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忠誠と献身
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夕食を終えたアウファトは、眠っているジェジーニアの分の食事を部屋に持って帰ってきた。
ジェジーニアはベッドで静かな寝息を立てている。あまりに気持ちよさそうに眠っているのを起こしてしまうのは可哀想で、アウファトは食事を応接席に置いた。置いておけば、起きたら好きに食べられる。そこにジェジーニアの姿があることに安堵して、アウファトは浴場へ向かった。
エンダールには、温泉がいくつかある。この宿もその温泉を引いているのだとか。
石造りの浴室には、柔らかな湯気が満ちていた。いくつか設置された大人の男でも余裕を持って収まることのできる大きな湯桶には、絶えず温かなお湯が満たされている。
浴場にはアウファトの他に人の姿はなく、貸切状態だった。こんなことならジェジーニアも連れてきてやればよかったと思う。
アウファトは肩まで湯に浸かり、ゆっくりと身体を伸ばした。疲れが溶け出していくようだった。
明日は丸一日予定はない。
ジェジーニアは眠ってしまったので、明日朝一でウィルマルトに挨拶に行こうと決めた。竜人のことは、ウィルマルトに聞けば間違いないはずだ。
空いた時間は資料のまとめを行って。それから、ジェジーニアの服を見繕わなくてはならない。ここは竜人の街だ。服屋もいくつかある。ジェジーニアの服を探すにはちょうどいい。
ジェジーニアを、どうするか考えなくてはならない。連れ出したはいいが、どうしてやるのが一番いいのかわからないでいた。安全な場所にいさせてやるのがいいのだろうが、王都でいいのか、それともどこか行くべき場所があるのか。
あの誓約によれば、自分はジジを守らなくてはならない。忠誠と、献身をもって。
わからないことも調べることも山積みになっている。
アウファトは一つため息をつく。アウファトの零した吐息はゆらめく湯気に混じって消えていった。
部屋に戻ると、起き出したジェジーニアが応接席に座って夕食を食べていた。用意されたカトラリーを使ってちゃんと一人で食事をしている姿に表情を緩めた。
「ジジ」
「アウファト」
ジェジーニアはアウファトを見つけると表情を綻ばせた。
時々甘えるように『あう』と呼ぶが、すっかり名前を覚えてくれたようだ。
口元にパンくずがついているのを取ってやる。
「アウファト、パン」
「ふふ、ティーケ、ジジ」
先程アウファトがしたように、ジェジーニアは食べていたパンを千切ってアウファトにくれた。
当たり前だが、先ほど食べたパンよりも柔らかい。ヴィーエガルテンは食事も美味しいので好きだった。
「おいしい」
「おい、し?」
「ん、ティレウ」
ティレウは古竜語でおいしいという意味だ。
「パン、おいし」
「ウェスナ、ジジ」
上手だと褒めてやると、ジェジーニアは嬉しそうに笑う。腹が減っていたのか、持ってきた料理は食べきってしまった。
食事の後、歯を磨いて、ジェジーニアにも歯磨きを教えてやった。
宿の浴場は閉まる時間だったので、部屋の手洗い場から汲んできた水で清潔な手巾を濡らして体を拭いてやる。
発情はすっかり落ち着いたようで、身体を清めてやるとジェジーニアは欠伸をひとつした。
「もう、寝るか?」
「も、ね、る?」
「そう、ねる。ウィセトテ?」
「ン」
眠いかと聞けば、ジェジーニアは小さく頷いた。
長く眠っていたところにいきなり荷物を持ったアウファトを抱えて飛んだのだ。疲れていて当たり前だ。
髪を撫でてやると、ジェジーニアは蕩けた表情をする。アウファトは自分に母性というものがあるか定かではなったが、純粋な、子供のような反応にジェジーニアの仕草に胸が締め付けられる。
手を引いてベッドに連れていってやると、ジェジーニアは手を離そうとしないのでそのまま一緒に横になる。どうやら見た目よりもずっと寂しがりのようだった。
「ネーティセア、ジジ」
明かりを落としておやすみと告げると、ジジが哀しげな表情をした。
しがみついてくるジジの背中を優しく撫でてやる。
親のことでも思い出したのかもしれない。その話もいずれしなければならない。気が重いが、避けて通ることはできない。
背中を撫でてやると、少しして寝息が聞こえだす。
自分よりも大きな身体は成人した竜人のそれなのに、子どものようなジェジーニア。
なんとなくちぐはぐさを感じるが、長く眠っていたのだ。そうなっても仕方ない。言葉もそうだ。
素直そうなので、教えればすぐに覚えられそうな気はする。
ただ、ジェジーニアをどうするべきなのか、アウファトはまだ決められないでいた。王都に帰って、王にこのことを知らせて、その後のことだ。
リウストラなき今、彼をどうしてやるべきなのか、アウファトはわからないでいた。
