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08.やっつめ

03.火龍神殿を襲うもの達(その3)

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火龍神殿の前に広がる広場に榊とクリスとアレスの3人が立っていた。

榊の探査の魔術によると火龍神殿に向かって来る龍は"闇龍"というらしい。

詳しい事は、それ以上分からなかった。まあ、敵の素性など些細な事なのだ。

3人は、闇龍が降り立つのを待っていた。

そう、戦いの前に敵対する者同士がにらみ合うのはお約束なのだ。

もし、このお約束を破って闇龍がいきなり攻撃を仕掛けてきたら、榊は闇龍に対して破壊的な攻撃を行うつもりでいた。

榊は強くはない。いや、やたらと弱い。

しかしだ。付き従っている者達はそうではなかった。

榊の仕事は、女神様がこの世界にばら撒いた神器の回収だ。

回収した神器には人化のスキルを持ったものがいた。

榊は、女神様がこの世界にばら撒いた神器を回収し、女神様に返却するのが仕事だ。

だが、その仕事にはある特権を与えられていた。

神器の回収のためなら、回収した神器を使ってもよいというお墨付きだ。

榊は、それを最大限に利用した。

異世界に呼び出され、スキルを与えられようとも、剣道の経験もない者が剣の練習なんぞをやったとろで、上手くなる訳がない。

だから、剣のスキルを磨く事を早々に諦め、代わりに戦いは全て回収した神器達に任せた。

榊は、人化した神器達に指示を出す。ただそれだけだった。

だが、それが当たった。

次々と神器を回収すると、目ぼしい神器を次々と人化させて、自身の戦力としたのだ。

まあ、その話は別のお話に委ねるとしよう。



榊は、火龍神殿の上空を飛ぶ闇龍にプライドというものがあれば、榊の目の前に降り立ち、口上のひとつも述べるだろうとそう思っていた。

案の定、何かに導かれる様に火龍神殿前の広場へと空から1体の龍が降り立った。

巨大な浅黒い龍だった。

龍の口からは、黒い煙の様なものが漏れ出していた。

あれが闇龍のブレスなんだと榊は理解した。

火龍神殿の入り口には、赤い神官服を着た神官達が、獲物を持ち龍の攻撃に備えていた。

榊は、目の前の闇龍に対して一礼をしたあとこう口を開いた。

「気高く強大な力を持つ闇龍様。ようこそ火龍神殿に参られた。」

「ときに闇龍様は、どんなご用向きでお越しになられたのでしょう。」

「ここは、戦いの場ではありません。人々が平穏を願う場所でございます。」

「もし、闇龍様に慈悲という物がありますれば、ここを戦いの場にすることをお止めいただきたいと思う所存でございます。」

すると、闇龍は人の言葉で話を始めた。

「我らは、神の意思によりこの世界を破壊するためにやってきた。」

「お主らの様な虫けら如きに言葉を発するなど愚行にも程があるが、虫けらにも命くらいある事は知っている。ならば最後の言葉くらい聞いてやろうとあえて愚行を承知で話をしている。最後の話くらい聞いてやろう。」

"くうー。これだよ。強い敵はこう言い放つべきなんだよ。相手の存在を認めないながらも、少しだけ慈悲を与えたようなものの言い方が実にいい。だが、その余裕が命取りだんだよ。"

榊は、自信のこころの声に感動していた。

"きっとこれからすさまじい戦いが繰り広げられると、神殿前に居並ぶ神官達はそう思ったろうな。"

"残念"

榊は、姑息な手を使った。

榊の腕には、神器"どらまたの腕輪"が装着されていたのだ。

榊は、神器"どらまたの腕輪"が装着された左腕を空に向かって高々と掲げた。

そして目の前の巨大で強大な力に満ちた闇龍に向かってある呪文を唱えた。

それは、某落語家の様な口ぶりだった。

「ドラゴンさん、いらっしゃ~い。」

すると、左腕に装着した"どらまたの腕輪"から七色の光の珠が螺旋を描くように飛び出すと闇龍の巨大な体を包み込んだ。

闇龍の巨体は、七色の光の中で徐々に小さくなっていき、七色の光が欠き消える頃には、1体の裸体の女性へと変わっていた。

闇龍は、己の姿がひ弱な人の姿になった事が分からず、小さな口を大きく開いて何かを必死に吐き出そうとしていた。

闇龍は、もう龍ではないのだ。その小さな口を大きく開いてもブレスは出ない。

己に何かが起こった事をようやく察した闇龍から変身した裸体の女性は、己の姿をまじまじと観察した。

そして、裸体の女性はその場に座り込んでしまった。

榊は、神器で闇龍に人化の呪いをかけたのだ。

この人化の呪いは、100年もの間、龍を人に変えるのだ。

この神器の呪いを解く事はできない。

いや、この呪いを解く方法がひとつだけあった。

それは龍神となること。

龍神となれば、あらゆる呪いから解放される。

そして、この人化の呪いを解いた者がいる。

そう、火龍神殿の主でる火龍の"ベティ"だ。

ベティは、龍神となった事で、人化の呪いを自らの力で解いてしまった。

だが、ベティは、そのまま人の姿でいた。それは、いろいろな思いがあったからだ。



さて、火龍神殿前の広場で裸体を晒しているひとりの女性は、広場の中央に座り込んでいた。

女性は、広場の中央で空を見上げて途方に暮れていた。

榊は、広場の中央に座り込んだ裸体の女性に近づくと、女性の後ろから首にある物を嵌めた。

榊が女性に嵌めたある物とは、"従属の首輪"であった。

"従属の首輪"は、その首輪に魔力を込めた者の命令に服従する。反抗的な態度は一切できなくなるという魔法具だ。

榊は"従属の首輪"を裸体の女性の首に嵌めた事で、服従した闇龍を手に入れたのだ。

「全てを戦いだけで完結できるほど世の中は上手く出来ていないんだな。」

「力のある者は、そこが見えていない。己の力を過信した結果とはいえ皮肉な話だな。」

榊は、腰にぶら下げたアイテムバックから白いローブを出すと、火龍神殿前の広場に座り込んだ裸体の女性の肩にかけた。

「お前は、元は龍だから人の女性としての羞恥心というものは無いだろう。だが、周りの人の男達はそうはいかん。ローブを纏ってその優美な裸体を隠せ。」

人の女性と化した闇龍は、立ち上がると榊が差し出したローブを纏った。

人の女性と化した闇龍は、何か言いたそうな素振りを見せたが、結局何も言えずに榊の後ろをただついて歩いていた。


榊は、自身の後ろを歩く人の女性と化した闇龍の成端な顔だちを見ながら思わずぼそりと呟いた。

「いや、ベティも人化した時は美人だったけど、水神様も美人だし、闇龍も美人だな。龍は、人化すると美人になるのか。」

「さて、ベティの負担も考えてやらんとな。」

「アレス、悪いが雷神と風神を召喚してくれ。」

「ベティの援護に向かう。」
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