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宗慈編
お礼
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一晩、かどうかもわからない。随分ぐっすり眠っていた気がした。部屋は眠りにつく前と変わらない、夜明けのような明るさだった。
身体はずいぶん楽になった。熟睡していたのか、夢はほとんど見なかった。
宗慈は身体を起こし、改めて部屋を見回した。質素な部屋だった。床の間にも何が飾られるでもない、何もない部屋だった。
不意に足音が近付いてくるのに気が付いた。
「宗慈」
ミロクの声だった。障子が開き、ミロクの美しい顔が部屋を覗き込む。
「ミロク様」
「顔色も良くなったね。何よりだ」
ミロクは部屋に入ってくると布団の側に静かに座った。
宗慈は乱れた浴衣を直し、正座をするとミロクに向き合った。
「お世話になりました。あの、何かお礼がしたいんですが」
「お礼なんて要らないよ。宗慈も、帰りたいだろう?」
「それは、そうですけど、こんなに良くしてもらって、何もなしというのは申し訳ないので。俺にできることなら」
神様に助けてもらって、何もしないで帰るというのも何だか申し訳なくて、せめて掃除なりなんなり、させてもらえた方が気が楽だった。
「宗慈は律儀だね。ならばひとつ、頼まれてくれるかな」
「はい」
穏やかなミロクの声に、宗慈は頷く。
「はらを、貸してくれないだろうか」
「は、はら……?」
ミロクの言葉に、宗慈は自分の腹を撫でる。
「そのはらで、私の精を受けてほしい。本来なら贄にすることなんだけど、贄が来なくなって久しくてね。たまにくる迷い人も、宗慈のように若くて健康な人間は少ないんだ」
ミロクは眉を下げた。その表情には憂いがうっすらと影を落としていた。
「嫌なことはしたくないが、もしできるなら頼めないだろうか」
ミロクの言ってることはなんとなく理解したが、それではまるで、子を産んで欲しいということではないか。
体力にも気力にも自信はある。鍛えているので筋肉もまあついている方だが、そういう問題ではない。
宗慈は男だ。普通に考えて孕んだり産んだりできる身体の構造ではない。
「あの、ミロクさま、俺、男……」
おずおずと口を開く宗慈に、ミロクは笑みを返すばかりだった。
「問題ないよ。私に任せて」
そんなことは問題にならないとでも言いたげなミロクに、そう言われてしまっては宗慈に返せる言葉は無かった。
命を助けられた恩がある。あとで呪われたりしたら嫌だし、背を向けた瞬間に食われるのも嫌だ。相手は山神、ミロク様だ。死ぬことに比べたら、はらを貸すことくらい大したことではないように思えた。
命を取られないならばよしとしよう。それで、役目が終わったら、帰ろう。
宗慈はそうやって自分を納得させた。
布団の上に正座して、ミロクに向き合い、深々と頭を下げた。
「お手柔らかにお願いします」
こうして、宗慈はよく理解できないまま、ミロクにはらを貸すことになった。
このときの宗慈は、この後その身に降りかかるものを知る由も無かった。
身体はずいぶん楽になった。熟睡していたのか、夢はほとんど見なかった。
宗慈は身体を起こし、改めて部屋を見回した。質素な部屋だった。床の間にも何が飾られるでもない、何もない部屋だった。
不意に足音が近付いてくるのに気が付いた。
「宗慈」
ミロクの声だった。障子が開き、ミロクの美しい顔が部屋を覗き込む。
「ミロク様」
「顔色も良くなったね。何よりだ」
ミロクは部屋に入ってくると布団の側に静かに座った。
宗慈は乱れた浴衣を直し、正座をするとミロクに向き合った。
「お世話になりました。あの、何かお礼がしたいんですが」
「お礼なんて要らないよ。宗慈も、帰りたいだろう?」
「それは、そうですけど、こんなに良くしてもらって、何もなしというのは申し訳ないので。俺にできることなら」
神様に助けてもらって、何もしないで帰るというのも何だか申し訳なくて、せめて掃除なりなんなり、させてもらえた方が気が楽だった。
「宗慈は律儀だね。ならばひとつ、頼まれてくれるかな」
「はい」
穏やかなミロクの声に、宗慈は頷く。
「はらを、貸してくれないだろうか」
「は、はら……?」
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「そのはらで、私の精を受けてほしい。本来なら贄にすることなんだけど、贄が来なくなって久しくてね。たまにくる迷い人も、宗慈のように若くて健康な人間は少ないんだ」
ミロクは眉を下げた。その表情には憂いがうっすらと影を落としていた。
「嫌なことはしたくないが、もしできるなら頼めないだろうか」
ミロクの言ってることはなんとなく理解したが、それではまるで、子を産んで欲しいということではないか。
体力にも気力にも自信はある。鍛えているので筋肉もまあついている方だが、そういう問題ではない。
宗慈は男だ。普通に考えて孕んだり産んだりできる身体の構造ではない。
「あの、ミロクさま、俺、男……」
おずおずと口を開く宗慈に、ミロクは笑みを返すばかりだった。
「問題ないよ。私に任せて」
そんなことは問題にならないとでも言いたげなミロクに、そう言われてしまっては宗慈に返せる言葉は無かった。
命を助けられた恩がある。あとで呪われたりしたら嫌だし、背を向けた瞬間に食われるのも嫌だ。相手は山神、ミロク様だ。死ぬことに比べたら、はらを貸すことくらい大したことではないように思えた。
命を取られないならばよしとしよう。それで、役目が終わったら、帰ろう。
宗慈はそうやって自分を納得させた。
布団の上に正座して、ミロクに向き合い、深々と頭を下げた。
「お手柔らかにお願いします」
こうして、宗慈はよく理解できないまま、ミロクにはらを貸すことになった。
このときの宗慈は、この後その身に降りかかるものを知る由も無かった。
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