ぜんぶのませて

はち

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ぜんぶのませて

ミルクとフェロモン

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「吉井くん?」

 吉井の異変に気がついた羽鳥が、吉井の顔を覗き込んだ。

「っ、うそ、ぁ」

 声を震わせ、吉井は混乱していた。
 抑制剤は大学を出る時に飲んだから、早々切れるということはないはずなのに。
 身体の奥から、熱を帯びた衝動めいたものが湧き上がってくる。
 まるでヒートの始まりのような、身体が熱に冒されていく感覚に吉井は恐怖を感じていた。自我も自由も奪っていく、抗えないものに対する恐怖だった。
 吉井は震えながら羽鳥の肩口に額を押し付け、しがみついた。

「大丈夫?」
「羽鳥さ、やばい、薬、きれそ」

 身体がずくずくと疼きながら熱を帯びて、甘い昂りのようなそれは確実に吉井から理性を剥ぎ取っていく。
 羽鳥にしがみつく手が震える。
 腹の底で、Ωの本能が喚き始める。
 αが欲しいと、飢えた声を上げる。
 そうなってしまうと、もう吉井にそれを止めることはできなかった。

「大丈夫? 追加の抑制剤、ある?」
「ある、けど、いい……いらない」

 抑制剤はいつも持ち歩いている分が足元に転がるリュックに入っているが、飲みたくなかった。理性は熱に食い荒らされて、αを求めるΩの本能が色濃く表に出てきていた。
 吉井は完全に羽鳥のフェロモンに当てられていた。羽鳥のミルクを飲んだことが何か影響しているのかもしれないが、吉井にはわからなかった。
 呼吸が浅く早くなる。
 羽鳥としたい。抱かれたい。もっとミルクを飲みたい。吉井の頭の中はそんなことでいっぱいだった。
 こうなってしまうと、もう発情は止められない。
 吉井が視線を落とすと、羽鳥の逞しい昂りがスラックスの前を窮屈そうに押し上げているのが見えた。
 自分のそれとは比にならないくらい大きな羽鳥のそれに、吉井は思わず生唾を飲んだ。初めて目にする、αの雄の象徴だった。
 吉井はセックス自体したことがなかった。やり方もなんとなく知識としてあるだけだった。なのに、本能に染められた身体は、正直だった。

「っ、羽鳥さん、やじゃなかったら、して」

 普段ならそんなこと言わないのに、口をついて出てしまった言葉に、吉井の胸中は乱れていた。
 いくら発情しているからといっても、羽鳥とは今日あったばかりだ。
 初日からこんなことをして、淫乱なΩだと思われてしまう。
 引かれたくない。
 こんなの、自分じゃないみたいだった。

「いいの?」

 羽鳥の声も欲に濡れているのがわかる。羽鳥も、吉井のフェロモンの影響を受けているのは明らかだった。

「ん、いい、はやく。ピル飲んでるし、羽鳥さんなら、いい、から」

 羽鳥を見上げながら、恐る恐る布越しの羽鳥の猛りに手を添える。手のひらを押し当てると、布越しにも熱く脈打っているのがわかる。
 こんなふうに触って、怒られるだろうか。
 羽鳥は、こんなΩは嫌いだろうか。
 吉井の胸はそんな不安でいっぱいだった。なのに、身体の方はそんなことはお構い無しに熱を上げていく。

「——っ、ねえ、それ、ずるいよ」

 羽鳥が唸るような声を上げた。その声も、すっかり昂ったαのものになっていた。
 その低く獰猛な響きは、吉井の胸の不安を吹き飛ばすには十分だった。
 羽鳥はもたれかかる吉井を抱え直した。
 向かい合って膝の上に乗せられて、すぐ目の前に羽鳥の端正な顔が見える。
 怯えた色ばかり見せていた鳶色の瞳は、今や獰猛なαの本能に染まってぎらついて、真っ直ぐに吉井を映していた。

「ほまれって、呼んで」

 吸い寄せられるように吉井は羽鳥の首に腕を回した。そうしようと思わなくても、勝手に甘えた声が漏れる。唇が触れ合いそうな距離で、二人分の吐息の熱が混ざる。

「じゃあ、保って呼んで、誉くん」

 羽鳥は白い蜜に塗れた吉井の唇に、笑みの形の唇を重ねた。
 羽鳥の唇は、見た目よりもずっと柔らかかった。
そのまま貪るように深く重なり、舌を絡め取られる。
 こんなに深いキスを、吉井は知らなかった。
 自分の知っていたキスなど、戯れのようなものだったのだと思い知らされる。
 羽鳥の厚い舌に口内を探られ、最後に強く舌を吸われた。羽鳥の腕の中にいるのに、緩い眩暈を感じる。身体には力が入らなくて、羽鳥にすべて委ねたいと思った。

「ふふ、誉くんのフェロモン、すごくいい匂いだ」

 離れた羽鳥の唇が、吐息とともに甘い声を零した。
 うっとりと細められた羽鳥の目には、情欲の炎がはっきりと揺らめいていた。
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