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05.いつつめ

14.双子の剣技(その5)

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ディオネとレアは、大盾を並べて防御壁を作る盾役のゴブリンの頭上をさっと飛び越えた。
しかも飛び超えた盾役のすぐ先で、剣を構えるゴブリン剣士の手前で飛び越えた力を一気に殺すとストンと着地して大盾を構えるゴブリンと大盾の隙間にススッと入り込んだ。

ゴブリン剣士達は人族のふたりに向かって剣を振り上げたが、盾役と大盾の隙間に入り込んだふたりに剣を振り下ろす事ができなかった。
このまま剣を振り下ろせば、仲間のゴブリンおも殺してしまうからだ。

大盾を構えていたゴブリン達は、慌てて大盾を持ちあげてゴブリン剣士が剣を振り降ろせる体制を
作った矢先、ディオネの"混乱の剣"がスッと突き出され、盾役のゴブリンとゴブリン剣師達の腕や足をに次々と浅い傷を付けていった。

同じ様にレアも大盾を構えるゴブリン達に対して"ハードポイズンソード"で切りつけると、大盾を持ったゴブリンを盾にしながら"ハードポイズンソード"の餌食を次々と増やしていった。

ディオネの"混乱の剣"に切り付けられた盾役のゴブリン達は、体をいきなり反転させると仲間のゴブリン剣士めがけて大盾で壁を作りながら突進を始めた。

いきなり大盾を持ったゴブリン達が、まるで人族を守るかのように突進してきた事にゴブリン剣士達は戸惑ったが、自分達に向かってくる者が同族であろうと躊躇しないのも魔獣と言わしめるところである。

大盾と大盾の隙間に剣を差し込むと盾役のゴブリン達を次々と倒していった。
レアが振るった"ハードポイズンソード"で切りつけられたゴブリン達は、壮絶な場面に直面していた。

大盾を持った盾役のゴブリン達と、ゴブリン剣士達は、次々と地面に手足を付いては、胃の中の物を嘔吐し始めていた。
目の前で次々と仲間のゴブリン達が、倒れて嘔吐する姿に他のゴブリン達は、何が起きているのか理解できずにお互いの顔を見合いながらただ立ち尽くしていた。

ゴブリン達の防衛戦は既に崩壊していた。
混乱する戦場では、ディオネの"混乱の剣"でゴブリン同士で同士討ちを始め、レアの"ハードポイズンソード"の猛毒で次々と地面に倒れたゴブリンは絶命していった。

混乱した戦場の中をクリスは、するりと抜けゴブリン達に捕らえられた人族の所へと到達していた。

ディオネとレアは、盾役のゴブリン達が持っていた大盾をあえて地面に倒さずにに立てた状態で残していた。

それは、大盾に隠れてゴブリン達を襲うためだ。
盾役のゴブリンとゴブリン剣士の殆どを失った弓使いのゴブリンとゴブリンメイジ達は、混乱していた。

自分達を守るはずの剣士も盾役も既になく、あるのは四方に残された大盾から突然の様に繰り出される剣技のみだったからだ。

弓使いのゴブリン達は、大盾に矢を放つも大盾が倒れる事はなく、ゴブリンメイジ達が詠唱をとなえ魔術を放つ事でようやく大盾は倒れていった。

しかし、大盾がひとつ倒されると人族の影が視線を潜り抜けてゴブリン達に浅い傷を負わせていた。
すると仲間のゴブリンが突然混乱を来たし仲間を次々と襲い始めた。
さらにその横では、次々と地面に倒れ込み嘔吐を繰り返しながら絶命していくゴブリンが後を絶たなかった。

気が付けば、防御壁を築きその後方で弓使いと魔術を放っていたゴブリンは、ひとりとして立っている者はいなかった。



生きたまま捕らえられた冒険者は、縄で縛られてゴブリン達に運ばれていた。
投石で頭を強打して地面に倒れた冒険者は、同じく縄で縛られ地面にころがされ身動きが取れなくなっていた。

ゴブリン達は、"生きがいい"食材が好みらしい。
殺されずに縛られた冒険者を運ぶゴブリン達の後方では、仲間のゴブリンが次々と倒されていた。
それを目の当たりにしたゴブリン達は、慌てて食材となる予定の冒険者を担つぎ、急いでその場を離れようとしていた。

「どこに行くのです。その担いでいる冒険者を置いて行きなさい。」

縄で縛った冒険者を担いでいたゴブリン達の目の前には、剣を抜いたクリスが立ちふさがった。
ゴブリン達は、縄で縛った冒険者を乱暴に地面に下ろすと、腰にぶら下げた鞘から剣を抜きクリスに剣を向けた。

