゼットで一番綺麗めなシャツを選んだ。
二度目の来訪ではあるが、上品で落ち着いた雰囲気のロビーはやはり居心地の悪さを感じてしまう。
真山は少しだけ身を縮めて足早に受付カウンターに向かった。
受付でカードキーを受け取ってソウイチの待つ部屋へと向かう。
乗り込んだエレベーターには幸い同乗者はいなかった。真山はひとり、落ち着かない心地で視線を持ち上げ、変わっていく階数表示を眺めていた。
こんなところに平然と泊まれるアルファがどうしてオメガでもベータでもない自分を選んだのか、いくら考えてもその答えは見つからなかった。
どちらかといえば自分の方が快感を追ってひとりよがりなセックスをしてしまったと思う。なのに、ソウイチは二度目、三度目の予約をしてくれた。
到着を知らせる柔らかな電子音が思考に埋もれた真山の意識を現実に引き戻す。身体にまとわりついた浮遊感が消え、切り替わる数字はいつのまにか止まっていた。
また少し、鼓動が早まった。
真山を導くようにドアが開く。
降り立った廊下は静かだった。辺りを見回すとカードキーにあるのと同じ部屋番号はすぐに見つかった。
もう一度カードキーと部屋の番号を確認してドアを開ける。前回とは違う部屋番号だが、今回もスイートルームのようだった。
約束の時間の五分前。予定通りの到着だった。
部屋は前回と似たようなつくりで、調度品も似たコンセプトで揃えられているようだった。
「こんばんは」
部屋は静かで、人の気配がない。真山が声を上げると、奥からスーツ姿のソウイチが姿を現した。
夜景を背にしたソウイチは、今日は深いグレーのスリーピースに白シャツと深い赤のネクタイを合わせている。上品な雰囲気を醸し出す立ち姿からは育ちの良さが窺えた。
「こんばんは、マヤくん。待ってたよ」
真山の姿を認めると、ソウイチは柔らかな髪を揺らし、愛らしい笑みを浮かべて歓迎してくれた。
またその笑みを見ることができるなんて思いもしなかった。
待っていたと言ってくれるのが嬉しくて、真山の胸は鼓動を早める。
ソウイチはすぐに真山の前まで駆け寄ってきた。
「急にすまない。どうしても、会いたくて」
喉奥が甘く引き攣って、胸が柔らかく甘く痛む。それは決して不快なものではなかった。誰かにこの言葉をかけられるのが、こんなに嬉しいなんて知らなかった。
「ん、俺も嬉しい」
真山の口から出たのは、心からの言葉だ。
自分を見上げる薄茶色の瞳が嬉しそうに細められるのを見て、真山はくすぐったさにはにかんだ。
華奢な真山の手をソウイチがそっと握る。ソウイチの手は温かく、触れ合ったところで温もりが混ざるのが心地好い。ソウイチの温度を感じて、緊張で強張っていた身体が少しだけ緩んだ。
「来てくれてありがとう、マヤくん」
うっすらと頬を染めたソウイチの穏やかな笑みには、心からの喜びがはっきりと見てとれる。自分ばかり浮かれていたわけではないとわかって、真山は少し安心した。
「抱きしめてもいいか」
「ん、いいよ」
確かめてから、ソウイチの腕が真山の背中に回る。
「ふふ、嬉しい。マヤくんの匂いだ」
そう言われると少し照れる。真山は香水の類はつけていない。きっと洗濯洗剤の匂いだろう。ソウイチは真山の肩口に額を押し付ける。真山がソウイチの背に腕を回すと、ソウイチが真山の腕の中に収まる形になる。
ソウイチからもいい匂いがした。石鹸のような、清潔感を感じる心地好い匂いだった。前回と同じ匂いに安心する。これから、この匂いがするたびにソウイチのことを思い出してしまいそうだった。
真山はその香りを忘れないように深く吸い込む。肺の深くまで染み込ませて同じ匂いに染まりたくて、頬に触れる髪に思わず頬を擦り寄った。
真山は先日よりも少しだけ落ち着いてエントランスにやってきた。
白いスタンドカラーシャツと細身の黒パンツに革靴を合わせ、黒いジャケットを羽織っていつものリュックを背負っている。シャツを着れば少しは格好がつくだろうと思った真山は、クローゼットで一番綺麗めなシャツを選んだ。