ジェジーニアの求めるつがいのことも、何もわからない。ジェジーニアはアウファトをつがいだと思っている節があるが、その理由も、アウファトは知らないのだ。
ジェジーニアはベッドで静かな寝息を立てている。あまりに気持ちよさそうに眠っているのを起こしてしまうのは可哀想で、アウファトは食事を応接席に置いた。置いておけば、起きたら好きに食べられる。そこにジェジーニアの姿があることに安堵して、アウファトは浴場へ向かった。
エンダールには、温泉がいくつかある。この宿もその温泉を引いているのだとか。
石造りの浴室には、柔らかな湯気が満ちていた。いくつか設置された大人の男でも余裕を持って収まることのできる大きな湯桶には、絶えず温かなお湯が満たされている。
浴場にはアウファトの他に人の姿はなく、貸切状態だった。こんなことならジェジーニアも連れてきてやればよかったと思う。
アウファトは肩まで湯に浸かり、ゆっくりと身体を伸ばした。疲れが溶け出していくようだった。
明日は丸一日予定はない。
ジェジーニアは眠ってしまったので、明日朝一でウィルマルトに挨拶に行こうと決めた。竜人のことは、ウィルマルトに聞けば間違いないはずだ。
空いた時間は資料のまとめを行って。それから、ジェジーニアの服を見繕わなくてはならない。ここは竜人の街だ。服屋もいくつかある。ジェジーニアの服を探すにはちょうどいい。
ジェジーニアを、どうするか考えなくてはならない。連れ出したはいいが、どうしてやるのが一番いいのかわからないでいた。安全な場所にいさせてやるのがいいのだろうが、王都でいいのか、それともどこか行くべき場所があるのか。
あの誓約によれば、自分はジジを守らなくてはならない。忠誠と、献身をもって。
わからないことも調べることも山積みになっている。
アウファトは一つため息をつく。アウファトの零した吐息はゆらめく湯気に混じって消えていった。
部屋に戻ると、起き出したジェジーニアが応接席に座って夕食を食べていた。用意されたカトラリーを使ってちゃんと一人で食事をしている姿に表情を緩めた。
「ジジ」
「アウファト」
ジェジーニアはアウファトを見つけると表情を綻ばせた。
時々甘えるように『あう』と呼ぶが、すっかり名前を覚えてくれたようだ。
口元にパンくずがついているのを取ってやる。
「アウファト、パン」
「ふふ、ティーケ、ジジ」
先程アウファトがしたように、ジェジーニアは食べていたパンを千切ってアウファトにくれた。
当たり前だが、先ほど食べたパンよりも柔らかい。ヴィーエガルテンは食事も美味しいので好きだった。
「おいしい」
「おい、し?」
「ん、ティレウ」
ティレウは古竜語でおいしいという意味だ。
「パン、おいし」
「ウェスナ、ジジ」
上手だと褒めてやると、ジェジーニアは嬉しそうに笑う。腹が減っていたのか、持ってきた料理は食べきってしまった。
食事の後、歯を磨いて、ジェジーニアにも歯磨きを教えてやった。
宿の浴場は閉まる時間だったので、部屋の手洗い場から汲んできた水で清潔な手巾を濡らして体を拭いてやる。
発情はすっかり落ち着いたようで、身体を清めてやるとジェジーニアは欠伸をひとつした。
「もう、寝るか?」
「も、ね、る?」
「そう、ねる。ウィセトテ?」
「ン」
眠いかと聞けば、ジェジーニアは小さく頷いた。
長く眠っていたところにいきなり荷物を持ったアウファトを抱えて飛んだのだ。疲れていて当たり前だ。
髪を撫でてやると、ジェジーニアは蕩けた表情をする。アウファトは自分に母性というものがあるか定かではなったが、純粋な、子供のような反応にジェジーニアの仕草に胸が締め付けられる。
手を引いてベッドに連れていってやると、ジェジーニアは手を離そうとしないのでそのまま一緒に横になる。どうやら見た目よりもずっと寂しがりのようだった。
「ネーティセア、ジジ」
明かりを落としておやすみと告げると、ジジが哀しげな表情をした。
しがみついてくるジジの背中を優しく撫でてやる。
親のことでも思い出したのかもしれない。その話もいずれしなければならない。気が重いが、避けて通ることはできない。
背中を撫でてやると、少しして寝息が聞こえだす。
自分よりも大きな身体は成人した竜人のそれなのに、子どものようなジェジーニア。
なんとなくちぐはぐさを感じるが、長く眠っていたのだ。そうなっても仕方ない。言葉もそうだ。
素直そうなので、教えればすぐに覚えられそうな気はする。
ただ、ジェジーニアをどうするべきなのか、アウファトはまだ決められないでいた。王都に帰って、王にこのことを知らせて、その後のことだ。
リウストラなき今、彼をどうしてやるべきなのか、アウファトはわからないでいた。
ジェジーニアの求めるつがいのことも、何もわからない。ジェジーニアはアウファトをつがいだと思っている節があるが、その理由も、アウファトは知らないのだ。
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