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後日譚
降り立つ竜王
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アウファトは慌てて玄関の扉を開け放った。
玄関を出た先は季節の花と木々に彩られた前庭がある。
季節の花の咲く庭には、秋の花が咲き始めていて、柔らかな香りが風になって流れてきた。
いつもならのんびり花の香りを楽しむのだが、今日ばかりはそうもいかなかった。
花と木々を揺らし、柔らかな風とともに舞い降りたのは、四本角の竜人ばかりが六人。いずれも竜王だと一目でわかる。
白き竜王フィノイクスを先頭に、並び立つのはそれぞれが四本角と竜翼と、尾を持っていた。
ジェジーニアと同じかそれより大きい竜王が四人、フィノイクスと同じくらいの小柄な竜王が一人。
赤い鱗と角を持つ赤髪の気の強そうな青年、青白い鱗に白銀の角を持つアウファトよりもいくらか年上に見える銀髪の男、土色の鱗と角、同じ色の髪を持つ眠そうな目の青年、白緑色の鱗と角に同じく白緑色の長い髪を緩く結った穏やかな顔立ちの青年、金色の鱗と角に長い金髪を持つ美しい少年。
世界を守護する竜王の姿がさほど広くない庭に並ぶのは壮観だった。
呆気に取られるアウファトの前にやってきたのは、少年の姿の白き竜王、フィノイクスだ。美しい暁色の瞳にアウファトを映すと、変わらぬ穏やかな笑みを浮かべた。
「元気そうだね」
「フィノイクス、どういうことだ」
「フィノと呼んでくれていいよ、アウファト」
アウファトの動揺などどこ吹く風で、フィノイクスは笑みを崩さず続けた。
「迎えに来たよ、アウファト」
その言葉に、アウファトは意味がわからずフィノイクスを見返した。
隣にいたジェジーニアはアウファトの手を握って首を横に振る。
「だめ」
ジェジーニアの硬い声に反応したのは、白銀の角の竜王だった。
「なぜだ、ジェジーニア。それがお前の花嫁だろう。竜王の宮へ迎えにきた。何か不満か」
白銀の角の竜王は、静かにジェジーニアを見据える。ジェジーニアよりも、アウファトよりも年上に見えるその姿は、竜王と言われて納得する威厳に満ちた姿をしている。
それでもジェジーニアは臆する様子もなく首を横に振る。
「あうは、ここにいないとだめだ」
ジェジーニアの喉が低く唸りを上げた。怒っている。アウファトは慌ててジェジーニアを見た。
わずかに眉を寄せたジェジーニアは、喉を低く鳴らして竜王たちを睨んでいる。
「これが黒き竜王の花嫁か」
ジェジーニアの様子など気にも留めない様子で赤い角の竜王が顎を撫でながら物珍しそうにアウファトを覗き込んだ。
揺らめく炎のような美しい目に見つめられて、アウファトは息を呑んだ。
「トルヴァディアは通っていたようだが」
土色の角の竜王の眠そうな声が響いた。
「あれはまた別だ。あれは物好きだし、相手は一国の王だったからな。流石に国から王を取り上げるわけにもいかぬだろう」
白銀の角の竜王が振り返り苦笑する。
黒き竜王トルヴァディアは変わり者だったというのは、誰もが知っていることらしい。
「おや、花嫁は卵をお持ちのようですね」
穏やかな声は白緑の角の竜王のものだった。
「ふうん、卵を孕んだのか」
金の髪の少年が退屈そうに言う。
二人の竜王の言葉に、そこにいる竜王の美しい瞳がことごとく自分に向いてアウファトは狼狽える。
自分の中にあるかどうかもわからないのに、彼らにははっきりとその存在がわかっているようだった。なんだか裸にされたような気分で、顔に熱が集まる。アウファトは朱の差した頬を見られたくなくて俯いた。
「そうか、卵が……」
フィノイクスの声に、ジェジーニアは頷いた。大きな手のひらが、アウファトの手のひらを包むように握り直した。見上げた横顔は真っ直ぐにフィノイクスを見据える、頼もしいつがいの顔だった。
「それなら仕方ないね。本来なら、特に理由がなければ竜王の宮に召し上げられるんだけど。花嫁を無理に連れて行っては卵に良くない。落ち着くまではここにいていいよ。君もね。ジェジーニア。花嫁についていてあげて」
