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09.ここのつめ

09.戦いの果てに(その9)

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邪神(龍王)は、地面に激突する寸前で意識を取り戻し、地上への激突は回避し、王都の瓦礫の山となった街並みへと降り立った。

だが、白蛇さんから生命エネルギーを吸い取られた影響が出ているのか、邪神(龍王)が羽を羽ばたかせて飛ぼうとするのだが真っ直ぐ飛ぶ事ができず、瓦礫の山に何度となく激突していた。

榊達は、地上を走っていた。

召喚した風神の雲にでも乗って移動すればよさそうなものだが、気が動転していたせいで、邪神(龍王)が地上に降り立った途端、思わず走ってしまったのだ。

「全力だ!死ぬ気で走れ!」

そう言った榊だったが、仲間の人化した神器達は、走るのが早かった。

いいだしっぺの榊は、最後列を汗をかきながら必死に走っていた。

やっとの思いで邪神(龍王)のところへとやって来た榊達だったが、既にベティ、ディオネ、レアの火龍達が封印の宝珠(レプリカ)を使って邪神(龍王)の封印を試みていた。

だが、封印の宝珠(レプリカ)を放つそばから邪神(龍王)は、短い光のブレスを放ち宝珠を破壊していた。

「榊殿、封印の宝珠(レプリカ)では、封印は無理なのじゃ。」

「既に封印の宝珠(レプリカ)の残りが少ないのじゃ。」

火龍のベティが念話で現状を伝えてきた。

榊は考えた。

もし、封印の宝珠(オリジナル)を使って、邪神(龍王)が封印できなかった場合の事を。

他に手があるなら試してみよう、榊は最後のあがきを始めた。

「アレス、四天王を召喚。封印できるか試そう。」

「はい。」

神器から人化したアレスは、短い返事をすると四天王を召喚した。

邪神(龍王)の四方に召喚された、持国天、増長天、広目天、多聞天が布陣した。

持国天、増長天、広目天、多聞天が念仏を唱え始めると、邪神(龍王)に向かって四方から魔法陣が現れた。

魔法陣は、邪神(龍王)の体へ徐々に近づき、あと少しのところまで迫った。

だが、邪神(龍王)の名は、伊達ではなかった。

四天王の封印の魔法陣に対抗する様に、邪神(龍王)が防御の魔法陣を展開してきたのだ。

持国天、増長天、広目天、多聞天が放った4つの封印の魔法陣に対して、邪神(龍王)は、4つの防御魔法陣を天展開した。

8つの魔法陣は、お互いに拮抗していた。

「まずい。これでは、俺達が負ける。」

榊は、思わずつぶやいた。

四天王を召喚したのは、神器のアレスだが、その召喚の源となるエネルギーは、榊の体から供給されていた。

つまり、このままの状態が続けば、体力が圧倒的に劣る榊が押し負けるのだ。

もう他に手はないのか。

榊がそう考えた時だった。

「邪神(龍王)の額にクリスタルが付いているね。漆黒の龍を倒した時の様に、あのクリスタルを破壊できないのかな。」

そんな声が念話から聞こえてきた。

声の主は、ディオネがしているペンダンドの宝珠を住処にしている炎の女神(免停中)であった。

炎の女神(免停中)は、ディオネがしているペンダンドの宝珠から上半身だけを出して念話に参加していた。

「あっ、本当だ。邪神(龍王)の額に以前の漆黒の龍さんと同じクリスタルが付いてる。」

「漆黒の龍さんは、神によって額にクリスタルを付けられてから、神に自身の体と心を操られてしまったんだよね。」

「うむ。その通りだ。恐らくあの邪神(龍王)に付けられたクリスタルを破壊できれば、正気に戻ったあやつと会話
する事ができるやもしれぬ。」

「邪神も元は龍王。話の通じぬ愚か者ではないはずだ。」

ディオネの質問に漆黒の龍は、自身の体験を交え期待を込めてディオネの質問に答えた。

「あの時、炎の女神様(免停中)の"破滅の楽園"と、ティアナの鬼人の槍であのクリスタルを貫いたのよね。」

「ふふん。私の"破滅の楽園"は凄いのよ!」

炎の女神(免停中)は、得意げに言い放った。

ディオネは、炎の女神(免停中)が話した漆黒の龍を倒した時の事を思い出していた。

あの時は、漆黒の龍は倒せなかったが、正気に戻った漆黒の龍を仲間にする事はできた。