その時、不意に地面に何かが転がっていくのをゴブリン達の目は捕らえた。
地面を転がる何かを目を凝らして見ると、それは自分達を睨み付ける2つのゴブリンの首だった。

剣を構えたゴブリン達は、己の近くで剣を構える仲間の姿を確認した。
すると、剣を構えてはいるが首の無い2体のゴブリンが、倒れる事もなくその場に立ち尽くしていた。

剣を構えたゴブリン達は、目の前にいる人族が剣で切りかかる姿を見てはいなかった。
なのに仲間の首は既に無かった。

目の前に立ちふさがる人族は、いったいどうやって仲間の首を切ったのだ。
何かとてつもない不安を覚えたゴブリン達の剣は、小刻みに震えていた。

それは、恐怖に襲われたゴブリン達の体が小刻みに震えている証拠でもあった。
少しの静寂が訪れた後、またゴブリン達に悲劇がおこった。

またしても仲間の首が地面を転がっていたのだ。それも先ほどと同じく2つ。
そしてゴブリン達が周囲を見回すと、首のないゴブリンが剣を構えて立ち尽くしていた。
しかも、首の無いゴブリンは倒れる事もなく、剣を握りしめたままの姿で立っていた。

「さて、私がこのままあなた達の首を切り落としてもよいのですが、それでは剣の試し切りに来た
ディオネとレアの立場がありません。」

「残ったあなた達には、ディオネとレアの剣の練習台になってもらいます。」

縄で縛った冒険者を運んでいた8体のゴブリンのうち、4体のゴブリンの首がクリスによって切り取られていた。
残った4体のゴブリン達は、目の前に立ちはだかる人族から放たれる異様な存在感に圧倒され、静々と後退を始めた。

「クリス先生。遅くなりました。後は私達にお任せください。」

防御壁を築いていたゴブリン達を始末したディオネとレアは、クリスの元へと走り寄ると、残った
ゴブリン達の後始末を買って出た。

「では、後はお任せしましたよ。」

クリスは、そう言い残すとゴブリン達を残したままその場を後にした。

「姉さん、僕はこの"砂塵の剣"を試してみる。」

「私は、"浸水の剣"を使ってみる。」

ディオネとレアは、剣を鞘に戻すと別の鞘から剣を抜き、新たな剣を構えなおした。

この光景を見てゴブリン達は、安堵していた。
得体の知れない存在感を放っていた人族は姿を消し、代わりに出てきた人族は、身長も大して変わらない子供だったからだ。

ゴブリンの顔はにやけ口からは、笑い声が漏れていた。
ゴブリン達は、目の前の人族の子供に既に勝った気でいた。

そしてゴブリン達は、これが短い人生で見た最後の光景になった。
ディオネは、目にも止まらぬ速さで移動を開始すると"浸水の剣"で2体のゴブリンの腕を切りつけた。
レアも、1体のゴブリンの腕と、1体のゴブリンの顔を"砂塵の剣"で切りつけた。

ディオネが"浸水の剣"で切り付けた2体のゴブリンは、腕の傷口の皮膚が徐々に水へと変わり、やがて体の全てが水へと変わる頃に、地面へ水音をたてながら落ちていった。

レアが、"砂塵の剣"で腕を切り付けたゴブリンは、腕の傷口から砂があふれ出すと、まだ砂に変わっていなかった腕が地面へと落ちていき、やがて体は、徐々に砂へと変わり地面に砂山を作っていた。

もう1体の"砂塵の剣"で顔を切り付けられたゴブリンは、顔から徐々に砂へと変わり、顔が半分ほど砂に変わったところで頭が地面へと落ちて行った。
それと同時に地面へ体が倒れると同時に砂の山へと変わっていった。

「姉さん。この剣、すごいね。叔父さんが女神様が創造したって言ってたけど、ここまで凄いとは
思ってなかったよ。」

「そっ、そうよね。剣で斬られたら水になるって言われたけど、想像以上だったわ。」

ディオネとレアは、想像を超える剣の能力に半ば呆れていた。



「おい、大丈夫か。」

「頭のケガは大した事なさそうだな。」

榊は、やっとの思いで皆に追いついたが、既に闘いは終わっていた。
ディオネが指示した通り、倒れていた冒険者に回復の魔術をかけ、意識の回復に専念していた。
だが頭を投石で強打した冒険者の意識は混濁したまま、なかなか元に戻らなかった。

「まあ、意識はあるから大丈夫だ。」

「そっちで縛られている冒険者はどうだ。」

榊は、さっきまで縛られてゴブリンに運ばれていた冒険者を介抱しているディオネとレアに声をかけた。

「さっき、ゴブリン達が乱暴に地面に投げたから、頭を打ったみたい。意識が全然ないや。」

「しかし、この冒険者達、本当に弱いわね。いったいここに何しに来たのかしら。」

ディオネは、1体のゴブリンも倒す事もなく倒され縛られたふたりの冒険者を蔑んでいた。

「とりあえず、ふたりを草原の入り口まで運ぼう。このままだと、またゴブリンが来るかもしれんからな。」

意識を失ったふたりの冒険者をかついで一行は、今来た草原の入り口へと向かった。
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