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06.むっつめ
09.スキルの持ち主(その5)
しおりを挟む「僕のスキル"炎蛇"は、元々は白蛇さんのスキルだったの。」
レアは、頭の上でとぐろを巻く小さな白蛇に歩きながら、いろいろな質問を投げかけていた。
「そうじゃ、わしは元々はこの世界に破壊をもたらす破壊神として現れたのじゃ。」
「じゃがな、現れた場所がまずかった。わしが現れた山奥の村は、魔獣に襲われておったのじゃ。」
「本来なら、わしが襲うはずの村を、先に襲いおった魔獣に腹が立っての。」
「つい、村を襲っておった魔獣を退治してしまったのじゃ。」
レアの頭の上でとぐろを巻きながら、話を続ける白蛇は、ときたま話の合間に少し考え込むそぶりを織り交ぜ、昔の出来事を思い出しているかのうな仕草を見せた。
「それ以来、村人達はわしの事を土地神だと言って崇め始めたのじゃ。」
「最初は、山々で暴れまわったりもしたのじゃがな。村人達があまりにも従順に従うのでな、いつの間にかわしは土地神としてこの地を守る事を決めたのじゃ。」
「じゃが、わしのスキルは土地神としては強大すぎたのじゃ、そこで土地神となる代償としてスキルを差し出せと神が言いおってな。」
「最初は、拒否したのじゃ。しかし、時が立つ毎に村人達を守るだけならわしの強大すぎるスキルはいらぬと分かったのでな、神にスキルを差し出したのじゃ。」
「それから数百年の時をあの山々で過ごし、山間の村々を守ってきたのじゃ。」
「その村々がこうもあっさり人共に滅ぼされるとは…なさけない。」
レアは、頭の上でとぐろを巻く白蛇の姿は見えずとも、頭の上を見るかのような仕草を繰り返しながら白蛇の話との会話を続けた。
「でも僕達が村に行く事は知ってたの。」
「そうじゃ、かなり前から神から知らせがあったのじゃ。」
「しかし、村々が襲われて誰がその者達なのか分からくなったしまったのじゃ。」
「それで、お前達の様子を観察しておったら、死んだ村人達の墓を作って埋葬しておったのでな、お前達がそうなんじゃろうと。」
すると、レアの頭の上でとぐろを巻く白蛇とレアの会話にディオネが割って入って来た。
「じゃあ、分かっていて私達を攻撃したのね。」
「わしも、誰とも分からぬ者にただ力を貸すほど愚か者ではないのじゃ。相手の力量くらいは確認せんとな。」
ディオネは、レアの頭の上でとぐろを巻く白蛇の言っている事が正しいというのは理解していた。
しかし、だからといって納得できると言えば、それは別の話だ。
「しかし、おぬしらの戦いはなってないの。全く連携が取れておらん。あれでは、これから戦うという奴らに勝てぬぞ。」
「うっ。」
ディオネもレアも痛いところを付かれ、思わず変な声を出してしまった。
「しかしじゃ、炎龍に氷龍、それに毒持ちのヒドラまで揃えるなんぞ、なかなかできんぞ。」
「これからは、戦いの方法と各々の連携を学ぶのじゃ。さすれば、もうちっとましな戦いができるじゃろ。」
ディオネもレアも、魔獣や人との戦いは手慣れていた。
しかし、戦術となると全くの素人だ。まして、このメンツで連携して戦った事など、あの巨大な白蛇との戦いが最初だったのだ。
逆に言えば、初戦で戦った事のない者達が集まってよく戦う事ができたと、褒め欲しいと思っていたくらいだ。
「これから、わしが戦い方を少しずつ教えてやろう。ほれ、言うじゃろう"年の功"とな。」
たしかに、ディオネとレア、アイスとラディの4人の中で一番の年長者は、氷龍のアイスだった。
しかし、アイスは、女神に騙されて100年以上もダンジョンの最下層にダンジョンマスターとして閉じ込められていたので外の世界での実戦経験は、事の外乏しかった。
「そうですね。戦い方というのは、直ぐに身に付くものではないですから。ここは、経験者から学ぶべきです。」
アイスもレアの頭の上でとぐろを巻く白蛇との会話に参加して来た。
「ぼうず。おぬしは、もう少し戦いというものを理解するのじゃ。あれはひどかったぞ。」
白蛇は、元ヒドラのラディの考えなしの行動にい苦言を呈したのだ。
しかし、ラディは聞こえぬ素振りで、小さな体をゆらしながら街道をどんそん進んで行った。
「姉さん。この前は、僕のスキルの元持ち主だった白蛇さんに会いに行ったよね。」
