或るインキュバスの純愛

はち

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 荒い息遣いが聞こえる。僕を映すぎらついた目が見えて、喉が悦びに鳴った。
 背中を這い上がる薄暗い期待通りに、おじさんの節張った厚みのある手が僕の脚を大きく拡げ、大きな手のひらがしっかりと腰を掴んだ。
 おじさんが動いてくれる。僕の胸は悦びに震えてため息が漏れた。
 おじさんがゆっくりと腰を引いた。張り出した段差が蕩けた中をこそぐようにして出ていく。気持ちよくて僕の唇からは甘い声が勝手に漏れる。
 待ち望んだ快感だった。
 抜けるギリギリまで引かれて、一気に奥まで打ち込まれる。

「っあ!」

 背がしなる。奥の襞を叩かれる衝撃に、おなかの中ぜんぶを掻き回されるみたいだ。
 気持ちいい。
 もっと欲しい。
 もっと。
 もっと深く繋がりたくて、僕はねだるみたいにおじさんの逞しい腰に脚を絡めた。

「っく、くそ」

 おじさんが唸るような声を零した。
 腰を何度も打ち付けて、無遠慮に僕の奥を叩く。
 力強いストロークが僕を揺すって、繋がったところがいやらしい水音を立てる。
 部屋に響くのはエアコンの音と、おじさんと僕の息遣いと、僕のお腹を掻き回すいやらしい粘着質な水音だけ。
 表に響くうるさい蝉の声よりもずっと心地好くて、僕はうっとりとその音色に聞き入った。
 おじさんが、僕を犯してる。おじさんの大きな身体に隠されるみたいに抱き込まれて、お腹の奥を乱暴に叩かれて。気持ちよくて嬉しくて、僕の表情はだらしなく蕩けた。
 眉を寄せ、荒い息をしながら、おじさんは僕を床に縫い止めて獣みたいに腰を振る。
 おじさんが動いてくれてる。僕のことなんて考えてない、自分の快感を追うだけの動きだ。雑に、力任せに揺すられるのが堪らない。
 背中に当たる硬い床の感触なんて、もうどうでもいい。
 ずっと、このままならいいのに。
 僕は腕を伸ばしておじさんにしがみついた。
 貪るみたいに荒々しく揺すられながら、このまま一つに溶け合ってしまえたらいいのにと思う。そうしたら、僕とおじさんはずっと一緒だ。
 おじさんが一際強く腰を打ち付けて、呻くような声を上げた。

「……くッ!」

 おじさんの腰が震えた。僕のおなかの中でおじさんが脈打って、熱いものが爆ぜて広がる。
 おじさんが、僕の中でいってる。
 おじさんが、僕をきつく抱きしめる。汗の滲んだ熱い肌がぴったりとくっついて、本当に溶け合ってしまいそうだった。筋肉を感じる逞しい腕に苦しいくらいに抱きしめられて、深いところにおじさんの熱い精液が注がれていく。
 何度も脈打つおじさんの逞しいものから、吐き出された熱いものがおなかに満ちていく。おなかがあったかくなって、僕の胸は幸せな気持ちで満たされる。
 気持ちよくて、ため息が漏れた。
 そんな僕の耳に届いたのは、おじさんの震えた声だった。

「ハルト、すまない、ハルト、なんで……」
「いいんだよ。僕が、おじさんを好きだから」

 僕はしがみついた腕を解いた。汗で湿った身体がそっと離れて、間に入ってくる冷えた空気が疎ましい。
 僕はうっとりとおじさんを見上げる。
 おじさんは眉を下げて、泣き出しそうな顔でその瞳に僕を映している。

「僕がおじさんとしたかったんだ」

 僕の答えはそれだけだった。
 好きだから、おじさんが欲しかった。
 それだけじゃだめなのかな。

「ハルト……」
「ふふ、泣かないで、おじさん」

 僕の頬の上で小さな雫が弾けた。おじさんの茶色の瞳が濡れて、ぽたぽたと涙の粒が落ちてきた。
 おじさんが泣いちゃった。まさか泣くなんて思わなかった。自我を残してたから、仕方ないか。催眠の匙加減の難しさに、思わず苦笑いが漏れた。

