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つがいになる日
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交わりがどれくらい続いたのか、もう記憶は曖昧だった。時間もどれくらい経ったのかわからない。昼なのか夜なのかも、確かめようとは思わなかった。
ただ、羽鳥が欲しかった。
明け方、吉井が目を覚ますと羽鳥に後ろから抱き込まれていた。触れ合う身体が熱いのは変わらずで、腹の奥には種火が静かにゆらめいている。
羽鳥のフェロモンが濃い。呼吸をするだけで腹の底が疼くようだった。
身動ぎすると、繋がったままの身体の深くで重い水音がする。身体を繋いだまま気を失っていたようだった。
「っん」
吉井は小さく声を上げた。それに羽鳥が目を覚ます。
「ほまれ?」
腕の中の存在を確かめるように、羽鳥が吉井の項に鼻先を擦り付ける。
「ン、ぁ、たもつ、さん」
「ほまれ、いい匂い」
羽鳥が項に鼻先を押し付けて匂いを嗅いでいる。それに吉井の胸は高鳴った。
唇が触れるか触れないかの距離で羽鳥が動くと、熱い吐息が敏感になった項を撫でる。それは甘い痺れとなり、緩やかに全身に広がっていく。
吉井は熟れた息を吐いた。
最奥まで突き入れられたままの羽鳥の雄が中で質量を増す。時折しゃくり上げるそれを、吉井のすっかり蕩けた粘膜は甘く締め上げた。
「ほまれ、出していい?」
「ん、だして」
「動く、ね」
羽鳥は吉井を抱きすくめたまま、腰を打ち付ける。繋がったところは濡れた音を立て、溢れる白濁が泡立っていく。
「っあ、あ」
揺すられ、最奥で熱が爆ぜ、奔流が注ぎ込まれる。吉井の腹に、何度目かの羽鳥の白濁がたっぷりと注がれた。
くったりと脱力した吉井から羽鳥のものが引き抜かれる。ずっと羽鳥を咥え込んでいた吉井の後孔は口を開けたまま白く汚れた粘膜を晒していた。
羽鳥がそっと吉井を抱き起こすと、閉じ切らない後孔からは熱い白濁が溢れ、吉井がか細く啼いた。
「ん、っあ」
「ほまれ」
羽鳥の膝の上に抱え上げられ、吉井は力の入らない熱い身体で羽鳥に凭れ掛かる。その身を受け止める羽鳥の身体も熱かった。
羽鳥の指先が項をなぞって、吉井は甘い吐息を吐く。
吉井は羽鳥を見上げる。欲情に濡れながらも不安げに揺れる羽鳥の鳶色の瞳が見えた。
「たもつさん、大丈夫、だから。俺は、どこにも行かないよ」
吉井は力の入らない手で、そろりと羽鳥の頰を撫でた。その瞳を揺らすものが無くなるように祈りながら、吉井は熱を帯びた羽鳥の頰を手のひらで包み、優しく撫でる。
「ほまれ」
「噛んで、たもつさん」
吉井の声に迷いも恐れもなかった。柔らかくて、それでいて芯のある声だった。
「ん」
羽鳥が微笑み、項に唇を寄せた。
項に羽鳥の歯が触れる。硬く尖った犬歯の先が肌に触れて、吉井は身震いする。
羽鳥のつがいになれる。待ち望んだ瞬間がやってくることに、吉井は甘く胸を震わせた。火照る項に触れる硬い歯の感触に、吉井は喉を鳴らす。
胸に僅かに芽生える恐怖を誤魔化すように、吉井は羽鳥の温もりに擦り寄った。
硬く尖ったものが皮膚を突き破るプツリという音がした。
「あ、ぐう」
吉井は思わず呻き声を上げた。
皮膚を裂かれる痛みはあったが、後から訪れた多幸感と陶酔とに押し流されて見る影もない。
皮膚の破れたところに血が滲んでいるのか、ぬるりとした感触がある。熱を帯びたような痛みはすでにぼやけて、幸福感が強く胸に残っている。
「ほまれ、俺だけの」
羽鳥は血で濡れた吉井の項を舐め、譫言のように繰り返す。
羽鳥が噛んだ痕が甘く疼いて、吉井は吐息を震わせた。二人が、つがいになった証がそこにあった。
「俺だけのものになって、ほまれ」
羽鳥は項を何度も舐める。羽鳥の舌が這うたびに、そこは甘い熱を帯びるようだった。
「ん、たもつ、さ」
吉井は羽鳥にしがみつく。溢れる幸福感で脳髄まで甘く痺れ、全身に漣のような快感が満ちる。
項に刻まれた、未だ血を滲ませるつがいの証。もう痛みはなく、ただじんわりと熱を持って、そこに証があることを吉井に教えているようだった。
