【完結】ゼジニアの白い揺籠

はち

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降り、満たすもの*

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 昂る身体が止められない。
 身体の芯は熱を帯びて、勝手に腰が揺れる。
 もっとジェジーニアに、触ってほしいと思った。

「ジジ、触って」

 自然とそんな言葉が漏れていた。
 ジェジーニアは微笑み、アウファトの願い通りに柔らかな口づけを降らせた。優しい雨粒のように触れるのは、ジェジーニアの温もりを持ったとろけそうな唇だ。
 それが肌に落ちるたびに、アウファトの胸の奥に潜む何かが喜びの声を上げる。
 ジェジーニアの温もりが触れるだけで、身体の芯が甘く痺れて溶け出しそうだ。
 こんな感覚は、初めてだった。

「ジジ」
「あう、おれのあいを、たくさんあびて」
「ん」

 アウファトはジェジーニアの言葉に曖昧に頷く。言われた言葉の意味もわからないまま、幸福感に満たされて恍惚に染まった瞳でジェジーニアを見上げた。

 ジェジーニアの柔らかな唇が止めどなく降ってくる。
 もっと触れて欲しくて、肌を隔てる服が邪魔だった。もたつきながらも服を脱ぎ捨てる。自分が何をしているのか、アウファトには自覚がない。ただ緩やかな衝動に突き動かされるまま、アウファトは自分とジェジーニアを隔てるものを取り払っていく。そこに、羞恥は存在しない。

 ジェジーニアも纏うものを脱ぎ捨て、アウファトに覆い被さる。
 アウファトの視界にはジェジーニアだけが映る。美しい金の瞳は真っ直ぐにアウファトだけを映していた。

 絹のようになめらかなジェジーニアの長い黒髪が垂れ落ち、アウファトの頬をくすぐる。それすら幸せで、アウファトは目を細めた。
 身体の中に絶えず湧く喜びは、ジェジーニアがもたらすものだ。
 身体の中の熱を纏った吐息が漏れる。

「ジジ」
「すき。アウファト、好きだよ」

 甘やかな声。美しい歌。アウファトの鼓膜を震わせるのは、今まで聞いたことのない美しい音色だった。

 甘い鼓動を打つ心臓が溶け出しそうだ。アウファトの胸は優しく締め付けられる。
 せつなくて、アウファトはたまらず腕を伸ばした。
 ジェジーニアに触れたい。もっと近くで、その温もりを感じたかった。
 アウファトの手がジェジーニアの頬に触れる。温かな頬を撫で、首に腕を絡める。
 濃くなる温もりに、鼓動は一層甘やかに響き出す。

 肌を触れ合わせ、腹の下で昂るものを擦り付ける。それは溢れた蜜に濡れそぼり、ジェジーニアの下腹に擦り付けるだけで粘ついた音を立てた。

「ん、あ」

 甘い声が漏れるのが止められない。
 皮膚の薄い場所をたどたどしくなぞる不器用な指先が下腹に触れる。
 温かな優しい手のひらは、そっとアウファトの昂りを握り込んだ。

「あう、気持ちいい?」
「ん、きもちいい、ジジ」

 伺うようなジェジーニアな声に、アウファトは素直に応える。

「もっと、よくなって。あうのこと、たくさん気持ちよくしたい」

 アウファトの昂りに熱いものが触れる。すっかり芯を持ち聳り立つジェジーニアの昂りだった。

「あ……」
「こうしたら、痛くない?」
「ん」

 熱が触れ合い、重なる。
 まとめてジェジーニアの大きな手に包まれて、アウファトは腰を震わせた。

「きもちいい、ジジ」

 ジェジーニアの手に優しく擦られ、生まれる快感はひとりでするよりもずっと濃い。
 誰かの手でされるのがこんなにも気持ちいいのだと、アウファトは、初めて知った。
 唇からは甘えたような声が絶えず漏れる。自分の声だとは、到底思えなかった。

