海祇の岬

はち

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ウツホシ編

月夜の岬

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 真昼のウツホシの宮の窓から見えるのは、深い青にかすかに緑が混じったような、美しく澄んだ世界だった。海に差し込む陽光が時折ゆらめき踊る様を眺めながら、シュンは胡座をかいたウツホシの膝の上に抱き上げられ、頭を撫でられていた。

 もうずっと服を着るのも忘れている。ウツホシの少し温度の低い肌が素肌に触れるのが心地好くて、シュンはもうずっと着物に袖を通していなかった。

 甘やかなウツホシの愛と悦楽に満ちた二人だけの世界では、羞恥など薄れていくだけだった。

「シュンは、家に帰りたくなったりしない?」

 ふとウツホシが零した言葉は、シュンの胸に小さな波紋を起こした。

「ん、家?」

 シュンにも家があったが、もう帰るつもりなどなかった。ウツホシとの暮らしは、甘く穏やかでシュンに幸せを与えてくれた。
 急にどうしたのだろうと、シュンの胸には小さな不安が芽吹く。

「なんだよ、急に」
「人間には、帰る家があるから」

 ウツホシが少しだけ寂しそうな顔をするので、シュンは胸がちくりと痛んだ。

「帰らなくていいよ。帰っても、きっとヤクザに殺されるから。それなら、ウツホシのところにいたい。ウツホシのそばの方が、幸せだから」

 シュンはもう、ウツホシの花嫁だ。シュンの耳を飾るピアスも全てウツホシが作ったものに付け替えられていた。今更どこかへ行こうとは思えなかった。
 そんな花嫁の愛らしい答えに、ウツホシはその長い腕でしっかりとシュンを抱きしめた。

「シュン、嬉しい。ずっと、ここにいてね」
「ん」

 ウツホシが表情を綻ばせ、シュンは頷く。シュンにはウツホシとともに過ごす時間が全てだ。ほかにほしいと思うものも無い。
 強いて言うなら、もっとウツホシを知りたかった。

「ウツホシは、俺に会う前は何してたんだ?」

 あの日、海で出会うまで、ウツホシが何をしていたのか、シュンはまだ知らない。ずっと聞いてみたいと思っていたことだった。

「シュンに会う前は、俺は子どもだった。ミカナミの子。大人になって神の名と宮をもらったから、すぐに花嫁を探したんだ。だけど、みんな海に入れたら死んじゃって。全然花嫁を見つけられなくて」

 そういえば、初めて会った夜にそんなことを言っていたのを思い出す。

「だから、シュンは死なせたくなくて、がんばったんだ」
「そっか」

 そんなことも言っていた。ウツホシはいつも一生懸命だ。一生懸命に、シュンに愛を注いでくれる。あの夜もきっと、シュンのために頑張ったのだろう。
 そう思うと随分見慣れた深い海の色の、海の神様がたまらなく愛おしく思えた。
 シュンは抱きしめ愛してくれるウツホシの腕を撫でる。
 ウツホシは甘えるようにシュンに頬を擦り付けた。

「ふふ、また、あの岬でしようか」

 あの岬。ウツホシにたくさんの快感を与えられた場所。二人が結ばれた場所だ。
 シュンは小さく頷いた。美しい月の下でウツホシと交わるのは恥ずかしかったけれど、とても甘美なものだったのを覚えている。



 深く澄んだ紺色の夜空には、丸い月が淡い金の光を放ち輝いていた。降り注ぐ柔らかな月明かりが、濡れたウツホシの肩の上で鱗のかけらのように揺めき踊る。

「ッア、ウツホシ、きもちい」

 浅瀬の柔らかな砂の上、波打ち際に下肢を浸し、シュンはウツホシに向かい合うようにして抱えられ、揺すられていた。
 シュンの脚はウツホシの腰にしがみつくように回されて、腕もウツホシの首に絡んでいた。
 肉付きの薄いシュンの小さな尻はウツホシの大きな両手に割り開かれて、逞しい怒張を飲み込む拡がりきった窄まりが見えるほどだ。
 深い海の色をしたウツホシの肌と同じ色の逞しい怒張が、湿った音を立ててシュンの中を出入りする。
 皺が見えなくなるくらいに拡がったシュンの後孔はうっすらと色づき、時折戦慄きながら健気にウツホシの逞しい性器を受け入れていた。

「あは、シュンのおなか、熱くてとろとろだよ」

 ウツホシの言葉通り、熟れたシュンの胎は熱を孕み、粘液をたっぷりと抱えてウツホシを受け入れていた。花嫁になってずいぶんと経つシュンの胎は潤み、ウツホシを喜ばせ、卵を抱えるための器官になっていた。シュンもそれをわかっている。ウツホシが欲しくなると勝手に潤み、疼き出す、花嫁の胎。それはウツホシにも、もちろんシュンにも快感をもたらしてくれる。

 シュンの胸にはもう戸惑いなどない。ウツホシと繋がるたびに胎から生まれる悦楽はすっかりシュンを虜にしていた。
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