ならば、試すしかない。

「ティアナ。またあの時のやつお願いできる?」

「はい!いつでもできます!」

アルタランド王国の王都の遥か上空を飛んでいたティアナが答えた。

飛竜のキウイの背に騎乗したティアナは、後方支援という事でこの戦いに参加していた。

だが、漆黒の龍との戦いでも最後はティアナと、ティアナの鬼神の槍の力が役に立ったのだ。

「それじゃ、漆黒の龍さんを倒した時と作戦は同じで行くわよ。」

「アイス。邪神(龍王)の額のクリスタルを凍らせて。」

「はい。」

「クリスタルが凍ったら炎の女神様(免停中)。邪神(龍王)の額のクリスタルの正面に"破滅の楽園"を放って
ください。」

「いいわよ。」

「ティアナ。急降下して鬼神の槍で邪神(龍王)の額のクリスタルを撃ち抜いて。」

「はい。」

「アレスさん、アイスがが邪神(龍王)を凍らせるまで、邪神(龍王)を押さえてください。」

「了解。」

「叔父さんは、体力が続く様にポーションをがぶ飲みしていて下さい。」

「おう!何本でも飲んじゃうよ。」

ティアナがてきぱきと指示を出し始めた。

「これで邪神(龍王)のクリスタルが破壊できなかったら打つ手なしね。」

「ぷはー。このポーション、何度飲んでも不味いな。」

「この世界を救う最後の切り札よ。」

「ぷはー。腹がポーションでタップンタップンだ!」

「叔父さんうるさい!最後の見せ場なのに!」

「ごめん。」

世界を救う最後の戦いのはずが、緊張感の全くない男がひとり側にいただけで台無しになっていた。

邪神(龍王)を倒す最後の作戦は、なし崩し的に始まった。

アイスがスキル"絶対零度"を邪神(龍王)の顔の正面に向かって放った。

その瞬間、アレスが召喚した四天王が身を引き、4つの封印の魔法陣が消滅した。

邪神(龍王)が放った防御の魔法陣は、四天王の封印の魔法陣が消えた事で、四方へと拡散し消えていった。

邪神(龍王)を守っていた魔法陣が消えたその瞬間、アイスの"絶対零度"が、邪神(龍王)の額のクリスタルに直撃した。

邪神(龍王)の体が一瞬にして白く凍りつく。

だが、さすが邪神(龍王)。

凍ったそばから着氷した氷が解けていく。

続いて炎の女神(免停中)の"破滅の楽園"が放たれた。

邪神(龍王)の額のクリスタルの正面で"破滅の楽園"は、猛威を振るった。

「みんな隠れて。」

「あれを受けたら一瞬で体が燃えてなくなるわよ。」

ディオネが叫んだ。

皆は、瓦礫の影に隠れて"破滅の楽園"が放つ炎から身を守っていた。

「あっ、熱い。服に火が付いた!」

だが、大量のポーションを飲んでいた榊が一瞬逃げ遅れていた。

「叔父さん。なにやってるの。」

「ごめん。」

「でもな、ここにいる中で俺だけ普通の人なんだぜ。」

「俺は、勇者でもなんでもないんだ。」

「無茶はできないんだよ。」

ディオネは、目を丸くした。

そうだった。

ディオネもレアもベティも火龍だ。

アイスは、氷龍。

ラディは、ヒドラ。

叔父さんと行動を共にしている仲間達は、人化した神器だ。

叔父さんだけが普通の"人"だったのだ。

「ごめんなさい。」

「いいさ。」

そんな会話をしている最中にも作戦は次の段階へと進んでいた。

まだ炎の女神様(免停中)が放った"破滅の楽園"の炎が邪神(龍王)の体を焼き尽くしている最中。

ティアナの駆る飛竜のキウイが物凄い速さで邪神(龍王)の正面へと近づいていた。

ティアナの手からは、鬼神の槍が放たれた。

すると、鬼神の槍の背後から漆黒の龍が近づき、鬼神の槍の中に吸い込まれる様に姿を消した。

漆黒の龍の影響なのか、鬼神の槍が飛ぶ速度がさらに増した。

邪神(龍王)はいまだに"破滅の楽園"の炎の中だった。

だが、鬼神の槍にとってそんな事は問題ではなかった。

ティアナが何を撃ちたいのかさえイメージできていれば、それを撃ち抜くのが鬼神の槍なのだ。

さらに、そこに漆黒の龍の力が加わった。

"破滅の楽園"の炎の中でもがく邪神(龍王)の額のクリスタルに鬼神の槍が正確に命中した。

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