「浴びて。たくさん浴びて。おれのあい、たくさんあげる」

 ジェジーニアの言葉が降ってくる。優しい雨のように、呪文のように、それはアウファトに染み込んでいく。

 あい。
 ジェジーニアの言う『あい』は、あまりに優しく、甘くて、柔らかい。

「ジジ」

 これが、アムの意味なのだろうか。

「ジジ、あいしてる」

 口をついて出たのは、そんな言葉だ。
 愛が何か、アウファトはまだ知らない。
 それでも、ジェジーニアに、触れたい。触れられたい。温もりが欲しい。名前を呼ぶ声が欲しい。そんな思いが絶えず生まれてくる。

 蕩けた頭で、アウファトは思う。
 きっと、これが、アムの意味だと。
 ジェジーニアに注がれる、身に余るほどの、甘やかな愛。
 それには遠く及ばないとしても、アウファトの胸にも確かにジェジーニアへの愛情が棲みついていた。

「アウファト、おれの、つがい」

 ジェジーニアの声にアウファトの胸は弾むような鼓動を奏でる。
 つがい。愛しいもの。唯一の存在。
 アウファトの身体の奥から、甘やかな熱が湧く。

「っ、あ、ジジ、もう……」

 はしたなく腰が揺れる。限界が近い。
 絶えず溢れる蜜のせいでジェジーニアが手を動かすたびに粘つく水音が立つ。

「あう、だして。おれも、でそう」
「ジジ」

 腰が震える。息を詰め、訪れた絶頂に身を委ねる。脈打ち、熱いものが溢れる。それはジェジーニアも同じだった。
 重なった二つの熱が脈打ち、白い熱の奔流を放った。
 アウファトの腹に垂れ落ちる白濁は夥しい量だった。白く濡れた腹を、アウファトは撫でる。

「ジジ」

 ひどく満たされた気分だった。
 ぼやけた視界に映るのは、ジェジーニアの惚けた美しい顔立ちだ。
 アウファトに呼ばれてとろける笑みを眺めながら、アウファトはひどく満たされた気分で意識を手放した。



 幸せな気持ちで目を覚ましたアウファトは、天井に差す金色の光を見て青褪めた。
 おそるおそる隣を見ると、裸で寝息を立てるジェジーニアがいた。
 自分も一糸纏わぬ姿で、腹には遂情の跡がはっきりと残って、ジェジーニアが掛け直したシーツの上には再び惨状が広がっていた。

 同時に脳裏に蘇るのは、朧げな記憶だ。
 洗濯をしようとして、それからの記憶が曖昧だ。
 ただ、ジェジーニアと肌を合わせたのはうっすらと覚えている。甘くて穏やかで、何ともいえない幸せな気持ちだった。

「あぁ……」

 仰いだ天井は夕焼けの色に染まっている。
 洗濯も片付けもせず、一日寝て潰してしまった。しかも、よく覚えていないが、ジェジーニアと、なにか、二人とも裸になるようなことをした。

 アウファトは頭を抱える。
 自分はどうしてしまったのか。
 受け止めきれない。
 アウファトは深々とため息をついた。
 起きるのを諦め、次の休みこそ洗濯しようと心に決めた。

「あう?」

 ジェジーニアが不思議そうにアウファトの顔を覗き込んだ。

「身体、痛くない?」
「ああ、大丈夫だ……」

「あうの身体、目を覚ましたみたい」
「俺、の?」
「つがいの身体」

「昨日、俺が中に出した。それで、俺の匂いで、あうの身体が目を覚ましたんだ」
「は……」

 アウファトは情事の跡の残る薄い腹を撫でた。
そこで、何かが起きていることは明らかだった。
 ジェジーニアの手が重なる。

「俺のつがい」

 心のどこかでまだ信じてはいなかったのに、どんどん外堀ばかり固まっていく。
 焦りに鼓動が騒ぎ出す。
 まだ、なんの覚悟もないのに。

「すきだよ、アウファト」

 ジェジーニアの言葉に胸が痛む。
 夢から覚めた後のような、見たはずの夢を忘れてしまったときのような、切なさが胸に広がる。

 あれは夢だったのだろうか。
 ひどく満たされて、愛というものをわかったような気がしたのに。
 今はもう、何も残っていない。
 アウファトにとっての愛はまた、深い霧の彼方だ。

 擦り寄るジェジーニアの髪を撫で、アウファトはため息をひとつついた。
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