【完結】ゼジニアの白い揺籠

はち

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ジジの発情*

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 部屋の明かりを消し、すでにベッドで丸まっているジェジーニアの元へ向かう。アウファトが上がると、ベッドが小さく軋む。さすがに男二人が乗るには少し厳しいようだ。

 ジェジーニアは長い尾を小さく揺らしながら穏やかな寝息を立てている。今の物音で起こさなかったようで、アウファトは安堵した。
 仕事部屋のソファで寝るなり何なり考えないとと思いながら、アウファトはジェジーニアの隣に横になる。

「ジジ、おやすみ」

 小さく声をかけて、アウファトはジェジーニアに布団をかけてやった。

「あう」

 甘えるような声とともに衣擦れの音がしてジェジーニアがアウファトに抱きついた。
 しっかりと回された腕にきつく抱きしめられる。
 甘えているのだろうか。起こしてしまったかと申し訳なく思っていると、腰の辺りに熱く硬いものが擦り付けられる。
 それが何か、すぐにわかった。

「どうした、ジジ」
「う、あうあと」

 耳元に響くジェジーニアの甘い声に、鼓動が早まる。アウファトはこの声を知っている。

「ッ、ジジ」
「ン、あう、あむ、あむ」

 腰に当たる熱いものが脈打って、寝間着が熱く濡れた。

「じ、じ、おまえ……」

 アウファトは混乱していた。
 ジェジーニアが発情している。だが、この前とは様子が少し違った。この間よりもどこか苦しげで、心なしか肌も熱い気がする。

「あうあと、あむ」

 耳元に舌っ足らずな声を吹き込まれ、しっかりと背後から抱きすくめられてしまう。
 うなじに、ぬめる感触が触れた。ジェジーニアの舌だった。無防備なうなじを舐められ、甘噛みされる。皮膚の薄い場所に感じる硬い歯に、アウファトは身震いをした。
 これはまるで、竜人の婚姻の儀だ。竜人はつがいをつくる際、首の後ろ、うなじを噛むということは知っていた。それは、たしか竜王も同じだ。

 混乱しているうちにアウファトはシーツに押し付けられた。
 うなじを噛まれはしなかったものの、見上げると薄い闇の中に美しい金の瞳を澱ませたジェジーニアが見えた。
 瞳孔は縦に裂けている。竜の眼だ。竜人が本能的になったときに現れる特徴で、ジェジーニアにもそれが現れている。
 エンダールの時よりも、ずっと強い発情のようだった。

「あう、シアロウ」

 シアロウは謝罪の言葉だ。すまないとか、ごめんなさいとか、そういう意味だ。
 ジェジーニアはアウファトの両手首を掴んでシーツに押し付けている。アウファトの力では、竜人のジェジーニアには太刀打ちできない。

 これから何が起こるのか、アウファトにはわからない。ジェジーニアを目上げる薄青の視線は不安に揺れ、恐怖が色濃く滲む。
 ジェジーニアはそのまま、アウファトの胸の辺りに跨った。胸に乗られ、肺が圧迫されて強引に空気が肺から押し出される。息苦しさにアウファトは眉を寄せた。

「あう」

 ジェジーニアの手が、脚衣をずり下げた。
 アウファトの目の前に、聳り立つ異形の性器が突きつけられる。竜人の、逞しい雄の象徴だった。目の当たりにするのはもちろん初めてだった。
 いく筋も血管が浮いた赤黒いそれは脈打ち、先端から透明な滴を滴らせている。
 張り出した部分の下には無数の棘のような凹凸が見える。
 自分のそれとは全く異なる形に、戦慄するとともに胸の奥にはそれとは全く異なる感情が生まれた。

 ほしい。

 そんな感情が生まれたことが理解できなかった。自分もジェジーニアも雄だ。どうしてこんなこと、と思う。
 花の香りがする。あの花の香りだ。

「ミオ、フレイノテ」

 ジェジーニアが口にした古竜語を理解して、後悔した。俺を受け止めてという意味だ。
 やはり、ジェジーニアは自分をつがいだと思っているのか。それよりも今は、なんとかここから抜け出したかった。
 俺は雌じゃない。やめてくれ、と声を上げかけた口に、容赦無く赤黒い怒張が捩じ込まれる。
 身体を押し返そうにも、ジェジーニアの身体はびくともしない。

「ン、っむ」

 身動きも取れないまま、アウファトは口の中いっぱいに怒張を含まされた。
 恐怖で身体がこわばって、舌を動かすこともできない。
 どうしてこんなことを、と思う。ジェジーニアはこんなに、強引なことをするようには見えなかった。

「んむぅ」

 口の中いっぱいに含まされたものが脈打ち、熱いものが放たれた。
 吐き出そうにも口はジェジーニアのものに塞がれ、飲み込むしかなかった。熱く、粘度のあるそれは喉が焼けるような甘さで喉を流れ、腹の中に落ちていく。
 口の中で何度も脈打ち、口いっぱいに放たれて、吐き出すこともできず飲み込まされる。

 苦しい。アウファトの目には涙が滲んでいた。
 ずるりと口から引き抜かれた怒張は先端が白く汚れている。
 アウファトは顔を背け、何度も咳き込む。
 甘い。喉が焼けるようなのに、もっと欲しくなる。
 飲まされたのが何なのか理解した次の瞬間、腹の底が甘く疼いた。

 ジェジーニアの精液。竜人の体液はつがいの発情を促すものではなかったか。それはきっと竜王も同じ。あるいは、それ以上のはずだ。

 心臓が煩く鳴り、甘く疼く腹の底から熱いものが湧いてくる。
 身体の芯は燃えるような熱を持って、皮膚の薄い場所にはもう汗が滲んでいた。
 こんな感覚をアウファトは知らなかった。
 怖い。
 アウファトの目に涙が滲んだ。
 なぜこんなことになったのか、考えても考えても、答えに辿り着くことはできなかった。
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