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01.ひとつめ

14.街の埃(その2)

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礼拝堂の祭壇の前には、体を縛られたライリーさんと、10人の盗賊団が並んでいた。
開け放った扉の横には、左右に5人ずつが並んで待ち構えていた。

「ほお、お前らだけで入ってきたか。扉の向こうで待っていたやつらはどうした。」

「僕が金貨を渡したらお酒を飲みに行くって出て行ったよ。」

「ははは。面白いことを言うガキだな。」

「おい、扉の向こうを見てこい。恐らく4人ともガキ共に殺されたはずだ。」

盗賊団の頭と思しき男が部下に扉の向こうで守りを固めていたはずの4人の男を見てくるようにと盗賊団の部下に指示を出した。
しばらくして扉の向こうを見に行った男が戻ってくると頭に言った。

「頭、2人殺されてました。もう2人の姿はありませんでしたが、なぜか扉の向こうは水浸しでした。」

さらに盗賊団のひとりが頭に耳打ちした。

「ほう、子供のくせにかなりの魔術が使えるようだな。仲間がひとり行方不明だったが、お前らがやったのか。そうか、なら死んだ俺の仲間と同じ死に方をさせてやろう。」

「おい、ガキに油をかけて火をつけろ。」

双子の姉弟は、お互いの顔を見ると盗賊団の頭に向かってこう言った。

「おじさん、油なんか使わなくても大丈夫だよ。だってこうすれば簡単に燃えるから。」

男の子は、左手を頭の上へとかざすとひとこえ唱えた。

「炎蛇。」

男の子の頭の上にかざした手の平の上に炎の塊が生まれると、そこから炎をまとった大きな蛇が現れた。
炎の蛇の全長は、8mを越えるものだった。その炎の蛇が頭をもたげると、教会の天井にも届くほどの大きさだった。

「あの男の人は、僕の財布を盗んだ悪い人だから殺したんだ。それの何が悪いの。悪いことをすれば罰を受けるんだよ。悪いことをする人がのうのうと生きていける世の中はダメなんだよ。」

「この炎蛇はね。おじさんの様な悪い人を食べて大きくなるんだ。おじさんんの様な悪党の血と肉が大好きなんだ。」

炎の蛇は、双子の姉弟を守るようにとぐろを巻き、盗賊団の男達を次々と睨みつけていた。
盗賊団の男達の中には、炎蛇から見下ろされて睨まれただけで漏らすものも少なくなかった。
盗賊団の頭は、炎蛇に睨まれると顔から血の気が引き真っ青になった。しかし、盗賊団で頭をはるだけの気概を持ちあわせているだけのことはった。

そう盗賊団の頭は、最後に要らない見栄を切ったのだが、心も体も恐怖に支配され足はブルブルと震えていた。
そのためか、声がおもいっきりうあずっていた。

「…おっ、俺はこっ…こんな…もの怖くないぞ。こ…怖くない。怖くないんだ。」

「ちょっと、盗賊団ならこんな蛇くらい怖くないでしょう。こんな可愛い蛇のどこが怖いの。」

そういうとディオネは炎蛇の顔を撫で始めた。

「ほら、こんなに可愛い。でも不思議でしょう。炎を噴き出す蛇を撫でても私達は燃えたりしないの。でもね、盗賊団の皆さんがこの炎蛇に触れれば、それだけで体は火に包まれるわ。」

男の子は、教会の祭壇の前で盗賊団によって縛られている神官見習いのライリーさんに向かって語りかけた。

「ライリーさん、これから惨劇が始まります。人が死ぬところは見ていて気持ちのよいものではないです。だから僕達が目を開けていいというまで目を閉じていてください。」

少し間があいた後、祭壇の前で縛られて椅子に座らされていた神官見習いのライリーさんが返事をした。

「…はい、はい。でも、お願いです。彼らにはなるべく苦痛を与えずに最後を迎えさせてあげてください。」

盗賊団に縛られて怖い思いをした神官見習いのライリーさんが盗賊団のことを心配していたのだ。
以外な答えを聞いた双子の姉弟は少し動揺した。

「わかりました。ライリーさんのお願いです。聞き届けました。」

祭壇の前で縛られている神官見習いのライリーさんが静かに瞼を閉じた。

「じゃあ、始めましょうか。炎の宴を。」

「炎の女神!」

「盗賊達に炎の抱擁をしてさしあげなさい!」

「炎蛇!盗賊達を好きなだけ食べちゃえ!」

盗賊団は、炎蛇が現れた時点で既に身動きができなくなっていた。
身動きどころではない。声すら出せなくなっていた。
ただ、ただ教会の天井にも届きそうな巨大な炎の蛇を見上げて全身をブルブルと振わせていた。

