【完結】ゼジニアの白い揺籠

はち

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愛で結ぶ*

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 白い花が絨毯のように敷き詰められたそこは柔らかい。胡座をかくジェジーニアの脚の上に向かい合うように乗せられたアウファトは、ジェジーニアに優しく抱きしめられる。服越しに感じる温もりは、求めていたものだ。
 ため息を漏らすアウファトのうなじに、柔らかな唇が押し当てられる。
 儀式が始まる。アウファトと、ジェジーニアをつなぐ儀式だ。
 熱く濡れた舌にぬるりと舐められ、甘く当てられた歯の鋭さに身震いする。
 竜王が、うなじを噛むことでつがいは成立する。
 これから突き立てられるであろう尖った歯の感触に、アウファトはジェジーニアにしがみついた。

「大丈夫。怖いことなんかないよ」

 宥めるような声が聞こえて、硬い歯が薄い皮膚に突き立てられる。熱を帯びた鋭い痛みの後に訪れるのは、痛みも恐怖も飲み込む、言いようのない甘い感覚だった。

「あ……ぅ」

 ずっと欲しかったものが齎された安堵に、言葉にならない声が漏れた。
 胸のもっと奥。深い場所が満たされる。本能とでもいうべきアウファトの一番深い場所が、温かなものに満たされていく。
 ジェジーニアの、つがいになった。本能に刻まれた実感が、全身に悦びを運んでいく。
 噛まれたうなじからは、温もりを帯びた血が溢れる。
 流れ落ちる血をジェジーニアが舌で掬うと傷はすぐに塞がり、アウファトのうなじにはその痕跡だけが残った。花嫁の証となるものだった。
 つがいとして完全に目覚めたアウファトの身体は、ふわりと柔らかな芳香を放つ。ランダリムの花の香りだ。

「ジジ、腹が、熱い」

 臍の奥が、甘く疼いている。いつか感じたのよりもずっと濃い感覚に、アウファトは声を震わせた。
 身体が変わっていくような感覚。悦びと恐れの混ざったものが、胸を震わせた。
 しがみついたアウファトは腹の切なさを紛らわせようとジェジーニアに擦り寄る。
 ジェジーニアの温もりがないと頭がおかしくなりそうだった。乞うような視線で見上げると、ジェジーニアは目を細めた。

「アウファトの身体が、花嫁の身体になってるんだ」
「あ……」

 温かい手のひらが頬を撫でるだけで、声が漏れる。自分の声とは思えない、甘い声だ。

「アウファト、俺とひとつになって」

 ひとつになる。もうその意味をわからないアウファトではない。胸に湧く悦びとともに頷くと、ジェジーニアの笑みが見えた。

「うれしい、あう、痛くしたら、ごめんね」
「いいよ、ジジ」

 アウファトはジェジーニアに抱きつく腕に力を込めた。
 ジェジーニアの手のひらに頭を撫でられると、自然と体が緩んでいく。ジェジーニアに身体を委ねると、ジェジーニアは一枚ずつアウファトが纏うものを剥ぎ取っていく。優しいその手は、たちまちアウファトを一糸纏わぬ姿にした。それはアウファトの心まで無防備にするようだった。

 ジェジーニアもまた、惜しげもなくその身体を晒した。
 均整の取れた身体に、流れるような美しい黒髪。竜王の証たる、四つの角。艶やかな黒鱗を纏う長い尾、逞しい漆黒の竜翼。どれもが、竜王の威風を放っている。

 見惚れるアウファトの身体を、ジェジーニアは柔らかな花の絨毯の上に横たえた。
 ジェジーニアは覆い被さり、身体の下へとアウファトを隠すと、清らかな白い花の香りがアウファトを包む。
 アウファトの顔に柔らかな陰が落ち、すぐそこに、愛しいジェジーニアの顔が見える。黄昏前の空の色が、真っ直ぐにアウファトを射抜いた。

「アウファト、愛してる」

 ジェジーニアの柔らかな唇が額に触れる。
 何かが弾ける音がして、時が止まったような気がした。
 胸が温かい。身体に、温かなものが満ちていく。
 それは、ジェジーニアから流れ込んでくるようだった。

「あう、フィーに、祝福をもらった。フィーが、あうに残してくれた祝福」
「祝福……」

 フィオディークが、アウファトのためにジェジーニアに託したものだ。
 アウファトの身体を満たすのは、フィオディークの温かな力だった。包み込むような優しさは、アウファトに安らぎもたらした。それが果たしてアウファトに使えるものなのかはわからないが、誰かの力が内にあるのは不思議な感覚だった。