「もう、全部、たもつさんの、だよ」
吉井が呟く。その声は優しく穏やかで、同時に濃厚な吉井のフェロモンが和らいだ。
項を噛まれ、吉井のフェロモンが変わった証拠でもあった。
「あ、れ」
吉井のフェロモンは確かに穏やかになったはずなのに、羽鳥の胸からぽたぽたと滴る白い雫は止まる気配はない。
「うそ……」
羽鳥は驚いて自分の胸を見る。そうしている間にも白い蜜は溢れ続け、リボンのように垂れ落ちる。
「ほまれ」
羽鳥は縋るような目を吉井に向けた。
羽鳥の心中を察した吉井は、その視線を受け止めて甘やかに笑う。
「ぜんぶのんであげる。たもつさん」
吉井の穏やかな声に、羽鳥はその表情を綻ばせ頷いた。
「ん、飲んで、ほまれ」
吉井は羽鳥をシーツに押し倒した。
「すき、ん、ふ、たもつさん」
羽鳥をシーツに押し付け、吉井は羽鳥の胸を吸う。
「ほまれ」
羽鳥の胸に吸い付く吉井の頭を、羽鳥は優しく撫でる。
「ぜんぶ、のんで、ほまれ」
羽鳥が慈しむように吉井の髪を、頬を、その熱い手のひらで撫でていく。
羽鳥に撫でられながら、その這い回る手に温かなものを感じながら、吉井は夢中で溢れる白い蜜を啜った。
泉のように湧く白い蜜が止まるまでずっと、吉井は羽鳥の胸を吸うのを止めなかった。
それから。
外出してΩに会っても、羽鳥の胸からミルクが出ることは無くなった。外ではΩのフェロモンに反応しなくなったようで、今まで気が重かった毎日の通勤が、何も気にしなくて良くなったのは大きな改善だった。
しかしながら、吉井にだけは反応してしまう。家に帰って吉井の匂いを感じるだけで、羽鳥の胸は温かく濡れた。
どうやら、吉井以外のフェロモンに反応しなくなった、ということらしかった。
相変わらず吉井と長く外出するのは難しかったが、吉井は家で過ごすのが好きらしいのでそれだけが救いだった。
仕事を終え、帰宅した羽鳥が鍵を開けて玄関のドアを開ける。
ふわりと、羽鳥にだけわかる甘い香りがする。吉井の匂いだった。
「ただいま」
玄関を開けた羽鳥を、甘やかな笑みの吉井が出迎える。
「おかえりなさい、保さん」
甘やかな笑みとともに、羽鳥だけにわかる甘い匂いが濃くなる。
羽鳥のシャツに温かなミルクが滲んだ。
Happily ever after...
ただ、羽鳥が欲しかった。
明け方、吉井が目を覚ますと羽鳥に後ろから抱き込まれていた。触れ合う身体が熱いのは変わらずで、腹の奥には種火が静かにゆらめいている。
羽鳥のフェロモンが濃い。呼吸をするだけで腹の底が疼くようだった。
身動ぎすると、繋がったままの身体の深くで重い水音がする。身体を繋いだまま気を失っていたようだった。
「っん」
吉井は小さく声を上げた。それに羽鳥が目を覚ます。
「ほまれ?」
腕の中の存在を確かめるように、羽鳥が吉井の項に鼻先を擦り付ける。
「ン、ぁ、たもつ、さん」
「ほまれ、いい匂い」
羽鳥が項に鼻先を押し付けて匂いを嗅いでいる。それに吉井の胸は高鳴った。
唇が触れるか触れないかの距離で羽鳥が動くと、熱い吐息が敏感になった項を撫でる。それは甘い痺れとなり、緩やかに全身に広がっていく。
吉井は熟れた息を吐いた。
最奥まで突き入れられたままの羽鳥の雄が中で質量を増す。時折しゃくり上げるそれを、吉井のすっかり蕩けた粘膜は甘く締め上げた。
「ほまれ、出していい?」
「ん、だして」
「動く、ね」
羽鳥は吉井を抱きすくめたまま、腰を打ち付ける。繋がったところは濡れた音を立て、溢れる白濁が泡立っていく。
「っあ、あ」
揺すられ、最奥で熱が爆ぜ、奔流が注ぎ込まれる。吉井の腹に、何度目かの羽鳥の白濁がたっぷりと注がれた。
くったりと脱力した吉井から羽鳥のものが引き抜かれる。ずっと羽鳥を咥え込んでいた吉井の後孔は口を開けたまま白く汚れた粘膜を晒していた。
羽鳥がそっと吉井を抱き起こすと、閉じ切らない後孔からは熱い白濁が溢れ、吉井がか細く啼いた。
「ん、っあ」
「ほまれ」
羽鳥の膝の上に抱え上げられ、吉井は力の入らない熱い身体で羽鳥に凭れ掛かる。その身を受け止める羽鳥の身体も熱かった。
羽鳥の指先が項をなぞって、吉井は甘い吐息を吐く。