 僕はおじさんを慰めたくて手を伸ばした。無精髭でざらつく頬を撫でると、熱くて、うっすらと汗が滲んでいる。

 見上げた茶色の瞳は随分と熱が薄まっていた。いつか、催眠なしでこの瞳に本当の僕が映せたらいいのに。そんな叶いもしない願いを胸に抱いて、僕は涙で濡れた目元を指先で拭った。
 本当は僕がいくまでしたかったけど、嫌われたくないから、今日はこれくらいにしよう。
 もっとぐちゃぐちゃになって、おじさんと一緒にいきたかったな。

「ごめんね、おじさん。今度はもっとちゃんとさせて」

 おじさんのおでこにキスをして、おじさんの記憶を消した。残念だけど、今日はこれでおしまい。
 崩れ落ちるようにして眠ったおじさんの、少し柔らかくなったものをお尻から引き抜くのは、少し寂しかった。

 眠るおじさんを床に横たえて、淫紋を消して服を整えると、ぬるくなってしまった麦茶を一口飲んだ。
 おじさんは床に大の字に寝ている。
 目を覚ましたら、おじさんは今日の僕とのことは一ミリも覚えていない。一人で帰ってきて、ここで昼寝したことになってしまう。仕方ないけどそれがなんだか寂しくて、僕はおじさんの逞しい胸に乗ってまだおさまらない昂りを慰める。
 今度は僕のも舐めてくれるといいんだけど。
そんな願いを込めて、僕はおじさんの唇に先端を押し付けて熱を散らした。あったかいおじさんの唇を、僕の出したものが白く汚す。たまらない背徳感に、腰が震える。何度も脈打って放たれる白く濁ったものが、おじさんの顔を白く汚していく。気持ちよくて止まらなくて、僕は何度もおじさんの顔に白いものをかけた。
 日に焼けた肌を汚す白い濁りは、ひどくいやらしいものに見えた。

 あーあ、いっぱい出ちゃった。
 せっかくだから、ハーフパンツのポケットから取り出したスマートフォンで、僕の精液まみれのおじさんを写真に収める。僕だけの宝物だ。

 このままにしておくわけにもいかないから、僕は出したものを丁寧に舐め取っていく。
 顔中を舐めて、最後に唇を重ねる。涎と一緒に僕の精液を流し込むと、おじさんは無意識ながらそれを飲んでくれた。小さく喉が鳴って、僕の胸は薄暗いもので満たされた。

 最後に、もう一度おじさんの唇に唇を重ねた。触れるだけのキス。これくらいいいよね。
 寝顔も拝めたのでよしとして、僕は静かに服を着た。
 エアコンの音に混じって、おじさんの寝息が聞こえる。
 名残惜しいけど、僕はキャップを被ると飲みかけのコップを流しに片付けておじさんの部屋を出た。

 もう日暮れが近いみたいで、低くなった日差しは少し赤っぽい色になっていた。遠くからひぐらしの音が聞こえる。
 あとでパパに上手な催眠の方法を聞いておかなきゃ。夏が終わるまでに、もう一回くらいチャンスがあるといいけど。そんなことを考えながら家に帰る直前、背後で靴音がした。

「親父、いるー?」

 声変わりの終わった男子の声。振り返ると、おじさんの息子が遊びにきたみたいだった。
 高校生くらいの彼は私服姿で、僕に気づくことなくおじさんの家の玄関を開ける。

「あれ、開いてるじゃん。親父ー?」

 おじさんの家のドアが閉まる。
 今度は息子さんがいる時に一緒にするのも楽しいかもね。おじさん、どんな顔するかな。照れる? 絶望する? それとも怒る? また泣いちゃうかな。
 おじさんの反応を想像したら背筋を甘い期待が駆け上がって、たまらず笑みがこぼれた。

 早くその時が来ればいいのに。
 僕は玄関のドアを開けた。

「ただいま」

 続きはまた今度。
 それまでに新しい淫紋も使えるようにしておかないと。
 次はどんなことをしようか。
 おじさんの痴態を脳裏に描きながら、手を洗って部屋に戻った。
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