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05.いつつめ

09.双子のスキル(その4)

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「ディオネ姉さん。」

レアは、地面に倒れたディオネのところへと駆け寄った。しかし、レアは、倒れているディオネをどうすればよいのか分からずただオドオドするだけだった。

「大丈夫じゃ。おそらく魔力の枯渇じゃ。あんなスキルをいきなり使うからじゃ。」

「しかし、女神様も大概だな。あんなスキルをいきなり与えるとはな。使いこなせればわしの"龍神の業火"よりも使いやすそうじゃ。」

「まあ、当面は魔力を錬る練習じゃな。これでは、スキルを使うたびに倒れてしまうのじゃ。」

ベティは、倒れたディオネをどうする事もできずに、ただオドオドするだけのレアに、聞いているかも分からない話を延々を続けた。
とその時、地面が微かに擦れ始め、何かが大きな足音の様な地鳴りの様な音が響き始めた。

ズン、ズン、ズン。

木の枝が折れる音も聴こえる。

「ほう、何か大物の魔獣が来たようじゃ。」

「レア、倒れているディオネを守れ。ここは、わしがやる。」

ベティがそう言うと。

「まって姉さん、この魔獣はぼくがやる。ぼくは、いつまでもディオネ姉さんの後ろにばかりいたくない。ぼくだって女神様からスキルを貰ったんだ。」

普段は、物静かなレアだが、今日に限っては姉のディオネの戦いぶりに感化されたのか、いつもと
は違い積極的だった。
地面から伝わる振動と木々が擦れ枝の折れる音がさらに強くなった時だった。

木々の間から巨大な足と腰が見えた。そして木々のはるか上からは、顔にひとつの目を持つ巨大な
サイクロプスがベティ、ディオネ、レアを見下ろしていた。

「ほう、サイクロプスか、こんな巨大な魔獣がまだ神殿近くの山にいたとは驚きじゃ。」

「今度、この辺りの山々を詳しく調べてみよう。もっと面白い魔獣がいるかもしれんからの。」

ベティは、これからレアが戦いを始めるというのに、まるで他人事のような話を始めた。

「レア、最後まで闘い抜くのじゃ。骨は拾ってやるぞ。かかか。」

ディオネの時と同じく、レアの闘いにも手を出すつもりはなかった。
レアは、右手を頭の上に掲げると女神ラティア様から授かったスキル"炎蛇"を唱えた。

まだ、一度も唱えた事のないスキルだ。
それをの場面で使うというもの大概だが、レアには、スキルが使いこなせるという根拠のない思いがあった。

レアが頭上に掲げた右手の手の平の上には小さな炎の珠が現れた。
その小さな炎の珠の中から炎を纏った小さな蛇が現れた。とても小さな蛇だった。

炎を纏った地位さな蛇は、炎の珠から抜け出ると、地面へぽとりと落ちた。
この炎を纏った小さな蛇が女神様から与えられたスキルとは思えなかった。

レアも、頭の上に掲げた右手と、その手の中の炎の珠をどうしたものかと悩んでしまった。
頭上の手の平の炎の珠からさらにふたつの炎を纏った小さな蛇が現れた。
炎を纏った小さな蛇は、地面へと落ちると地面からレアの顔をじっと見つめていた。

レアは、なぜ炎を纏った蛇がレアの顔を覗き込むのか理解できなかったが、ふと姉の行動を思い出してはっとした。

「そうだった。命令だね。炎蛇、目の前にいるサイクロプスをやっつけて。」

すると地面でレアを顔をじっと眺めていた3つの炎を纏った小さな蛇は、コクリと頷くと地面をするすると蛇行しながらサイクロプスの足元へと向かった。

サイクロプスは、木々の間を抜けると、地面に倒れているディオネとディオネを抱きかかえるレアのへと体を向け、両手を前に出して今にもディオネとレアを捕まえようとしていた。

すると、炎を纏った小さな蛇達は、サイクロプスの足元からスルスルと足を伝い、体を上り顔のところまで登ってしまった。

サイクロプスも顔になにかが這いずっていると分かると、ディオネとレアを捕まえようと伸ばした両手を戻し、自身の顔にまとわりついた小さな何かを一生懸命に取ろうと自身の手の平で顔を叩き始めた。
その姿は滑稽だった。巨大なサイクロプスが小さな蛇に翻弄されて自身の顔を何度も叩くのだから。

やがて1体の小さな蛇は、サイクロプスの耳の中へと入っていった。

1体の小さな蛇は、サクロプスの鼻の中へと入っていった。

1体の小さな蛇は、サクロプスの口の中へと入っていった。

サイクロプスは、顔の上を這いずっていた小さな何かがどこに行ったのか分からず、体のあちこちを探しまわった。
そんな時、サイクロプスの体に異変が起こった。

耳、鼻、口から煙が出ているのだ。

サイクロプスは、急に暴れ出し腹や頭を抱えてのたうち回りだした。
レアの目から見てもサイクロプスが激痛に耐え切れずに暴れていると分かるくらいだった。

やがて、サイクロプスの耳、鼻、口から炎が吹きあがるとサイクロプスは、地面に膝を付いてやがて倒れていった。

サイクロプスの体は炎につつまれると、やがて白い灰の塊が残された。
その白い灰の塊の中から、3体の小さな炎を纏った蛇達が顔をだした。

3体の蛇達は、蛇行しながらレアの元へと向かうと、レアの足元から体を伝い、頭上に掲げた右手の手のひらの上にある炎の珠の中へと戻っていった。

「ほう、あの小さな蛇は、魔獣の体内に入って炎で焼き尽くしたのか。これは凄いのじゃ。どんなに強い魔獣でも体の中から攻撃されたら対処のしようがないのじゃ。」

「これもまた面白いスキルじゃ。将来が楽しみじゃ。」

「レア、どうじゃ。己のスキルは?」

ベティがレアのスキルの寸評を述べ終わり、スキルを発したレアに感想を聞こうとした。
しかし、レアもまたディオネと同じ魔力を枯渇させてしまい、ディオネの上に倒れ込んでいた。

「なんじゃ、ふたりとも魔力を使いきったのか。」

「これでは、実戦では使えんな。当分は魔力の鍛錬と剣の練習あるのみじゃ。」

「仕方ない、これも姉の務めじゃ。」

ベティは、人化を解くと火龍の姿に戻った。
べてぃは、両手で地面に倒れ込んで意識を失ったディオネとレアを抱えると、大きな羽を羽ばたいて空へと一気に飛び出した。

ベティは、火龍の姿で空を飛びながら、両手の中で意識を失っているディオネとレアを見ながらこう思っていた。

「まあ、最初にしては上出来じゃ。スキルは授かった時より使いこなすまでが大変なのじゃ。」

「全ては、これからじゃ。」

「お前達は、これから強い神と闘うのじゃ。それまでにもっと強くなるのじゃ。」

「しかし、わしでも勝てぬ神と戦えと、そんな事をいうわしもいささか酷じゃな。」

ベティは、ふたりをかかえて火龍神殿に向かって大空を飛んでいた。遠くには火龍神殿とそこに参拝に来る多くの信徒と観光客の長い列が見えていた。
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