28 / 36
悠真編
邂逅
しおりを挟む
目覚めたのは、薄明かりの中だ。布団の中、裸でミロクと抱き合っていた。
ひどくいやらしい夢を見ていたような気もする。
身体はうっすらと怠い。
体液で汚れたはずの体は清められていて、あれが夢だったのか本当にあったのかわからない。
悠真は確かめるように薄い腹を撫でる。
丸く張っていたはずのそこは、見慣れた薄い腹に戻っていた。
感じる一抹の寂しさに、悠真は困惑する。
胎から産まれた卵から孵った、黒い蛇のようなもの。ミロクは山を富ませる子だと言っていた。
おそるおそる布団の中を覗き込むが、痕跡は見当たらなかった。
あれは夢だったとでも言うように、悠真の身体にも布団にも何の痕跡も残っていない。
ただ微かに、甘く重だるい感覚が残っているだけだ。
「悠真」
甘い声に呼ばれて声の主を見る。
ミロクは眠そうに、瞬きをした。
「たくさん産めたね。上手だったよ、悠真」
言われて、やはり夢でなかったのだとわかった。
「ご褒美あげよう」
「ごほうび?」
「上手に産めたからね」
どうやら、卵を産んだご褒美に、ミロクは悠真に何かしてくれるようだった。
「帰りたい? 何か食べたい?」
「あ……」
悠真の脳裏に浮かんだのは一つだけだった。
「槙野宗慈に、会いたい」
悠真の言葉に、ミロクは静かな微笑みを返す。
「構わないよ」
風呂で身体を清められ、白銀の着物を着せられた悠真は、ミロクのいた宮から長い渡り廊下を渡った先、小さな宮に連れて行かれた。
宮の周りは相変わらず霧に閉ざされていて、周りの様子はわからない。
案内された質素な宮の、一番奥の部屋に通された。
広い和室には、すでに誰かがいた。
白い着物を纏う二人の男。一人は肩くらいの長さの白い髪の、ミロクによく似た男。隣には、短い黒髪の精悍な男がいた。どちらも年齢は三十くらいのように見える。
穏やかな表情で並ぶ二人と向き合うように、ミロクが並ぶ座布団の上に座る。悠真もそれに倣って座った。
「父上、母上、お久しぶりです。花嫁を連れて参りました」
ミロクが深く頭を下げる。どうやら目の前の二人は本当にミロクの親のようだった。
短髪の男の顔は、新聞の切り抜きで見た顔とよく似ていた。
「あんたが……槙野宗慈なのか」
悠真の口からは自然と声が漏れた。
「久しぶりにその名を聞いた。懐かしい」
悠真の不躾な物言いにも怒る様子はなく、白い髪の男が楽しげに目を細めた。
「君は…… ?」
その隣にいる男は、不思議そうに悠真を見た。自分の名を知っているのがなぜなのかわからないようだった。
「三笠悠真といいます」
悠真は声が震えるのがわかった。
「宗慈、知り合いか」
「いえ……」
宗慈と呼ばれた男は曖昧に笑う。
「帰ろうと、思わないのか」
悠真は震えを何とか押し込めて、宗慈に訊いた。
「帰る? どこへだい?」
悠真の問いに、宗慈は穏やかな表情で問いを返した。悠真がなぜそんなことを言うのかわからないようだった。
その言葉に、悠真は驚いた。その受け答えからは、見た目の年齢なりの知性がはっきりと感じられる。宗慈の口ぶりはまるで、元から故郷などないようだった。
「俺には、シラツチ様がいる。だから、どこへも行かないよ」
子供に言い聞かせるような、優しい声だった。その声は穏やかで、ひどく満たされたような幸福感さえある。
ショックだった。
以前の記憶がないのか、それとも、ここで暮らすことに決めてしまったのか。それ以上、悠真に追求する気は起きなかった。
脚の力が抜けてしまったように、悠真は動くことができなかった。
それからミロクたちが話していたことも、覚えていない。楽しげに言葉を交わすミロクたちを、悠真はただぼんやりと眺めることしかできなかった。話している内容も、まるで入ってこない。話し声は聞こえるのに、何を話しているのか、言葉を拾うことができなかった。
立ち上がれない悠真はミロクに抱き上げられ、宮に戻った。
宮に戻るまでの間、ミロクの腕の中で、悠真はずっと押し黙っていた。
悠真の胸には漠然とした不安があった。自分はどうなるのか。このまま、ミロクとここで暮らすのか。また、卵を産むのか。
布団の上に降ろされ、へたり込むように座ったまま、悠真は動けなかった。
ひどくいやらしい夢を見ていたような気もする。
身体はうっすらと怠い。
体液で汚れたはずの体は清められていて、あれが夢だったのか本当にあったのかわからない。
悠真は確かめるように薄い腹を撫でる。
丸く張っていたはずのそこは、見慣れた薄い腹に戻っていた。
感じる一抹の寂しさに、悠真は困惑する。
胎から産まれた卵から孵った、黒い蛇のようなもの。ミロクは山を富ませる子だと言っていた。
おそるおそる布団の中を覗き込むが、痕跡は見当たらなかった。
あれは夢だったとでも言うように、悠真の身体にも布団にも何の痕跡も残っていない。
ただ微かに、甘く重だるい感覚が残っているだけだ。
「悠真」
甘い声に呼ばれて声の主を見る。
ミロクは眠そうに、瞬きをした。
「たくさん産めたね。上手だったよ、悠真」
言われて、やはり夢でなかったのだとわかった。
「ご褒美あげよう」
「ごほうび?」
「上手に産めたからね」
どうやら、卵を産んだご褒美に、ミロクは悠真に何かしてくれるようだった。
「帰りたい? 何か食べたい?」
「あ……」
悠真の脳裏に浮かんだのは一つだけだった。
「槙野宗慈に、会いたい」
悠真の言葉に、ミロクは静かな微笑みを返す。
「構わないよ」
