海祇の岬

はち

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ニギホシ編

堕ちた海祇の夢3

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「っひ、あ」

 荒瀬の反らされた喉から漏れるのは上擦った声だった。

「あは、大丈夫だよ。すぐ、気持ちよくなるからね」

 喉が引き攣る。裸に剥かれた身体を岩場に押し付けられ、ニギホシの大きな手のひらが這う。
 温もりの薄い手のひらは、腹を撫で、その下で縮こまった性器へと伸びた。
 丸い先端に、ニギホシの下腹から伸びる異形の性器の先端が押し付けられる。長くて大きな、深い海と同じ色の、人のものとは違うそれ。先端は平らになっていて、返しのようなものがある。
 孔同士が触れ合い、狭い管へ柔らかなものが入ってくる。

「ひ、な……に、これ、ぇ」

 知らない感覚に、荒瀬は声を震わせた。そこは出すための器官だと思っていた。だから、そこに何か入ってくるなど考えたこともなかった。

 ゆっくりと、液体でも個体でもない、流動性のあるゼリーのようなものが、狭い尿道をくすぐりながら入り込んでくる。自分ではどうにもできないそれは、程なくして根本の膨らみへと到達した。

「あ、ぅ」

 膨らみが疼く。それにつられるようにして萎れた性器が芯を持ち始める。

 自分の体に起こっていることが信じられなくて、荒瀬は震えながら自らの下腹を凝視する。

「トーマの身体を花嫁の身体にしてる。このかわいい膨らみがぱんぱんになって、トーマはたくさんの綺麗な卵を産むんだよ」

 ニギホシが指先でやんわりと根本の膨らみを揉んだ。
 卵を産む。人間の身体に、そんな能力はない。この身体を人ならざるものへと変えられていることに、荒瀬は震えた。

「っひ、や、ら」

 ニギホシに触れられるだけで、腹の底から濁流のように快感が溢れ出す。こんなもの、知らなかった。
 一人でするのとも、誰かとするのとも違う、嵐のように荒瀬を飲み込む快感に、荒瀬はただ声を震わせるばかりだった。

「どうして? 花嫁になってくれるんだろう?」

 荒瀬は頷くしかない。今更言ったことを撤回できるわけもない。

「これが終わったら、おなかの支度もしようね。俺とトーマの卵ができるように」

 卵。そんなものを産める身体ではないはずなのに。ニギホシはさも当たり前のことのように言う。

「なん、れ」
「トーマが俺の花嫁になったからだよ」

 ニギホシはざらついた声で続けた。

「ワダツミの花嫁。たくさん金色の卵を産んで、海を豊かにするんだ。安心して。花嫁の迎え方はちゃんと覚えてるから」

 ニギホシの楽しげな声はさらに続く。

「トーマのお腹を、俺の精でいっぱいにしてあげる」

 やめてくれ。喉まで出かけた言葉が出てこない。
 助けられなかったあいつの姿がちらついて、拒む言葉を紡ぐことができない。
 こいつは、助けられるかもしれない。
 そんな甘い思いが、胸の奥に居座っている。

 せめてこいつは助けてやりたい。
 どうかしている。狂っていると思うのに。
 胸の底にこびりついた悔恨が、荒瀬の喉を強張らせる。
 ざらついた声が甘やかにねだると、荒瀬は胸が締め付けられて、拒絶の言葉を躊躇う。

「あはは、硬くなった。トーマのは熱いね」

 芯を持った昂りを、深い海の色の手が握り込む。揉むように手を動かされただけで、昂りは喜び跳ねた。

「ほら、出してみせて。トーマは金色のが産めるかな」

 その声は性的な興奮よりもおもちゃで遊ぶ子どもの歓喜のような音色が濃く滲んでいた。
 ニギホシの大きな手が、荒瀬の昂りを擦る。

「あ、だめ、やだ」

 声が震える。快感が生まれるのが信じられない。身体が素直に反応するのもだ。
 頂はすぐにやってきた。
 跳ねた性器から噴き出すのは、白濁に金色の粒が混ざったものだ。

「あは、トーマはちゃんと花嫁だ。みて。金色の卵」

 荒瀬は胸を喘がせ、白濁とともに海中に散る金の卵を見上げた。リボンのようにゆらめく白いものに、うすら闇でもきらめく金の粒が混ざっている。

「ニギホシ」

 身体を埋め尽くす吐精の余韻は、多幸感となって荒瀬の恐怖を薄めていく。

「よかったぁ。金の卵を産めない子は多かったんだ。みんな、黒い卵ばかりで」

 ニギホシが細めた赤い瞳は濡れていた。

「トーマ、トーマ、嬉しい。おれ、まだ、ちゃんとできることがあった。トーマを、ちゃんと花嫁にできた」

 荒瀬を抱きしめ擦り寄るニギホシの温もりの薄い身体が、心地好い。

「ん、よかった」
「トーマ、うれしい」

 子供のように喜んで頬を擦り付けてくるニギホシが、愛おしく思えた。
 自分よりも長く逞しい深い海の色の腕には、赤黒い紋様が見える。
 堕ちたワダツミの証。穢れの紋様。
 痛々しいそれを眺めながら、荒瀬は意識を手放した。
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