吉井は羽鳥を見上げる。欲情に濡れながらも不安げに揺れる羽鳥の鳶色の瞳が見えた。
「たもつさん、大丈夫、だから。俺は、どこにも行かないよ」
吉井は力の入らない手で、そろりと羽鳥の頰を撫でた。その瞳を揺らすものが無くなるように祈りながら、吉井は熱を帯びた羽鳥の頰を手のひらで包み、優しく撫でる。
「ほまれ」
「噛んで、たもつさん」
吉井の声に迷いも恐れもなかった。柔らかくて、それでいて芯のある声だった。
「ん」
羽鳥が微笑み、項に唇を寄せた。
項に羽鳥の歯が触れる。硬く尖った犬歯の先が肌に触れて、吉井は身震いする。
羽鳥のつがいになれる。待ち望んだ瞬間がやってくることに、吉井は甘く胸を震わせた。火照る項に触れる硬い歯の感触に、吉井は喉を鳴らす。
胸に僅かに芽生える恐怖を誤魔化すように、吉井は羽鳥の温もりに擦り寄った。
硬く尖ったものが皮膚を突き破るプツリという音がした。
「あ、ぐう」
吉井は思わず呻き声を上げた。
皮膚を裂かれる痛みはあったが、後から訪れた多幸感と陶酔とに押し流されて見る影もない。
皮膚の破れたところに血が滲んでいるのか、ぬるりとした感触がある。熱を帯びたような痛みはすでにぼやけて、幸福感が強く胸に残っている。
「ほまれ、俺だけの」
羽鳥は血で濡れた吉井の項を舐め、譫言のように繰り返す。
羽鳥が噛んだ痕が甘く疼いて、吉井は吐息を震わせた。二人が、つがいになった証がそこにあった。
「俺だけのものになって、ほまれ」
羽鳥は項を何度も舐める。羽鳥の舌が這うたびに、そこは甘い熱を帯びるようだった。
「ん、たもつ、さ」
吉井は羽鳥にしがみつく。溢れる幸福感で脳髄まで甘く痺れ、全身に漣のような快感が満ちる。
項に刻まれた、未だ血を滲ませるつがいの証。もう痛みはなく、ただじんわりと熱を持って、そこに証があることを吉井に教えているようだった。
「もう、全部、たもつさんの、だよ」
吉井が呟く。その声は優しく穏やかで、同時に濃厚な吉井のフェロモンが和らいだ。
項を噛まれ、吉井のフェロモンが変わった証拠でもあった。
「あ、れ」
吉井のフェロモンは確かに穏やかになったはずなのに、羽鳥の胸からぽたぽたと滴る白い雫は止まる気配はない。
「うそ……」
羽鳥は驚いて自分の胸を見る。そうしている間にも白い蜜は溢れ続け、リボンのように垂れ落ちる。
「ほまれ」
羽鳥は縋るような目を吉井に向けた。
羽鳥の心中を察した吉井は、その視線を受け止めて甘やかに笑う。
「ぜんぶのんであげる。たもつさん」
吉井の穏やかな声に、羽鳥はその表情を綻ばせ頷いた。
「ん、飲んで、ほまれ」
吉井は羽鳥をシーツに押し倒した。
「すき、ん、ふ、たもつさん」
羽鳥をシーツに押し付け、吉井は羽鳥の胸を吸う。
「ほまれ」
羽鳥の胸に吸い付く吉井の頭を、羽鳥は優しく撫でる。
「ぜんぶ、のんで、ほまれ」
羽鳥が慈しむように吉井の髪を、頬を、その熱い手のひらで撫でていく。
羽鳥に撫でられながら、その這い回る手に温かなものを感じながら、吉井は夢中で溢れる白い蜜を啜った。
泉のように湧く白い蜜が止まるまでずっと、吉井は羽鳥の胸を吸うのを止めなかった。
それから。
外出してΩに会っても、羽鳥の胸からミルクが出ることは無くなった。外ではΩのフェロモンに反応しなくなったようで、今まで気が重かった毎日の通勤が、何も気にしなくて良くなったのは大きな改善だった。
しかしながら、吉井にだけは反応してしまう。家に帰って吉井の匂いを感じるだけで、羽鳥の胸は温かく濡れた。
どうやら、吉井以外のフェロモンに反応しなくなった、ということらしかった。
相変わらず吉井と長く外出するのは難しかったが、吉井は家で過ごすのが好きらしいのでそれだけが救いだった。
仕事を終え、帰宅した羽鳥が鍵を開けて玄関のドアを開ける。
ふわりと、羽鳥にだけわかる甘い香りがする。吉井の匂いだった。
「ただいま」
玄関を開けた羽鳥を、甘やかな笑みの吉井が出迎える。
「おかえりなさい、保さん」
甘やかな笑みとともに、羽鳥だけにわかる甘い匂いが濃くなる。
羽鳥のシャツに温かなミルクが滲んだ。
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