【完結】ゼジニアの白い揺籠

はち

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いたみ*

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「っあ、く」

 喉から、声が漏れた。
 皺が無くなるほど広がったそこに、熱い質量がゆっくりと埋まっていく。
 力を入れればいいのか、抜けばいいのか、わからないままにアウファトの後孔は張り出した部分を飲み込んでいく。

 息の仕方がわからない。吸うこともできず吐くこともできず、アウファトは奥歯を噛み締めた。

 苦しい。はらわたを捏ねられるような圧迫感に、胃の中のものがせり上がってきそうだ。
 中が熱いもので埋められていく。
 怖いのに、身体の奥から湧く熱に抗えない。
 中を押し拡げ、埋める、熱く硬いもの。それが何か、頭が理解することを拒んでいた。

「ジジ、こわい、たすけて」
「アウファト」

 恐れに唇を、声を震わせるアウファト。
 喉からは苦し紛れの引き攣った声しか出てこない。
 ジェジーニアの手が、宥めるようにアウファトの頬を撫でた。

「ヴィーデ、スキーノ、ウィーエラ」

 冬の空の瞳。ジェジーニアに初めて会ったときにも言っていた、そんな意味の古竜語だ。

「アム、ミオ、スゥム」

 ジェジーニアの声とともに、身体の中に歓喜が湧く理由がわからない。
 逞しい異形の怒張はまだアウファトの中に半分ほど収まっただけだった。このまま、どこまで入ってくるのか、アウファトは怯えた目でジェジーニアを見上げた。

 ぷつ、と何かが弾けるような音がした。
 同時に身体に広がる灼けるような痛みが、繋がったところから湧いてくる。熱を持って痛みを訴えるのは、ジェジーニアを受けいれている尻の孔だった。

「っ、く、ジジ、いたい」
「あう」
「びに、あ、ジジ」

 何とか伝えたビニアという古竜語は、痛い、という意味だ。なんとか言葉で痛みを伝えることはできたが、ジェジーニアは中に埋まったものを抜こうとはしなかった。

「あう、シアロウ」

 シアロウは謝罪の言葉だ。ジェジーニアの指先が濡れた眦を優しく撫でる。いつのまにか涙が溢れていた。
 ジェジーニアは奥まで入りきらないまま、ゆっくりと腰を揺すり始めた。
 中を、熱いものに擦られる。熱と痛みが重なって、アウファトは堪らず声を上げた。

「いたい、っう、ジジ」

 涙が溢れる。痛みに苛まれながら、アウファトはジェジーニアにしがみつくことしかできなかった。

「や、ぁ、ジジ、やめ」

 涙が止まらない。
 なのに、腹の底から湧いてくるこの歓喜は何なのか。
 胸が甘く満たされるのが何故なのかわからない。
 痛いのに、その奥に、その向こうに、甘い感覚を感じる。体の防衛反応というやつだろうか。
 ジェジーニアが腰を揺するたび、繋がったところから粘つく水音が聞こえる。体液の混ざる音だ。

「っ、う」

 ジェジーニアが小さく呻きのような声を漏らした。
 途端に中に放たれた熱い奔流。絶えず痛みの生まれ続ける中に、脈打つジェジーニアを感じる。
 熱いものが、腹の中に広がっていくのがわかる。ジェジーニアが、アウファトの腹の中に吐精した。その事実を、回らない頭で理解した。

 脈動が収まり、ゆっくりと引き抜かれて安堵したのも束の間。
 浅い呼吸を繰り返すアウファトのもとに、甘い香りに混じって、血の匂いが届いた。

 痛い。
 涙で頬が濡れて、ぐず、と鼻が鳴った。ひどい顔をしている自覚はある。でも、もうどうでもよかった。

「あう、シアロウ。しあろ」

 自由の利かない身体を、ジェジーニアに抱えられた。頭が下、尻が上にくるような間抜けな格好で、灼けるように痛む尻の孔に舌が捩じ込まれた。最悪だ。こともあろうに裂けて血が出た尻を舐められた。
 なのに、ジェジーニアに舐められた傷はすぐに癒え、痛みは消えた。
 どういうことなのか、わからなかった。もう、先ほどまでの灼けるような痛みは無くなった。

「ふ、え」

 思わず間抜けな声が漏れていた。
 ジェジーニアの舌が引き抜かれると、あれほど全身を苛むような痛みが、跡形もなく消えていた。
 何が起きているのか、頭が追いついていない。

「あう、しあろ」

 そっと、身体を横たえられる。
 もう動きたくなかった。

 裏切られたような、何とも言えない気分だった。子供のように思っていたジェジーニアが、自分をつがいとして見ていたこと、そして制止も聞かず行為に及んだことが、アウファトの心に傷を残していた。

 もっとも、アウファトが勝手に子供のよう思い込み、守らねばという義務を感じていただけだ。それが、相手は立派な大人で、つがい相手に発情した。そういうことだと、頭では分かっている。わかっているつもりだった。
 胸が痛いのは、裏切られたからではないような気がしたが、混乱した頭ではそれ以上の思考は叶わなかった。

 泣いていたアウファトの涙を舐めるジジからは、濃い花の匂いがした。
 痛みが消えるのとともに緊張の糸が切れたのか、もう意識を保っているのが難しかった。
 謝るジェジーニアの声を聞きながら、まとまりきらない思いの整理を諦めて、アウファトは意識を手放した。
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