二度目の来訪ではあるが、上品で落ち着いた雰囲気のロビーはやはり居心地の悪さを感じてしまう。
真山は少しだけ身を縮めて足早に受付カウンターに向かった。
受付でカードキーを受け取ってソウイチの待つ部屋へと向かう。
乗り込んだエレベーターには幸い同乗者はいなかった。真山はひとり、落ち着かない心地で視線を持ち上げ、変わっていく階数表示を眺めていた。
こんなところに平然と泊まれるアルファがどうしてオメガでもベータでもない自分を選んだのか、いくら考えてもその答えは見つからなかった。
どちらかといえば自分の方が快感を追ってひとりよがりなセックスをしてしまったと思う。なのに、ソウイチは二度目、三度目の予約をしてくれた。
到着を知らせる柔らかな電子音が思考に埋もれた真山の意識を現実に引き戻す。身体にまとわりついた浮遊感が消え、切り替わる数字はいつのまにか止まっていた。
また少し、鼓動が早まった。
真山を導くようにドアが開く。
降り立った廊下は静かだった。辺りを見回すとカードキーにあるのと同じ部屋番号はすぐに見つかった。
もう一度カードキーと部屋の番号を確認してドアを開ける。前回とは違う部屋番号だが、今回もスイートルームのようだった。
約束の時間の五分前。予定通りの到着だった。
部屋は前回と似たようなつくりで、調度品も似たコンセプトで揃えられているようだった。
「こんばんは」
部屋は静かで、人の気配がない。真山が声を上げると、奥からスーツ姿のソウイチが姿を現した。
夜景を背にしたソウイチは、今日は深いグレーのスリーピースに白シャツと深い赤のネクタイを合わせている。上品な雰囲気を醸し出す立ち姿からは育ちの良さが窺えた。
「こんばんは、マヤくん。待ってたよ」
真山の姿を認めると、ソウイチは柔らかな髪を揺らし、愛らしい笑みを浮かべて歓迎してくれた。
またその笑みを見ることができるなんて思いもしなかった。
待っていたと言ってくれるのが嬉しくて、真山の胸は鼓動を早める。
ソウイチはすぐに真山の前まで駆け寄ってきた。
「急にすまない。どうしても、会いたくて」
喉奥が甘く引き攣って、胸が柔らかく甘く痛む。それは決して不快なものではなかった。誰かにこの言葉をかけられるのが、こんなに嬉しいなんて知らなかった。
「ん、俺も嬉しい」
真山の口から出たのは、心からの言葉だ。
自分を見上げる薄茶色の瞳が嬉しそうに細められるのを見て、真山はくすぐったさにはにかんだ。
華奢な真山の手をソウイチがそっと握る。ソウイチの手は温かく、触れ合ったところで温もりが混ざるのが心地好い。ソウイチの温度を感じて、緊張で強張っていた身体が少しだけ緩んだ。
「来てくれてありがとう、マヤくん」
うっすらと頬を染めたソウイチの穏やかな笑みには、心からの喜びがはっきりと見てとれる。自分ばかり浮かれていたわけではないとわかって、真山は少し安心した。
「抱きしめてもいいか」
「ん、いいよ」
確かめてから、ソウイチの腕が真山の背中に回る。
「ふふ、嬉しい。マヤくんの匂いだ」
そう言われると少し照れる。真山は香水の類はつけていない。きっと洗濯洗剤の匂いだろう。ソウイチは真山の肩口に額を押し付ける。真山がソウイチの背に腕を回すと、ソウイチが真山の腕の中に収まる形になる。
ソウイチからもいい匂いがした。石鹸のような、清潔感を感じる心地好い匂いだった。前回と同じ匂いに安心する。これから、この匂いがするたびにソウイチのことを思い出してしまいそうだった。
真山はその香りを忘れないように深く吸い込む。肺の深くまで染み込ませて同じ匂いに染まりたくて、頬に触れる髪に思わず頬を擦り寄った。
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