【完結】ゼジニアの白い揺籠

はち

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甘い声*

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「ん、ぅ」

 塞がれたアウファトの唇からくぐもった声が漏れた。止めろと声を上げたいのに、深く重なった唇からは呻き声しか出せない。
 ジェジーニアの舌は、何度もアウファトの舌を擦り、唾液を混ぜる。

「ん、む」

 悪あがきだとわかってもくぐもった声が上がるばかりだ。口の中を動き回るジェジーニアの舌に粘膜を擦られるたびに、腹の底に知らない感覚が生まれる。
 それはひどく甘くて、身体の芯が痺れるようだった。
 ようやく解放された唇は甘い唾液で濡れていた。

「ウィーエ、ジジ」
「う……」

 古竜語で待てをかけると、ジェジーニアは止まった。なんとか止まってくれてアウファトは胸を撫で下ろす。
 止まったものの、ジェジーニアは眉を下げ、縋るような視線をアウファトに向けている。

「どうした、寂しいのか?」
「サミシ……?」
「レティーソ」
「ン、アウファト」

 ジェジーニアはとろりと蕩けた、熱に浮かされたような表情をしてアウファトに擦り寄る。
 これじゃまるで、恋人か何かだ。
 ジェジーニアからは、またあの白い花の香りがした。

 ジェジーニアはアウファトの首筋に鼻先を押し付けて、硬く熱を持った股座をアウファトの太腿に押し付ける。
 アウファトは固まった。
 自分が置かれた状況を察して、身に迫った危機に背中に変な汗が滲む。
 いくら色恋沙汰に疎いとはいえ、アウファトにも自分の身に起きていることがわからないほど無知でもない。

「ジジ、お前、発情、して……?」

 思わず声が掠れた。竜人の発情がどういうものか、知らないわけではない。

「あう、ぁと、あむぇ」

 蕩けた表情のジェジーニアは甘ったるい声でアウファトを呼ぶ。
 ジェジーニアのこぼす熱い吐息が頬を撫でて、その熱が移ったようにアウファトの顔も熱くなる。

 熱に潤んだの金色の瞳が、真っ直ぐにアウファトを見つめていた。
 心臓が跳ねる。そんな目で見られてもどうしたらいいのかわからないのに、間近にある自分以外のぬくもりに、鼓動はうるさく早くなるばかりだった。

 不意に部屋の扉を叩く音が響いた。
 アウファトは気を取られたジェジーニアをなんとか押し退けて飛び起きると、ベッドを降りて扉の前に向かった。
 扉を少し開けると、給仕の竜人が立っていた。その手には、トレイに乗せられたティーポットとカップが見えた。

「お茶を持ちしました」
「ああ、ありがとう」
「食事の時刻になりましたらまたお呼びしますね」

 給仕係はアウファトにトレイを渡し、一礼すると去っていった。心の中で感謝をしつつ、アウファトは受け取ったトレイを部屋の応接席に置く。
 助かった。
 一息つこうとお茶をカップに注ぐと、白い湯気が揺れた。
 温かいお茶を飲むと、少しだけ気持ちが落ち着いた。
 アウファトが視線を向けると、ジェジーニアは不服そうな顔でベッドからアウファトを見ていた。

「ジジ」

 呼ぶと、ジェジーニアはベッドを降りてアウファトのところまでやってきた。
 カップを持つアウファトに、ジェジーニアは抱きついて首筋に鼻先を押し付ける。甘えるようなその仕草は可愛いが、発情しているらしいジェジーニアは緩く腰を揺すっている。

「ほら、熱いぞ」

 お茶がこぼれて火傷でもしたら大変だ。アウファトは慌ててカップをトレイに置いた。
 このままではウィルマルトのところへ連れていくこともままならないだろう。どのみち今日はもう遅い。明日、改めて会いに行く方が良さそうだった。
 このままにしていても可哀想で、アウファトはジェジーニアの手を取った。

「ジジ、ヴェイエ」

 アウファトの声に、ジェジーニアは顔を上げ、熱に浮かされたような蕩けた表情でアウファトの顔を覗き込む。
 アウファトはぎこちなく笑うと、ジェジーニアの手を引いてベッドへ向かった。ジェジーニアは黙ってついてくる。

 ジェジーニアの発情が生理的なものであれば、手でしてやれば落ち着くだろうと考えた。専門ではないが、生物学的な考えでいけば同じ雄。原理は同じはずだ。
 アウファトはベッドで横になって向かい合い、ジェジーニアの下肢の熱源へ手を差し伸べる。熱く脈打ち、大きく逞しく育ったそれは人のそれとは異なる形をしていた。
 自分のものとは比にならないそれは、とろとろと涎を垂らす。
 抜いてやれば治るだろうと思ったが。

「っ、う、あ、あう、ぁと、ん、あ」

 先端から溢れる粘液を手のひらに纏わせて擦ってやると、ジェジーニアは甘い声を惜しげも無く上げた。
 宿の者に聞かれなければいいがと思いながら、アウファトは手を動かす。自分でするのと違って加減がわからないが、ジェジーニアは気持ちよさそうにしているのでこれでいいのだろう。

「っあ、あ、っひ」

 ジェジーニアが背を丸め、身体を強張らせる。手の中で脈打つ異形の性器から迸る白濁の量は夥しく、受け止めた手のひらに絡みつく。

「あう」

 ジェジーニアはぶるりと腰を震わせて、出し切ったように思えた。アウファトの手はジェジーニアの吐き出した白濁で白く汚れて、受け止めきれなかったものが敷布に垂れ落ち、染みをつくった。

「ジジ」
「あう、ぁと」

 手に擦り付ける性器は熱く猛り、まだ萎える様子はない。
 アウファトが先程よりも強く握り、擦ってやると。

「あ!」
「いいか、こうするんだ。手で」

 アウファトはジェジーニアの手を導いて、手を重ねて、動かす。

「あう、ン、はぁ、あ」

 こっそりと盗み見たジェジーニアは、すっかり蕩けた顔で快感に浸っている。美しい瞳を熱に澱ませ、頬は上気して朱に染まっている。

「ジェウ、ノッテ、ジジ」

 褒めてやりながら、自らの手で快感を追うジジを見守る。
 手の中にもう一度白濁を吐き出して、ようやく治った。

「ジジ」
「あう……」
「落ち着いたか」

 汚れていない方の手で頭を撫でてやると、擦り寄ってくる。嬉しそうに笑う顔は、そのまま気の抜けた寝顔になった。
 寝息が聞こえだす。
 アウファトはため息をひとつついた。
 ジェジーニアを起こさないように起き上がり、部屋の手洗い場へ向かった。
 手にべったりとついた白濁を興味本位で舐めると、甘い。匂いも、あの花に似た甘い匂いがした。
慌てて手を洗う。

 何をやっているんだと思う。単なる興味だ。生物学は範疇外だが、気になってしまった。顔が熱い。
 手洗いを終えたところで部屋の扉を叩く音が聞こえた。
 夕食の時間だった。
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