風呂で身体を清められ、白銀の着物を着せられた悠真は、ミロクのいた宮から長い渡り廊下を渡った先、小さな宮に連れて行かれた。
宮の周りは相変わらず霧に閉ざされていて、周りの様子はわからない。
案内された質素な宮の、一番奥の部屋に通された。
広い和室には、すでに誰かがいた。
白い着物を纏う二人の男。一人は肩くらいの長さの白い髪の、ミロクによく似た男。隣には、短い黒髪の精悍な男がいた。どちらも年齢は三十くらいのように見える。
穏やかな表情で並ぶ二人と向き合うように、ミロクが並ぶ座布団の上に座る。悠真もそれに倣って座った。
「父上、母上、お久しぶりです。花嫁を連れて参りました」
ミロクが深く頭を下げる。どうやら目の前の二人は本当にミロクの親のようだった。
短髪の男の顔は、新聞の切り抜きで見た顔とよく似ていた。
「あんたが……槙野宗慈なのか」
悠真の口からは自然と声が漏れた。
「久しぶりにその名を聞いた。懐かしい」
悠真の不躾な物言いにも怒る様子はなく、白い髪の男が楽しげに目を細めた。
「君は…… ?」
その隣にいる男は、不思議そうに悠真を見た。自分の名を知っているのがなぜなのかわからないようだった。
「三笠悠真といいます」
悠真は声が震えるのがわかった。
「宗慈、知り合いか」
「いえ……」
宗慈と呼ばれた男は曖昧に笑う。
「帰ろうと、思わないのか」
悠真は震えを何とか押し込めて、宗慈に訊いた。
「帰る? どこへだい?」
悠真の問いに、宗慈は穏やかな表情で問いを返した。悠真がなぜそんなことを言うのかわからないようだった。
その言葉に、悠真は驚いた。その受け答えからは、見た目の年齢なりの知性がはっきりと感じられる。宗慈の口ぶりはまるで、元から故郷などないようだった。
「俺には、シラツチ様がいる。だから、どこへも行かないよ」
子供に言い聞かせるような、優しい声だった。その声は穏やかで、ひどく満たされたような幸福感さえある。
ショックだった。
以前の記憶がないのか、それとも、ここで暮らすことに決めてしまったのか。それ以上、悠真に追求する気は起きなかった。
脚の力が抜けてしまったように、悠真は動くことができなかった。
それからミロクたちが話していたことも、覚えていない。楽しげに言葉を交わすミロクたちを、悠真はただぼんやりと眺めることしかできなかった。話している内容も、まるで入ってこない。話し声は聞こえるのに、何を話しているのか、言葉を拾うことができなかった。
立ち上がれない悠真はミロクに抱き上げられ、宮に戻った。
宮に戻るまでの間、ミロクの腕の中で、悠真はずっと押し黙っていた。
悠真の胸には漠然とした不安があった。自分はどうなるのか。このまま、ミロクとここで暮らすのか。また、卵を産むのか。
布団の上に降ろされ、へたり込むように座ったまま、悠真は動けなかった。
0
お気に入りに追加
58
あなたにおすすめの小説
アダルトショップでオナホになった俺
ミヒロ
BL
初めて同士の長年の交際をしていた彼氏と喧嘩別れした弘樹。
覚えてしまった快楽に負け、彼女へのプレゼントというていで、と自分を慰める為にアダルトショップに行ったものの。
バイブやローションの品定めしていた弘樹自身が客や後には店員にオナホになる話し。
※表紙イラスト as-AIart- 様(素敵なイラストありがとうございます!)
溺愛前提のちょっといじわるなタイプの短編集
あかさたな!
BL
全話独立したお話です。
溺愛前提のラブラブ感と
ちょっぴりいじわるをしちゃうスパイスを加えた短編集になっております。
いきなりオトナな内容に入るので、ご注意を!
【片思いしていた相手の数年越しに知った裏の顔】【モテ男に徐々に心を開いていく恋愛初心者】【久しぶりの夜は燃える】【伝説の狼男と恋に落ちる】【ヤンキーを喰う生徒会長】【犬の躾に抜かりがないご主人様】【取引先の年下に屈服するリーマン】【優秀な弟子に可愛がられる師匠】【ケンカの後の夜は甘い】【好きな子を守りたい故に】【マンネリを打ち明けると進み出す】【キスだけじゃあ我慢できない】【マッサージという名目だけど】【尿道攻めというやつ】【ミニスカといえば】【ステージで新人に喰われる】
------------------
【2021/10/29を持って、こちらの短編集を完結致します。
同シリーズの[完結済み・年上が溺愛される短編集]
等もあるので、詳しくはプロフィールをご覧いただけると幸いです。
ありがとうございました。
引き続き応援いただけると幸いです。】
【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集
あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。
こちらの短編集は
絶対支配な攻めが、
快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす
1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。
不定期更新ですが、
1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
書きかけの長編が止まってますが、
短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。
よろしくお願いします!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる