【完結】ゼジニアの白い揺籠

はち

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フィオディカ伝承

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 神は世界を等しく見守るために七人の竜王を遣わせた。竜王は神の目となり手となり、時に声となった。竜王は神より言葉を預かり、竜人に伝えた。
 竜人は地上で人を見守った。
 竜人は人に知恵を授け、文明を授けた。

 世界には序列があった。
 神がいて、その下に神の代弁者である竜王、それに仕える神獣と竜、精霊が侍り、その下に竜人が並び、そして、人がいた。

 竜人は高い知能と高い魔力、高い身体能力、空を駆ける翼を持っていた。
 竜人をまとめたのは、白き王フィオディーク。竜王の声を聞く者、黒き竜王に愛されし者であった。
 王は白き都を築き、人と共存する国を作った。

 序列を踏み越えたのは人だった。

 人を見守っていた竜人族に、反旗を翻した人は数で圧倒し、蹂躙した。
 白き都は血に染まった。
 捕えられた白き王は王都の中央、王宮の前で処刑された。首を落とされ、胸を裂かれ、惨たらしく壊された。
 その心臓を喰らう者がいた。
 はらわたを喰らう者がいた。
 美しい瞳を奪う者がいた。
 それを止めず、見守り、囲っていたのは、人だった。

 黒き竜王は白き王を悼み、地に降り立ち、奪われた瞳と、はらわたと、心臓を取り返した。
 しかし竜王は、王の心臓を喰らった者によって殺された。竜王を殺したのは、はじまりの竜殺し、エンタロトといった。
 黒き竜王を殺した剣は、奇しくも王の処刑に使われたものと同じ剣であった。白き王が黒き竜王より賜った剣であるその剣はジエクノウスと呼ばれた。
黒き竜王は死に際、その槍を地に突き立て、呪詛を吐いた。
 王を奪った者たちよ。王をこわし、貶めた者たちよ、お前たちは未来永劫、己の罪を悔い、嘆き、苦しめ、と。

 そして竜王は死んだ。竜王と王を殺し、奪った者とその一族たちは、皆短命であった。

 人は強欲であった。
 人を守り導いた竜人を貶め、奴隷とし、多くの竜を殺した。

 一方で、密かに王と黒き竜王を弔った者たちがいた。名は残っていない。王都に咲いた白い花と共に、王と黒き竜王をの亡骸を埋め、祈りを捧げた。白き花の一族と呼ばれる。それ以降、白き花の一族は人でありながら竜王の加護を受けているという。

 白き王と黒き竜王の死後、神は嘆き悲しみ、雨を降らせた。やがてこの地は冷え、雨は雪へと変わった。黒き竜王の呪詛だといわれている。
 白い都は昏く冷たく閉ざされ、あらゆるものを拒むようになった。

 神託を与える者は消え、神代は終わった。
白き王と黒き竜王を屠った咎人の死に絶えた後。
白き花の一族は世に身を潜めた。

 これが王都リウストラの終わりの物語、神代の終わりの物語である。
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