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07.ななつめ

06.漆黒の龍(その1)

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ディオネ、レア、アイス、ラディは、とある街の宿屋での一室で就寝していた。

最近、各国の街を正体不明の龍が襲っているという噂話を聞きつけ、襲われた街の調査に向かう途中だった。

なぜ噂話かというと、襲われた街の生存者が殆どいなかったためだ。

それでも、かすかに伝え聞こえてくる話では、龍は、夜に現れ街の人々を次々と食べてしまうというのだ。

襲われた街には、死体が殆ど残らない。というものだった。

ディオネとレアは、襲われた街の名前を頼りに、その龍に襲われた近くの街へとやってきたのだ。

街の城壁には、数千人の兵隊が警護にあたり、厳戒態勢を敷いていた。

しかし、実際に龍が現れた場合、数千人の兵士では相手にならない。

そんな事をいちいち兵士達に忠告するディオネとレアではなかった。



ディオネ、レア、アイスは、深夜にベットから起き出すと、お互いに目配せをしつつ装備を整え始めた。

「何か来たわ。かなりの大きさね。」

「うん、この大きさは龍かな。」

「人々が住む街に龍が来るなんて珍しいですね。」

ディオネ、レア、アイスは、装備を整え終わる頃、ようやくラディも起き出した。

ラディがうとうとしながら服を着ている頃、突然地鳴りのような音が響き、街の人々の怒号が響き渡った。



ディオネとレアは、頷きながら部屋の窓を開けると、街中に見た事もない姿の龍が現れた。

姿こそ龍と大差はなかったが、体の色が漆黒だった。あんな色の龍など見た事も聞いた事もなかった。

龍は、街を俳諧しながら時折何かをする仕草を見せていた。

口からブレスを吐くというより、目で何かを追っているような仕草を絶えず行っていた。

「姉さん、見た事のない龍だね。」

「そうね、それにあの龍は、何をしているのかしら、ブレスを吐くわけでもない様だけど。」

"漆黒の龍"は、ときたま赤い目が光るような仕草を見せると、少しずつ街中を移動していた。

「姉さん、あの龍、何をしいると思う。」

「分からないわね。人を襲って食べているようには見えないわね。それに街の建物を破壊しているようにも見えない。」

「これは、近くに行って見た方がよさそうね。」

「なんだか、姉さん楽しそうだね。」

「えっ、だって龍と戦えるのかもしれないのよ。楽しい以外に何があるの。」

ディオネとレアの会話から次の行動を察したアイスは、寝ぼけるラディの手を引きながら先に部屋を出た。

アイスは、宿屋の外でディオネとレアが出て来るのを待ちながら、宿屋でもらったこの街の観光案内ガイドの地図を開いて"漆黒の龍"のおおよその方向などを確認していた。

「ディオネ様、レア様、"漆黒の龍"は、この辺りにいます。おそらくこちらの方向に行くものと思われます。」

「この街で迷子になった場合は、街の中央にあるあの教会の塔を目印にしてください。」

ディオネもレアもアイスの適格な情報伝達に安心感を覚えていた。

ディオネは、その場にいる3人に向かって若しもの時にどうするかを適格に話した。

「もし迷子になったり、自身の位置を把握できなくなったら、当面はこの宿屋に戻る事にします。」


アイスは、ディオネとレアにこの街の観光案内ガイドの地図を示しながら、"漆黒の龍"の位置と目印となる教会の位置の確認方法を適格に示した。

アイスは、とある女神に言葉巧みに騙されてダンジョンマスターなるものをやらされた経験があったため、地図の扱いには、いさかか定評があった。



4人は、宿屋から出ると"漆黒の龍"の元へと向かった。

街中の細い路地を進みながらディオネは、違和感を覚えた。

龍が出現したというのに、逃げる人の数が極端に少ないのだ。

いくら龍が街中であばれているといえ、街の住人の殆どが龍に殺される事などありえない。

いったい、龍が暴れている足元では何が起きているというのだろう。

ディオネは、もうすぐ"漆黒の龍"の足元という場所まで近づくと足を止めた。

ディオネは、皆に建物の影で待機するように言うと、軽く跳躍して近くの建物の屋根へと着地した。

その屋根の上からは、"漆黒の龍"がよく見えた。さらに、"漆黒の龍"の前には、街の大通りが広がり建物から逃げまどう街の住民の姿もよく見えた。

"漆黒の龍"の前には、この街を守る守備隊の兵士が隊列を作り、弓隊が多数の弓を放っていた。

弓は"漆黒の龍"の体に命中するも、龍の体に一切の傷を付ける事なく、地面へと落ちていった。

その時だった。ディオネは、ある光景を目の当たりにした。

"漆黒の龍"の目が赤く光った様に見えたと思った瞬間、龍の前で隊列を組んでいた守備隊の複数の兵士の体が霧散したのだ。

しかも装備している武具や服も一緒に。

さらに龍は、逃げまどう街の住民の方向を見ると、先程と同じように目を赤く光らせた。

すると、大通りを逃げまどう街の住民の姿が跡形もなく霧散していったのだ。

ディオネは、直感的に理解した。

あの漆黒の龍の目は"非常にまずい"。

あの目が赤く光ると、体が霧散?する。いや破壊か?とにかく、あの"漆黒の龍"に見られたら死ぬ。

しかし、見られただけで死ぬスキルなど聞いた事がない。

ただ、ディオネが"漆黒の龍"を観察してある事が分かった。

"漆黒の龍"の目が赤く光るのを、横から見ているだけでは、体は霧散しなかった。ディオネの体が存在している事でそれが証明できた。つまり、"漆黒の龍"に正面から見られなけばあのスキルは発動しない。

とにかく一旦引いて前後策を考えるべきと判断した。

ディオネは、建物の屋根から降りると、レア、アイス、ラディを引き連れて、先ほどまで宿泊していた宿屋へと戻った。

宿屋に入ると、そこには食堂の床にうずくまる宿屋の主がひとりだけ取り残されていた。

「あるじ。この宿に地下室はあるか。」

しかし宿屋の主は、宿の食堂の床にうずくまり、ただ震えているだけだった。

「あるじ!怯えているだけでは龍に食われるぞ。地下室はあるかと聞いている。」

「ひっ、あそこの扉が地下室への入り口です。地下室は、他の宿屋ともつながっています。」

「あるじ。地下室に逃げるぞ。いっしょに来い。」

「ひえー。お助けを。」

宿屋の主は、足がすくみ全く動けなかった。

ディオネも、宿屋の主これ以上関わっていると、逃げ遅れてしまうと判断し、宿屋のあるじを置いて宿屋の地下室に逃げ込んだ。

「姉さん。どうして地下室なんかに逃げ込んだの。皆で戦えばどうにかなる相手に見えたけど。」

確かに、ディオネも最初はそう思った。探査の魔術で"漆黒の龍"を調べたが、特段優れた能力を持っているようには見えなかったからだ。

だが、あの赤く光る目によって兵士や街の住民が霧散していく光景を目の当たりにした事でその考えはきっぱりと棄てたのだ。

レア、アイス、ラディは、兵士や街の住民が"漆黒の龍"に見つめられただけで、体が霧散する光景をまだ見てはいなかった。

「いい、私が見た光景を説明するわ。」

ディオネは、そう言うとレア、アイス、ラディに見て来た光景をありのまま話始めた。

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