ミロクの山

はち

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悠真編

伺い

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 身体を清められ、悠真は浴衣のようなものを羽織らされた。洗い上げた身体に柔らかな生地を掛けただけの格好で、悠真はミロクに連れられて廊下を歩く。ミロクは隣で悠真の腰に手を添え、まるでエスコートでもするようだった。
 ミロクに連れて行かれたのは寝室のような和室だった。
 布団が一組だけ敷かれた、静かで薄暗い部屋。
 これから行われることがどういうものなのかぼやけた頭で考え、悠真は思わず息を呑んだ。
 花嫁として、ミロクに抱かれるのだろうか。
 悠真の身体にはミロクを受け入れられるような場所は一つしかない。先程清められた場所だ。
 期待と不安に、心臓が煩く喚いている。

「悠真」

 優しい声に呼ばれて肩が跳ねた。

「怖いか」

 悠真は押し黙ったまま頷く。
 怖い。セックスは知っているが、男との経験はない。もちろん受け入れる側の経験もない。
 緊張に強張った顔を覗き込まれた。
 ミロクは美しい顔をしている。男とわかる顔だが、整った顔立ちでどこか中性的な印象がある。

「やめるか。無理強いするものでもない」

 ミロクは形の良い眉を下げ、笑った。
 しかし、身体の奥に灯った火種は腹の底を炙り、もう無視できないくらいに燃え広がっていた。

「っ、や、だ」

 喉からは切羽詰まった声が漏れる。聞き分けのない子どものようだったが、そんなことを気にしている余裕はなかった。

「悠真」

 ミロクは悠真に向き合い膝立ちになる。ずっと見上げていたミロクに見上げられるのは不思議な感覚だった。

「お前のしたいようにしようか」

 静かな声が告げる。伺うような金色の瞳が揺らめく。

「触れてもいいか」
「ん」

 悠真が頷くと、ミロクの白い手が頬に触れた。頬を撫で、その手は首筋へと滑り降りる。

「これは」
「へいき」
「ふふ、お前は愛らしいな、悠真」

 ミロクの手のひらは滑らかだった。薄い温もりが、胸板を撫でる。

「これは、怖くないか」
「ん」

 悠真と目を合わせ、ミロクは悠真の恐れと躊躇いをひとつずつ取り除いていく。
 穏やかな声が、甘い香りが、思考を溶かし、悠真から理性を剥ぎ取っていく。

「唇を」
「ん」

 誘われるまま、悠真は身体を屈めミロクと唇を重ねる。ミロクの唇は悠真よりも温もりが薄く、触れるだけのそれはなんだか物足りなかった。
 物欲しげに舌先でミロクの唇をなぞると、ミロクはするりと逃げてしまう。

「悠真」
「ん、もっと、ほしい」

 離れてしまうのが寂しくて、悠真はミロクの美しい唇を目で追う。

「キス、して」
「きす?」

 ミロクはキスが何なのかわかっていない。悠真はもう一度唇を触れ合わせた。

「これ」
「ふふ、悠真はキスが好きか?」
「ん、すき」

 唇が重なるだけで気持ちがいい。舌が絡むともっと気持ちよくて、腰が震えた。
 悠真はいつの間にかミロクとの口づけに夢中になっていた。
 とろけるような唇を深く重ね、舌を絡め、擦り合い、熱い粘膜を探るようにくすぐられる。
 身体の芯が熱くなって、悠真は腰を震わせた。

「ミロクさま」
「怖くないか、悠真」
「ん、怖くない。へーき、だから」

 肩に掛けられた浴衣のようなものが滑り落ちる。落としたのは、悠真だった。
 羽織っていたものが落ちると、悠真の身体を隠すものは何もない。うっすらと筋肉を纏う白い肢体が惜しげもなく晒される。

「して、ミロクさま」

 一糸纏わぬ姿を晒し、悠真はミロクの金の瞳を覗き込む。
 美しい瞳に悠真を映し、ミロクは笑みを深めた。
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