炎の女神が盗賊団の男達に次々と炎の抱擁と接吻を始めた。
男達は、上気した顔で全身から真っ赤な炎を噴き出すと白い灰の塊となって教会の床へと朽ち果てていった。
炎の女神の抱擁と接吻で昇天した盗賊団の男達は幸せだった。
この世の物とは思えない絶世の美女が抱擁と接吻で昇天させてくれたのだ。

しかし、炎蛇と対峙した盗賊団の男達は悲惨の極みだった。
炎蛇が次々と盗賊団の男を頭から飲み込んで行くのだ。
逃げ出したくても体が全く動かない。悲鳴を上げたくても声すら出ない。

隣りにた男が炎蛇に頭から飲み込まれていった。それを身動きの取れない体で目だけを動かしてまじまじと見てしまった。
次は俺があの蛇に食われる番だ。
盗賊団の男は、大声で慈悲を乞いたいと何度も願った。
しかし、願いはかなわなかった。
目の前に巨大な炎の蛇が頭をもたげてやってきた。

「助けてくれ、助けてくれ、頼む、頼むから助けてくれ。」

盗賊団の男は、何度も心の中でそう叫んだ。でもその叫びは誰の耳にも届かなかった。
男は、心の中で叫びながら静かに炎の蛇の口の中へと飲み込まれていった。

盗賊団の頭は、震えるだけの動くことのできない体で声にならない悲鳴を上げながら目の前で仲間が次々と死んでいく様をただ見ていた。



男の子は、炎蛇と炎の女神によって次々と蹂躙されていく盗賊団の様子など全く興味なかった。
教会の扉の横で怯え震え漏らして涙を流していた盗賊団の男達の前へと歩むと"砂塵の剣"を構えた。

「ねえ、怯えていても震えていても泣いていても漏らしていても僕は、おじさん達を切るよ。その手に持っている剣は、飾りじゃないんでしょ。僕を殺すための剣でしょ。なら構えなよ。最後の瞬間まで悪あがきしなよ。じゃないと食べられるために殺される鶏と同じだよ。」

子供が大人に向かっていう言葉ではなかった。それが盗賊団の悪党に対してであっても。
盗賊団の男達は、震える体で震える手で剣を握りしめ構えた。
しかし剣先は、左右に振れ小刻みに揺れていた。
男の子は、盗賊団の男達が握る府抜けた剣を目の前にして幻滅していた。

「その府抜けた剣でぼくを殺せるの。ぼくは全力でおじさん達を殺すよ。」

男の子は、盗賊団の男達に最後の反撃のチャンスを与えたつもりだったが、恐怖心に支配された心と体は戻っては来なかった。

「ふー。いくよ!」

盗賊団の男達は、男の子の気合の入った言葉に体が硬直した。
しかし、それまでだった。

男の子は、舞う様に盗賊団の男達が構えた剣に"砂塵の剣"を振り下ろし、次の一撃で盗賊団の男達の胸に次々と剣を切り付けた。

"砂塵の剣"で切り付けられた傷口はみるみる砂へと変わり、教会の床へと流れ落ちていった。
自分の体がみるみる砂に変わり、床に流れ落ちていく様を見た盗賊団の男達は、自分を切り付けた男の子をまじまじと見つめ最後の涙を流した直後、体の全てが砂へと変わり床に小さな砂山を作っていった。



ディオネは、盗賊団の男の腹に"浸水の剣"を突きさしていた。
男の体は、剣が刺さった腹がら水へと変わりそれは手から足から頭へと浸水していき、体全体が水へと変わった瞬間に床へと一斉にこぼれ落ちて水たまりを作った。

「ひっ、みっ、水に変わる魔剣だ。」

盗賊団の男達は、震えが止まらない体の腰が引けてしまっていた。もう剣をまともに構えている男など皆無だった。

「私の"浸水の剣"は魔剣じゃないわ。神器よ。叔父さんが貸してくれた大切な剣よ。そしてこの剣を創造したのは女神様よ。死んで女神様の前でこの剣を創造した本人に文句のひとつでも言ってみなさい。」

ディオネが振るった"浸水の剣"は、盗賊団の男達が構えた剣もろとも水へ変へると教会の床に数多くの水溜まりを作っていった。
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