86 / 119
07.ななつめ
08.漆黒の龍(その3)
しおりを挟むふと、レアがある事に気が付いた。
「あれ、いつも僕の頭の上で寝ている白蛇さんがいない。」
「まさか、漆黒の龍に見られて体ごと消えてしまったのかな。」
レアは、慌てて白蛇を探した。
「これ、レア殿、わしはここにおる。」
その言葉を聞いたレアが振り向くと、小さな体の白蛇が、レアの足元からするすると頭の上へと上っていった。
「白蛇さん。どこに行っていたの、探したんだよ。」
「すまんな。皆の攻撃が始まる前からあの龍の近くで観察しておったのだ。」
「それでな、少し面白い事がわかったのだが、聞きたくはないか。」
白蛇は、いつもは、レアの頭上で寝てばかりいるのだが、今回に限っては、自ら動いて"漆黒の龍"を観察していたらしい。
皆は、"炎の女神(免停中)"の"炎の竜巻"により廃墟と化した家屋の地下室で、レアの頭の上でとぐろを巻く白蛇の言葉を待った。
「皆が"漆黒の龍"へ放った攻撃は、どれも効いておった。ただ、与えたダメージを回復する能力が尋常ではない。」
「あやつの回復能力があれば、何度攻撃を繰り返しても、何度でも復活するであろう。」
「ただしじゃ、攻撃の回数が増える度に、与えたダメージから回復に要する時間が増えておった。」
「あやつは、この街の住民や街を守る兵士の魂を喰らっておった。じゃが、最近はどうじゃ。既にこの街の住民は殆どおらん。」
「この街を守っておった兵士もじゃ。」
「もしかすると、あやつは、皆の攻撃による回復に今まで吸い尽くした魂を使っておるのではないか。」
「もし、そうならこの街の住民は、あの龍の魂を食われて殆どおらん。このまま住民の魂を喰らわずにおれば、いずれは我々の攻撃によるダメージの回復が間に合わなくなるのではないか。」
ディオネ、レア、アイスは、お互いの顔を見て"それが正解だ"と理解した。ただ、ラディは、興味がないのでそっぽを向いていた。
「じゃが、あの龍が回復できなくなるまで疲弊する迄に要する期間が見当もつかん。」
「気が付いたら、あの龍に逃げられて他の街を襲われでもしたらもう、それこ同じ事の繰り返しじゃ。」
つまり、"漆黒の龍"をこの街から出さない様に足止めをしつつ、先ほどの様な攻撃を続ける必要があるということだ。
これもいささか現実的では無かった。
ディオネ、レア、アイス、ラディも生きているのだ。あの様な攻撃を繰り返していれば、そう遠くない時に力を使い果たすのは
明らかであった。
「ただな、もうひとつやつを観察して分かった事がある。あやつの額には"宝珠"が埋め込まれておる。」
「龍の額に宝珠などあるなど聞いた事がない。」
「誰かに額に"宝珠"を埋め込まれたのであれば、何か理由があるのであろうな。」
「それとな、"炎の女神(免停中)"による攻撃で、その"宝珠"にヒビが入ったようじゃ。」
「小さなヒビだが、あの額の"宝珠"が、あやつの力の源であったなら、あの"宝珠"を破壊すれば何か先が見えるかも知れんのう。」
すると、アイスが面白い事を言い出した。
「お伽噺とかでありがちなんですが、ああいった"宝珠"を破壊すると、死んでしまうとかよくあるじゃないですか。」
「あくまでお伽噺の中のお話ですよ。」
「アイス、あなたよくそんなお伽噺を知っているわね。」
「ええ、ダンジョンマスターをしている時に、ダンジョンの最奥でする事もないので、女神様に書物を持ってきてもらいました。」
「その書物の中に、そんなお話があったと思いました。」
アイスの話は、所詮お伽噺の中のは出来事だ。
ディオネは、一旦はそう考えた。だが、他に打つ手はないのだ。
ならば、やってみる価値はありだと考えた。
「そうね。いい発想かも。どうせ手詰まりで先が見えない以上、やってみる価値はあるかもね。」
まずは本当に、額の宝珠にダメージを与える事ができるのか、もう一度確認をする事にした。
それには、"炎の女神(免停中)"による最強最大の攻撃が必要であった。ただし、それは1日1回限定だった。
ディオネ達は、"炎の女神(免停中)"が1日1回の攻撃ができる様になるまで、断続的に"漆黒の龍"への攻撃を続けた。
"漆黒の龍"が他の街へ移動しないための足止めと"回復力"を消耗させるためだ。
次の日。
炎の女神は、最強最大の攻撃"破滅の楽園"を"漆黒の龍"へと放った。
「1日1回限定だからね。全力で行くからね。」
"炎の女神(免停中)"は、ありったけの力を溜めると目の前の極小さな白い光を放つ火球を出現させた。
"炎の女神(免停中)"は、それを"漆黒の龍"の面前にめがけて、勢いよく飛ばした。
"炎の女神(免停中)"が飛ばした、極小さな白い光を放つ火球は、ふよふよと力なく"漆黒の龍"の面前に到達した。