「あう」

 優しい声に呼ばれ、ジェジーニアの温かな唇が降り、アウファトの、身体余さず柔らかな唇に愛される。
 アウファトの肌へ、ジェジーニアは唇を這わせていく。
 くすぐったくて、アウファトは宥めるようにジェジーニアの髪を撫でた。

「ジジ、くすぐったい」
「あうの匂い、もっと教えて」

 ジェジーニアは甘えるように、アウファトの肌へ擦り寄る。

「ジジ」

 唇と舌が、じっくりと肌の上を滑る。時折微かな痛みとともに赤い跡を残しながら、ジェジーニアはアウファトの肌を味わった。
 アウファトはジェジーニアに与えられるもどかしい快感に身を捩り、膝を擦り合わせる。
 腹の疼きは止まらないどころか、ひどくなるばかりだった。
 尻のあわいが熱く濡れている。
 どうしてそうなっているのかわからない。これがつがいの身体なのか。アウファトは縋るようにジェジーニアを見つめる。

「ジジ」

 ジェジーニアの唇が臍に口づけた。
 すぐ下には、はしたなく勃ち上がる昂りがある。

「っ、あ、そこは」

 止めたいのに、上手く言葉が出ない。心の奥からは絶えず期待と悦びが湧いて、止まらない。

「あう、気持ちいいね」
「っふ、あ」

 ジェジーニアは、蜜に濡れそぼる昂りに迷わず唇を付けた。

「ジジ、ジジ」

 制止の言葉はいまだ出てこないままだ。
 ジェジーニアは口を開けて、そんなところまで丹念に舐めていく。
 温かくて気持ちがよくて、頭の中が白飛びしそうだ。
 腹の底から湧いてくる快感が、アウファトの全身を冒していく。

「っ、あ、ぁ」

 言葉にならない溶けた声ばかりが漏れて、アウファトは身体を羞恥に染める。
 もう、限界が近い。このままではジェジーニアの口に出してしまう。
 逃れようとしても、ジェジーニアにしっかりと押さえ込まれたアウファトの身体は動かない。

「ジジ、離してくれ、口に……」

 言いかけたアウファトを揶揄うように、ジェジーニアが吸い上げる。

「ふあ」

 腰が跳ね、花芯が脈打つ。
 アウファトはジェジーニアの熱い粘膜の中で吐精した。熱いものがジェジーニアの柔らかな粘膜を汚すことに、甘美な罪悪感がアウファトの胸を塗りつぶしていく。
 空色の瞳が潤む。
 温かなジェジーニアの口で、アウファトのものは何度も脈打ち、白い濁りを無遠慮に吐き出していく。
 ジェジーニアの口に出してしまった。

「あ、あ……」

 唇が震え、眦が熱く濡れた。
 心臓が早鐘のように鼓動を刻む。
 腰は勝手に揺れ、膝も震える。
 ジェジーニアの喉が鳴った。飲んだのだろう。
 残滓を優しく吸い上げられて、アウファトははしたなく啼いた。
 名残惜しそうにジェジーニアの唇が離れていく。
 アウファトの痩せた腹の上には、柔らかくなった花芯が横たわった。

「アウファト、おいしい」

 身体を起こし、白く汚れた唇を舐めるジェジーニアの姿はどこか淫靡で、アウファトは息を呑んだ。

「アウファト、ここ、もう支度ができたみたい」

 ジェジーニアの熱い指先が撫でるのは、尻のあわいにひっそりと息づく、粘液に濡れた窄まりだった。
 指先であやすように撫でられると、もどかしくてひくついてしまう。そこはもう、ジェジーニアを欲しがっていた。

「おれを、受け入れて。アウファト」
「ん」

 いつかの夜と同じ、乞うような声に、アウファトは頷く。もう覚悟はできていた。

「うれしい」

 ジェジーニアの金の瞳が濡れた。
 ジェジーニアの手は、優しくアウファトの脚を広げていく。晒される秘処に、肌を染めるのはいまだ残る羞恥だった。
 それでも、胸に溢れ、肌の温度を上げるのは悦びと期待だ。
 ジェジーニアに満たされたい。
 つがいの身体は、素直に貪欲にジェジーニアを求めていた。
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