「じゃあ、今度は姉さんのスキルの元持ち主のところ?」
レアは、今回の旅の行先については、ディオネからは伝えられていなかったが、さっしが良ければもう分かってしまうだろうと、ディオネは、あえて言わなかったのだ。
「そう、私のスキルの持ち主だった人。いえ、人ではないわね。人ではない存在の所へ向かうの。」
「だから、あまり気が進まないのよ。だって、私の頭の中に話しかけて来る妙な存在と同族なのよ。」
「えっ、それってか…。」
「言わないの。絶対変なやつに決まってるんだから。」
「…。」
ディオネの口ぶりが妙にトゲトゲしかったので、レアもそれ以上の会話を続けようとはしなかった。
山の中腹にある村をまだ昼の日が高い事に通りすぎ、山肌の小さな平地に作られた畑の脇の細い街道を進んだ。
畑には、所々で農作業を営む農夫がいたが、ディオネやレアの様な旅人に話しかけるほど暇な者はいなかった。
だが、どんな場所でも例外というか、お約束な者はいるものだ。
畑の脇を進む細い街道を4人で歩いていると、畑仕事をしていた農夫がディオネ達の姿を見て慌てて走り寄ってきた。
「おまえさん方、まさか谷にある水の神殿に行かれるおつもりか。」
血相を変えて走り寄ってきた農夫に言葉に少し戸惑いながら、ディオネが笑顔で答えた。
「はい。その水の神殿に向かうつもりです。道はこのまま進めばよいのですよね。」
「えっ、いや。確かに道はこのまま進めばよい。もう少し先で二股に分かれるから谷に降りる左の道へ行けばよいのじゃが。」
ディオネの屈託のない笑顔の返答に、農夫は思わず言葉が出ず口ごもってしまった。
「まさかお前さん達の様な女子供だけであそこに行くのか。」
「無理じゃ、あそこは手練れの冒険者や王国の兵士ですら、行ったら戻ってこれんのじゃよ。」
農夫は、水知らずの4人の事を本当に心配して声をかけたようだ。
「でも、僕達はどうしてもあそこに行かないといけない訳がるのです。その訳は言えませんが…。」
レアが、わざとらしく困った様な表情を見せて、レアの顔を覗き込む農夫を困らせた。
「そっ、そうなのか。何か深い訳でもあるのじゃろうが。困ったの。前日も、黒いローブを纏った連中が大勢で他にへと向かったんじゃが、まだ誰も戻ってこんのじゃ。」
ディオネとレは、お互いの顔を覗き込むと、良い情報を得たとばかりに農夫の顔を覗き込んだ。
「おじさん。その黒いローブを纏った者達って、どれくらい前に来たの。」
さっきまで悲しげな表情を見せていたはずのディオネとレアだが、いきなり笑顔で話しかけられた農夫は、困り顔で黒いローブを纏った者達の事を話始めた。
「そっ、そうじゃな。3日程まえじゃ。10人以上おったかな。食料も武器もたんまり持っていた。」
「おじさん。良い話を教えてくれてありがとう。」
ディオネとレアは、農夫にそう言い残すと、その場を後にしてはや足で街道を進んでいった。
「やつら、ここにも来たのね。」
「姉さん。あいつらも僕達と同じ目的なのかな。」
「それは分からないけど。でも安心して。これから向かう谷の水の神殿は、かなり手ごわい場所らしいから。」
「あんな連中に先を越されるような、甘い所じゃないわよ。」
「それも、毎晩、頭の中に話しかけて来る女神様からの情報なの?」
「そうよ。頭のいかれた女神様からの情報よ。」
ディオネは、自分の頭の中に直接話しかけてくる女神様の事を、"頭のいかれた女神"としか表現しなくなっていた。
それくらいディオネは、自分の頭の中に直接話かけてくる女神の事が嫌いになっていたのだ。
山間の街道沿いから畑が無くなる頃、街道が二手に分かれる場所へとやってきた。
先に街道を歩いていたラディが立ち止まり、こちらを振り返ると左へ進む道へと指を指し、方向が間違っていないかと問いかけてきた。
農夫が言う通り左の道は、山から谷へと向かう様にゆっくりと下っていた。
しかも左の道の先には、親切にも看板が立てられこう書かれていた。
「この先"水の神殿"。入るべからず。」と。
ディオネとレア。アイスとラディは、お阿互いの顔を覗き合い、会話もないまま谷へと向かう細い道へと足を進めた。
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