"漆黒の龍"は、面前に突然現れた極小さな白い光を放つ火球に一瞬動揺したが、すぐに目からあの赤い光を放った。
しかし、"炎の女神(免停中)"が飛ばした、極小さな白い光を放つ火球には何の影響を及ぼす事はなかった。
極小さな白い光を放つ火球は、さらに光の強さを増すと、火珠はどんどん大きくなっていった。
「みんな地下室に逃げて、熱と衝撃波が来るわよ。」
"炎の女神(免停中)"が突然大声を発した。
みんなは、いそいで宿屋の地下室へと走り込んだ。
最後に地下室に逃げ込んだディオネがドアを閉めると、アイスが氷でドアを氷の分厚い壁で凍結させた。その瞬間。
ドアの隙間からまばゆい光が差し込み、アイスが作り出した分厚い氷の壁が眩く光り出した。
ディオネ、レア、アイス、ラディも、地下室のすみに体をかがませると、頭の上に毛布を被った。
その瞬間、今迄に聞いた事もないような、爆音が響き渡った。
0
お気に入りに追加
47
あなたにおすすめの小説
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
黒の皇子と七人の嫁
野良ねこ
ファンタジー
世界で唯一、魔法を使うことのできない少年レイシュア・ハーキースは故郷である『フォルテア村を豊かにする』ことを目標に幼馴染のアル、リリィと共に村を出て冒険者の道を進み始めます。
紡がれる運命に導かれ、かつて剣聖と呼ばれた男の元に弟子入りする三人。
五年間の修行を経て人並み以上の力を手にしたまでは順風満帆であったのだが、回り続ける運命の輪はゆっくりと加速して行きます。
人間に紛れて生きる獣人、社会転覆を狙い暗躍する魔族、レイシュアの元に集まる乙女達。
彼に課せられた運命とはいったい……
これは一人の少年が世界を変えゆく物語、彼の心と身体がゆっくりと成長してゆく様を見届けてあげてください。
・転生、転移物でもなければザマァもありません。100万字超えの長編ですが、よろしければお付き合いください。
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
本当の仲間ではないと勇者パーティから追放されたので、銀髪ケモミミ美少女と異世界でスローライフします。
なつめ猫
ファンタジー
田中一馬は、40歳のIT会社の社員として働いていた。
しかし、異世界ガルドランドに魔王を倒す勇者として召喚されてしまい容姿が17歳まで若返ってしまう。
探しにきた兵士に連れられ王城で、同郷の人間とパーティを組むことになる。
だが【勇者】の称号を持っていなかった一馬は、お荷物扱いにされてしまう。
――ただアイテムボックスのスキルを持っていた事もあり勇者パーティの荷物持ちでパーティに参加することになるが……。
Sランク冒険者となった事で、田中一馬は仲間に殺されかける。
Sランク冒険者に与えられるアイテムボックスの袋。
それを手に入れるまで田中一馬は利用されていたのだった。
失意の内に意識を失った一馬の脳裏に
――チュートリアルが完了しました。
と、いうシステムメッセージが流れる。
それは、田中一馬が40歳まで独身のまま人生の半分を注ぎこんで鍛え上げたアルドガルド・オンラインの最強セーブデータを手に入れた瞬間であった!
何でリアルな中世ヨーロッパを舞台にしないかですって? そんなのトイレ事情に決まってるでしょーが!!
京衛武百十
ファンタジー
異世界で何で魔法がやたら発展してるのか、よく分かったわよ。
戦争の為?。違う違う、トイレよトイレ!。魔法があるから、地球の中世ヨーロッパみたいなトイレ事情にならずに済んだらしいのよ。
で、偶然現地で見付けた微生物とそれを操る魔法によって、私、宿角花梨(すくすみかりん)は、立身出世を計ることになったのだった。
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
魔王復活!
大好き丸
ファンタジー
世界を恐怖に陥れた最悪の魔王ヴァルタゼア。
勇者一行は魔王城ヘルキャッスルの罠を掻い潜り、
遂に魔王との戦いの火蓋が切って落とされた。
長き戦いの末、辛くも勝利した勇者一行に魔王は言い放つ。
「この体が滅びようと我が魂は不滅!」
魔王は復活を誓い、人類に恐怖を与え消滅したのだった。
それから時は流れ―。
リエラの素材回収所
霧ちゃん→霧聖羅
ファンタジー
リエラ、12歳。孤児院出身。
学校での適正職診断の結果は「錬金術師」。
なんだか沢山稼げそうなお仕事に適性があるなんて…!
沢山稼いで、孤児院に仕送り出来るように、リエラはなる♪
そんなこんなで、弟子入りした先は『迷宮都市』として有名な町で……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる