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ウツホシ編
クラゲのはなし
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ウツホシがシュンのために貝を削ってピアスを作ってくれたのは、子どもたちが旅立ってしばらくしてからのことだった。
これから子どもたちが旅立つたびにひとつ、作ってくれるのだとか。
シュンが思うよりも、ウツホシはずっと細やかな性格のようだった。
よく考えれば初対面で花嫁に迎えられ、ウツホシのことを知る暇などなかった。
悪いやつではないということはわかるが、そのほかのことは全くわからない。
ウツホシという名前、海の神で人間の身体を作り替えられること、痛いのは苦手だということ、シュンが初めての花嫁だということ、それからシュンが大好きだということ。
シュンがウツホシのことで知っているのはそれくらいだ。何が好きで、自分を迎える前は何をしていたのか、シュンは何も知らない。
だから、日々他愛無い話をして、何かあるごとにウツホシのことを知るのは楽しかった。
シュンが気を失っている間や眠っている間、ウツホシは時々シュンをおいてふらりとどこかへ行っていることに気がついた。
きっかけは、目覚めたときにウツホシの姿が見えなかったことだ。
そして、今日も。
シュンが目覚めてから、ふらりと部屋に戻ってきたウツホシはどこか上機嫌だった。
「何してたんだ?」
特に咎めるつもりもなかったシュンが不思議そうに尋ねると、ウツホシは、にこやかに答えた。
「クラゲをとりにいってたんだ」
「クラゲ?」
「透き通って、ふわふわしてるやつ」
それはシュンにもわかる。海や水族館で見たこともある。
それがウツホシとどう関係があるのか、シュンにはわからなかった。
「ふふ、俺はクラゲが好きなんだ。おいしいから」
「おいしい?」
「シュンはクラゲは食べない?」
キクラゲと山クラゲはウツホシの言うものとは違った気がする。中華クラゲはどうだっただろうと頭をひねる。
クラゲと名のつくものを特別おいしいものとして食べた記憶はなかった。
シュンは身体を作り替えられてから、食事はしていない。しなくても平気になったからだ。
だが、ウツホシは違うようだった。
「今度とってきたら、シュンにもあげるね」
シュンの頭を撫でるウツホシは楽しそうだった。
数日後。
「ほら、シュン、クラゲだよ」
ウツホシの手には、うっすらとその形の見える何かがあった。
透明度の高い傘に四つの白い円が見える。シュンも名前を知っている。ミズクラゲだった。
「食えるの?」
「うん」
ウツホシは何の迷いもなくかぶりつく。
ウツホシの歯形に欠けたクラゲの傘を、シュンはまじまじと見つめる。
差し出されたクラゲの傘の端に、シュンは恐る恐るかみつく。
千切れはしたが、咀嚼しても味はわからない。うっすらと塩味がするような気もする。身体を作り替えられた時に、味覚も少し変わったのかもしれない。
おいしいかどうかと言われると微妙だった。
毒はなかっただろうかと思いながら、シュンは嬉しそうにクラゲを食べるウツホシを見守る。
「こっちはどう?」
傘に赤い縞模様の入ったクラゲを差し出される。
これは毒があった気がする。シュンが首を振ると、ウツホシは少し残念そうにしながら赤い縞の傘にかぶりつく。それも美味しそうに平らげてしまった。
何ともないのかとウツホシを見ていると。
「これはどう? 少し、痺れるけどおいしいよ」
綺麗なブルーの、縮れた紐のようなものを差し出された。それが何か、シュンには思い当たるものがあった。
カツオノエボシ。その触手だ。
海の危険生物の一角を担う、毒クラゲである。わざわざそれを食べる生き物もいると聞いたことはあったが、正直なところ食べようとは思わない。
「それは無理」
「おいしいのに」
楽しげに青い触手を食べるウツホシを眺めて、シュンは小さくため息をついた。
「俺はウニがいい」
「ふふ、次はとってきてあげる」
その夜のウツホシの口づけは、いつもよりも刺激的だったとか。
これから子どもたちが旅立つたびにひとつ、作ってくれるのだとか。
シュンが思うよりも、ウツホシはずっと細やかな性格のようだった。
よく考えれば初対面で花嫁に迎えられ、ウツホシのことを知る暇などなかった。
悪いやつではないということはわかるが、そのほかのことは全くわからない。
ウツホシという名前、海の神で人間の身体を作り替えられること、痛いのは苦手だということ、シュンが初めての花嫁だということ、それからシュンが大好きだということ。
シュンがウツホシのことで知っているのはそれくらいだ。何が好きで、自分を迎える前は何をしていたのか、シュンは何も知らない。
だから、日々他愛無い話をして、何かあるごとにウツホシのことを知るのは楽しかった。
シュンが気を失っている間や眠っている間、ウツホシは時々シュンをおいてふらりとどこかへ行っていることに気がついた。
きっかけは、目覚めたときにウツホシの姿が見えなかったことだ。
そして、今日も。
シュンが目覚めてから、ふらりと部屋に戻ってきたウツホシはどこか上機嫌だった。
「何してたんだ?」
特に咎めるつもりもなかったシュンが不思議そうに尋ねると、ウツホシは、にこやかに答えた。
「クラゲをとりにいってたんだ」
「クラゲ?」
「透き通って、ふわふわしてるやつ」
それはシュンにもわかる。海や水族館で見たこともある。
それがウツホシとどう関係があるのか、シュンにはわからなかった。
「ふふ、俺はクラゲが好きなんだ。おいしいから」
「おいしい?」
「シュンはクラゲは食べない?」
キクラゲと山クラゲはウツホシの言うものとは違った気がする。中華クラゲはどうだっただろうと頭をひねる。
クラゲと名のつくものを特別おいしいものとして食べた記憶はなかった。
シュンは身体を作り替えられてから、食事はしていない。しなくても平気になったからだ。
だが、ウツホシは違うようだった。
「今度とってきたら、シュンにもあげるね」
シュンの頭を撫でるウツホシは楽しそうだった。
数日後。
「ほら、シュン、クラゲだよ」
ウツホシの手には、うっすらとその形の見える何かがあった。
透明度の高い傘に四つの白い円が見える。シュンも名前を知っている。ミズクラゲだった。
「食えるの?」
「うん」
ウツホシは何の迷いもなくかぶりつく。
ウツホシの歯形に欠けたクラゲの傘を、シュンはまじまじと見つめる。
差し出されたクラゲの傘の端に、シュンは恐る恐るかみつく。
千切れはしたが、咀嚼しても味はわからない。うっすらと塩味がするような気もする。身体を作り替えられた時に、味覚も少し変わったのかもしれない。
おいしいかどうかと言われると微妙だった。
毒はなかっただろうかと思いながら、シュンは嬉しそうにクラゲを食べるウツホシを見守る。
「こっちはどう?」
傘に赤い縞模様の入ったクラゲを差し出される。
これは毒があった気がする。シュンが首を振ると、ウツホシは少し残念そうにしながら赤い縞の傘にかぶりつく。それも美味しそうに平らげてしまった。
何ともないのかとウツホシを見ていると。
「これはどう? 少し、痺れるけどおいしいよ」
綺麗なブルーの、縮れた紐のようなものを差し出された。それが何か、シュンには思い当たるものがあった。
カツオノエボシ。その触手だ。
海の危険生物の一角を担う、毒クラゲである。わざわざそれを食べる生き物もいると聞いたことはあったが、正直なところ食べようとは思わない。
「それは無理」
「おいしいのに」
楽しげに青い触手を食べるウツホシを眺めて、シュンは小さくため息をついた。
「俺はウニがいい」
「ふふ、次はとってきてあげる」
その夜のウツホシの口づけは、いつもよりも刺激的だったとか。
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