「ン、わかった」
ジェジーニアの素直な返事に、フィノイクスは満足げに微笑んだ。
玄関を出た先は季節の花と木々に彩られた前庭がある。
季節の花の咲く庭には、秋の花が咲き始めていて、柔らかな香りが風になって流れてきた。
いつもならのんびり花の香りを楽しむのだが、今日ばかりはそうもいかなかった。
花と木々を揺らし、柔らかな風とともに舞い降りたのは、四本角の竜人ばかりが六人。いずれも竜王だと一目でわかる。
白き竜王フィノイクスを先頭に、並び立つのはそれぞれが四本角と竜翼と、尾を持っていた。
ジェジーニアと同じかそれより大きい竜王が四人、フィノイクスと同じくらいの小柄な竜王が一人。
赤い鱗と角を持つ赤髪の気の強そうな青年、青白い鱗に白銀の角を持つアウファトよりもいくらか年上に見える銀髪の男、土色の鱗と角、同じ色の髪を持つ眠そうな目の青年、白緑色の鱗と角に同じく白緑色の長い髪を緩く結った穏やかな顔立ちの青年、金色の鱗と角に長い金髪を持つ美しい少年。
世界を守護する竜王の姿がさほど広くない庭に並ぶのは壮観だった。
呆気に取られるアウファトの前にやってきたのは、少年の姿の白き竜王、フィノイクスだ。美しい暁色の瞳にアウファトを映すと、変わらぬ穏やかな笑みを浮かべた。
「元気そうだね」
「フィノイクス、どういうことだ」
「フィノと呼んでくれていいよ、アウファト」
アウファトの動揺などどこ吹く風で、フィノイクスは笑みを崩さず続けた。
「迎えに来たよ、アウファト」
その言葉に、アウファトは意味がわからずフィノイクスを見返した。
隣にいたジェジーニアはアウファトの手を握って首を横に振る。
「だめ」
ジェジーニアの硬い声に反応したのは、白銀の角の竜王だった。
「なぜだ、ジェジーニア。それがお前の花嫁だろう。竜王の宮へ迎えにきた。何か不満か」
白銀の角の竜王は、静かにジェジーニアを見据える。ジェジーニアよりも、アウファトよりも年上に見えるその姿は、竜王と言われて納得する威厳に満ちた姿をしている。
それでもジェジーニアは臆する様子もなく首を横に振る。
「あうは、ここにいないとだめだ」
ジェジーニアの喉が低く唸りを上げた。怒っている。アウファトは慌ててジェジーニアを見た。
わずかに眉を寄せたジェジーニアは、喉を低く鳴らして竜王たちを睨んでいる。
「これが黒き竜王の花嫁か」
ジェジーニアの様子など気にも留めない様子で赤い角の竜王が顎を撫でながら物珍しそうにアウファトを覗き込んだ。
揺らめく炎のような美しい目に見つめられて、アウファトは息を呑んだ。
「トルヴァディアは通っていたようだが」
土色の角の竜王の眠そうな声が響いた。
「あれはまた別だ。あれは物好きだし、相手は一国の王だったからな。流石に国から王を取り上げるわけにもいかぬだろう」
白銀の角の竜王が振り返り苦笑する。
黒き竜王トルヴァディアは変わり者だったというのは、誰もが知っていることらしい。
「おや、花嫁は卵をお持ちのようですね」
穏やかな声は白緑の角の竜王のものだった。
「ふうん、卵を孕んだのか」
金の髪の少年が退屈そうに言う。
二人の竜王の言葉に、そこにいる竜王の美しい瞳がことごとく自分に向いてアウファトは狼狽える。
自分の中にあるかどうかもわからないのに、彼らにははっきりとその存在がわかっているようだった。なんだか裸にされたような気分で、顔に熱が集まる。アウファトは朱の差した頬を見られたくなくて俯いた。
「そうか、卵が……」
フィノイクスの声に、ジェジーニアは頷いた。大きな手のひらが、アウファトの手のひらを包むように握り直した。見上げた横顔は真っ直ぐにフィノイクスを見据える、頼もしいつがいの顔だった。
「それなら仕方ないね。本来なら、特に理由がなければ竜王の宮に召し上げられるんだけど。花嫁を無理に連れて行っては卵に良くない。落ち着くまではここにいていいよ。君もね。ジェジーニア。花嫁についていてあげて」
「ン、わかった」
ジェジーニアの素直な返事に、フィノイクスは満足げに微笑んだ。
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