17 / 63
忠誠と献身
しおりを挟む
夕食を終えたアウファトは、眠っているジェジーニアの分の食事を部屋に持って帰ってきた。
ジェジーニアはベッドで静かな寝息を立てている。あまりに気持ちよさそうに眠っているのを起こしてしまうのは可哀想で、アウファトは食事を応接席に置いた。置いておけば、起きたら好きに食べられる。そこにジェジーニアの姿があることに安堵して、アウファトは浴場へ向かった。
エンダールには、温泉がいくつかある。この宿もその温泉を引いているのだとか。
石造りの浴室には、柔らかな湯気が満ちていた。いくつか設置された大人の男でも余裕を持って収まることのできる大きな湯桶には、絶えず温かなお湯が満たされている。
浴場にはアウファトの他に人の姿はなく、貸切状態だった。こんなことならジェジーニアも連れてきてやればよかったと思う。
アウファトは肩まで湯に浸かり、ゆっくりと身体を伸ばした。疲れが溶け出していくようだった。
明日は丸一日予定はない。
ジェジーニアは眠ってしまったので、明日朝一でウィルマルトに挨拶に行こうと決めた。竜人のことは、ウィルマルトに聞けば間違いないはずだ。
空いた時間は資料のまとめを行って。それから、ジェジーニアの服を見繕わなくてはならない。ここは竜人の街だ。服屋もいくつかある。ジェジーニアの服を探すにはちょうどいい。
ジェジーニアを、どうするか考えなくてはならない。連れ出したはいいが、どうしてやるのが一番いいのかわからないでいた。安全な場所にいさせてやるのがいいのだろうが、王都でいいのか、それともどこか行くべき場所があるのか。
あの誓約によれば、自分はジジを守らなくてはならない。忠誠と、献身をもって。
わからないことも調べることも山積みになっている。
アウファトは一つため息をつく。アウファトの零した吐息はゆらめく湯気に混じって消えていった。
部屋に戻ると、起き出したジェジーニアが応接席に座って夕食を食べていた。用意されたカトラリーを使ってちゃんと一人で食事をしている姿に表情を緩めた。
「ジジ」
「アウファト」
ジェジーニアはアウファトを見つけると表情を綻ばせた。
時々甘えるように『あう』と呼ぶが、すっかり名前を覚えてくれたようだ。
口元にパンくずがついているのを取ってやる。
「アウファト、パン」
「ふふ、ティーケ、ジジ」
先程アウファトがしたように、ジェジーニアは食べていたパンを千切ってアウファトにくれた。
当たり前だが、先ほど食べたパンよりも柔らかい。ヴィーエガルテンは食事も美味しいので好きだった。
「おいしい」
「おい、し?」
「ん、ティレウ」
ティレウは古竜語でおいしいという意味だ。
「パン、おいし」
「ウェスナ、ジジ」
上手だと褒めてやると、ジェジーニアは嬉しそうに笑う。腹が減っていたのか、持ってきた料理は食べきってしまった。
食事の後、歯を磨いて、ジェジーニアにも歯磨きを教えてやった。
宿の浴場は閉まる時間だったので、部屋の手洗い場から汲んできた水で清潔な手巾を濡らして体を拭いてやる。
発情はすっかり落ち着いたようで、身体を清めてやるとジェジーニアは欠伸をひとつした。
「もう、寝るか?」
「も、ね、る?」
「そう、ねる。ウィセトテ?」
「ン」
眠いかと聞けば、ジェジーニアは小さく頷いた。
長く眠っていたところにいきなり荷物を持ったアウファトを抱えて飛んだのだ。疲れていて当たり前だ。
髪を撫でてやると、ジェジーニアは蕩けた表情をする。アウファトは自分に母性というものがあるか定かではなったが、純粋な、子供のような反応にジェジーニアの仕草に胸が締め付けられる。
手を引いてベッドに連れていってやると、ジェジーニアは手を離そうとしないのでそのまま一緒に横になる。どうやら見た目よりもずっと寂しがりのようだった。
「ネーティセア、ジジ」
明かりを落としておやすみと告げると、ジジが哀しげな表情をした。
しがみついてくるジジの背中を優しく撫でてやる。
親のことでも思い出したのかもしれない。その話もいずれしなければならない。気が重いが、避けて通ることはできない。
背中を撫でてやると、少しして寝息が聞こえだす。
自分よりも大きな身体は成人した竜人のそれなのに、子どものようなジェジーニア。
なんとなくちぐはぐさを感じるが、長く眠っていたのだ。そうなっても仕方ない。言葉もそうだ。
素直そうなので、教えればすぐに覚えられそうな気はする。
ただ、ジェジーニアをどうするべきなのか、アウファトはまだ決められないでいた。王都に帰って、王にこのことを知らせて、その後のことだ。
リウストラなき今、彼をどうしてやるべきなのか、アウファトはわからないでいた。
ジェジーニアの求めるつがいのことも、何もわからない。ジェジーニアはアウファトをつがいだと思っている節があるが、その理由も、アウファトは知らないのだ。
ジェジーニアはベッドで静かな寝息を立てている。あまりに気持ちよさそうに眠っているのを起こしてしまうのは可哀想で、アウファトは食事を応接席に置いた。置いておけば、起きたら好きに食べられる。そこにジェジーニアの姿があることに安堵して、アウファトは浴場へ向かった。
エンダールには、温泉がいくつかある。この宿もその温泉を引いているのだとか。
石造りの浴室には、柔らかな湯気が満ちていた。いくつか設置された大人の男でも余裕を持って収まることのできる大きな湯桶には、絶えず温かなお湯が満たされている。
浴場にはアウファトの他に人の姿はなく、貸切状態だった。こんなことならジェジーニアも連れてきてやればよかったと思う。
アウファトは肩まで湯に浸かり、ゆっくりと身体を伸ばした。疲れが溶け出していくようだった。
明日は丸一日予定はない。
ジェジーニアは眠ってしまったので、明日朝一でウィルマルトに挨拶に行こうと決めた。竜人のことは、ウィルマルトに聞けば間違いないはずだ。
空いた時間は資料のまとめを行って。それから、ジェジーニアの服を見繕わなくてはならない。ここは竜人の街だ。服屋もいくつかある。ジェジーニアの服を探すにはちょうどいい。
ジェジーニアを、どうするか考えなくてはならない。連れ出したはいいが、どうしてやるのが一番いいのかわからないでいた。安全な場所にいさせてやるのがいいのだろうが、王都でいいのか、それともどこか行くべき場所があるのか。
あの誓約によれば、自分はジジを守らなくてはならない。忠誠と、献身をもって。
わからないことも調べることも山積みになっている。
アウファトは一つため息をつく。アウファトの零した吐息はゆらめく湯気に混じって消えていった。
部屋に戻ると、起き出したジェジーニアが応接席に座って夕食を食べていた。用意されたカトラリーを使ってちゃんと一人で食事をしている姿に表情を緩めた。
「ジジ」
「アウファト」
ジェジーニアはアウファトを見つけると表情を綻ばせた。
時々甘えるように『あう』と呼ぶが、すっかり名前を覚えてくれたようだ。
口元にパンくずがついているのを取ってやる。
「アウファト、パン」
「ふふ、ティーケ、ジジ」
先程アウファトがしたように、ジェジーニアは食べていたパンを千切ってアウファトにくれた。
当たり前だが、先ほど食べたパンよりも柔らかい。ヴィーエガルテンは食事も美味しいので好きだった。
「おいしい」
「おい、し?」
「ん、ティレウ」
ティレウは古竜語でおいしいという意味だ。
「パン、おいし」
「ウェスナ、ジジ」
上手だと褒めてやると、ジェジーニアは嬉しそうに笑う。腹が減っていたのか、持ってきた料理は食べきってしまった。
食事の後、歯を磨いて、ジェジーニアにも歯磨きを教えてやった。
宿の浴場は閉まる時間だったので、部屋の手洗い場から汲んできた水で清潔な手巾を濡らして体を拭いてやる。
発情はすっかり落ち着いたようで、身体を清めてやるとジェジーニアは欠伸をひとつした。
「もう、寝るか?」
「も、ね、る?」
「そう、ねる。ウィセトテ?」
「ン」
眠いかと聞けば、ジェジーニアは小さく頷いた。
長く眠っていたところにいきなり荷物を持ったアウファトを抱えて飛んだのだ。疲れていて当たり前だ。
髪を撫でてやると、ジェジーニアは蕩けた表情をする。アウファトは自分に母性というものがあるか定かではなったが、純粋な、子供のような反応にジェジーニアの仕草に胸が締め付けられる。
手を引いてベッドに連れていってやると、ジェジーニアは手を離そうとしないのでそのまま一緒に横になる。どうやら見た目よりもずっと寂しがりのようだった。
「ネーティセア、ジジ」
明かりを落としておやすみと告げると、ジジが哀しげな表情をした。
しがみついてくるジジの背中を優しく撫でてやる。
親のことでも思い出したのかもしれない。その話もいずれしなければならない。気が重いが、避けて通ることはできない。
背中を撫でてやると、少しして寝息が聞こえだす。
自分よりも大きな身体は成人した竜人のそれなのに、子どものようなジェジーニア。
なんとなくちぐはぐさを感じるが、長く眠っていたのだ。そうなっても仕方ない。言葉もそうだ。
素直そうなので、教えればすぐに覚えられそうな気はする。
ただ、ジェジーニアをどうするべきなのか、アウファトはまだ決められないでいた。王都に帰って、王にこのことを知らせて、その後のことだ。
リウストラなき今、彼をどうしてやるべきなのか、アウファトはわからないでいた。
ジェジーニアの求めるつがいのことも、何もわからない。ジェジーニアはアウファトをつがいだと思っている節があるが、その理由も、アウファトは知らないのだ。
0
お気に入りに追加
136
あなたにおすすめの小説
聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。
【完結】冷血孤高と噂に聞く竜人は、俺の前じゃどうも言動が伴わない様子。
N2O
BL
愛想皆無の竜人 × 竜の言葉がわかる人間
ファンタジーしてます。
攻めが出てくるのは中盤から。
結局執着を抑えられなくなっちゃう竜人の話です。
表紙絵
⇨ろくずやこ 様 X(@Us4kBPHU0m63101)
挿絵『0 琥』
⇨からさね 様 X (@karasane03)
挿絵『34 森』
⇨くすなし 様 X(@cuth_masi)
◎独自設定、ご都合主義、素人作品です。
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~
めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆
―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。―
モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。
だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。
そう、あの「秘密」が表に出るまでは。
すべてを奪われた英雄は、
さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。
隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。
それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。
すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。
目立たないでと言われても
みつば
BL
「お願いだから、目立たないで。」
******
山奥にある私立琴森学園。この学園に季節外れの転入生がやってきた。担任に頼まれて転入生の世話をすることになってしまった俺、藤崎湊人。引き受けたはいいけど、この転入生はこの学園の人気者に気に入られてしまって……
25話で本編完結+番外編4話
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる