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01.ひとつめ
12.村への出張治療(その2)
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村の城壁の近くに立つ見張り用の櫓の上に登った村人が叫んだ。
「森の中から小さな子供がふたり出て来たぞ、このあたりじゃ見かけない子供だ。」
ふたりの子供は、畑の間をてくてくと歩いて来ると、木でできた城壁をひょいっと飛んで村の中へと軽々と入ってしまった。
村の城壁の高さは優に5mはあるが、10mを越える木の上にある枝に飛び乗る事ができるふたりには、何の障壁にもならなかった。
村人達は、ただ茫然と村の中を歩くふたりの子供を遠巻きに見ていた。
子供達は、村の広場に出るとアイテムバックから狩ったばかりのオークを取り出すと解体を始めた。
村人達は、魔獣が目の前で解体されていくところを初めて見ていた。
お爺さんが村の広場にやってくると、オークを解体中のふたりに話しかけた。
「子供達よ、そのオークはさっき森に出たというオークなのか。」
「そうだよ。ねえお爺さん。このオークの肉をこれから焼くからさ、村の人達といっしょに食べようよ。」
「いいのか。オークの肉は美味いと聞くが、それなりに高い肉だと聞いたぞ。」
「いいよ、美味しいものはみんなで食べようよ。」
その夜は、村の広場には、テーブと椅子が並べられ、オークの肉を使った料理が振る舞われた。
村人達が各家庭で作った料理も持ち寄り、お祭りという雰囲気を醸し出していた。
双子の姉弟は、教会に泊まった最初の日に出したオークの肉を使った串焼きを焼いて村人たちに振る舞った。
「オークの肉って初めて食べたが美味いな。」
「ああ。こんな美味いものだって知らなかった。」
「でも、これを街で買うといい値段がするらしいぞ。」
「そうだよな、こんなに美味いんじゃ高いんだろうな。」
双子の姉弟が焼くオークの串焼きは、村人達に大人気となり、姉弟が焼いているコンロの前には、大勢の人が並んでいた。
見かねた村人たちが、オークの肉を焼く役を交代してくれたので、双子の姉弟はオークの肉を焼く役からやっと解放された。
「おおっ、子供達よ。こっちに座りなさい。しかし、村を襲ったかもしれないオークを退治してくれたにも関わらず、その肉まで振る舞ってくれるとは、なんと礼を言ってよいやら。」
お爺さんは、子供達に礼を言いたかったのだが、その言葉が見つからなかった。
「いいですよ。神官のアイリスさんがお爺さんにお世話になっていると言っていたので、そのお礼と思ってください。」
「なんと殊勝な子供達じゃ。」
「しかしこのオークの肉は、なんというのか食べると力がみなぎってくる感じがするが気のせいかの。」
「オークの睾丸は、精力剤になるとかで貴族に高く売れるそうです。だからお肉にも多少はそういった効能があるかもしれません。」
双子の姉弟は、オークの串焼きを食べながら、お爺さんにオークの肉の効能について話していた。
「やはりそうか。しかし、体がこれ程ほてってしまっては今夜は、誰ぞの娘っ子の寝床で寝るしかないかの。」
「お爺さん、子供の前で話すこ話じゃないですよ。」
「そうですよ。でも、このお肉を食べると体があったまります。」
「今夜食べたお肉のせいで村に子宝が出来たら嬉しいですね。」
「今夜は、寝ない人が増えそうだな。」
お爺さんは、村の人々から注意を受けつつも、村人たちもオークの肉を食べた影響なのか、夫婦で見つめ合い手を握っている人達が多く見かけられた。
それは、若い男達と女達にも言えた。
村の広場の周りに立っている木の陰で、何人もの若い男女が愛を語らっていた。
焼いたオークの肉を食べながら神官のアイリスは、泣いていた。自分が矮小に感じられたからだ。
「アイリスさん泣いているんですか。どこか体の具合でも悪いんですか。」
神官見習いのハンナが、気を使い声をかけてくれた。
「ハンナさん、ありがとう。でも違うの。」
村人達は、こんなにも喜んでくれている。
数日前に教会で行った炊き出しには、500人以上の人が来てくれた。
次の日の礼拝には、200人以上の人が参加してくれた。
それも全て、ふたりの子供達が手を貸してくれた結果なのだ。
そんなふたりをただ怖いと恐怖心ばかりを抱いていた。そんな自分が小さく感じられた。
ふたりは、私達のために皆のために働いてくれていたのだ。
「あのふたりには、感謝をしてもしきれない。そう思うと涙が出てしまったの。」
「そうですね。あの子達が教会に来てまだ数日しか立っていませんが、たった数日でこれ程の変化を起こす事ができるんですね。私もあの子達が教会に居るうちに料理をもっと美味くできるように勉強します。」
何かのきっかけで、物事の流れが変わる事があると、神官見習いの時に自分にいろいろな事を教えてくれた神官の言葉を思い出していた。
多分、あの子達がそのきっかけなんだと神官のアイリスは確信していた。
止まらない涙を拭きながら、夜空に光る星が妙に綺麗に見えた夜だった。
この日、双子の姉弟がオークの肉を振る舞った後、村には何組もの若い夫婦が誕生した。
さらに数ヶ月後、何組もの夫婦の間に新たな子供が誕生し、今まで子宝に恵まれなかった夫婦にも子供が誕生した。
のちに教会には、馬車に山積みとなった野菜が運ばれて来た。お礼の手紙と共に。
村人たちは、口々に言っていたそうだ。"子宝を運んだ教会の子供達"と。
神官達は思った。あの子達は、こうなることを最初から分かっていたのではないか。
それは龍の力がそうさせているのだと。
「森の中から小さな子供がふたり出て来たぞ、このあたりじゃ見かけない子供だ。」
ふたりの子供は、畑の間をてくてくと歩いて来ると、木でできた城壁をひょいっと飛んで村の中へと軽々と入ってしまった。
村の城壁の高さは優に5mはあるが、10mを越える木の上にある枝に飛び乗る事ができるふたりには、何の障壁にもならなかった。
村人達は、ただ茫然と村の中を歩くふたりの子供を遠巻きに見ていた。
子供達は、村の広場に出るとアイテムバックから狩ったばかりのオークを取り出すと解体を始めた。
村人達は、魔獣が目の前で解体されていくところを初めて見ていた。
お爺さんが村の広場にやってくると、オークを解体中のふたりに話しかけた。
「子供達よ、そのオークはさっき森に出たというオークなのか。」
「そうだよ。ねえお爺さん。このオークの肉をこれから焼くからさ、村の人達といっしょに食べようよ。」
「いいのか。オークの肉は美味いと聞くが、それなりに高い肉だと聞いたぞ。」
「いいよ、美味しいものはみんなで食べようよ。」
その夜は、村の広場には、テーブと椅子が並べられ、オークの肉を使った料理が振る舞われた。
村人達が各家庭で作った料理も持ち寄り、お祭りという雰囲気を醸し出していた。
双子の姉弟は、教会に泊まった最初の日に出したオークの肉を使った串焼きを焼いて村人たちに振る舞った。
「オークの肉って初めて食べたが美味いな。」
「ああ。こんな美味いものだって知らなかった。」
「でも、これを街で買うといい値段がするらしいぞ。」
「そうだよな、こんなに美味いんじゃ高いんだろうな。」
双子の姉弟が焼くオークの串焼きは、村人達に大人気となり、姉弟が焼いているコンロの前には、大勢の人が並んでいた。
見かねた村人たちが、オークの肉を焼く役を交代してくれたので、双子の姉弟はオークの肉を焼く役からやっと解放された。
「おおっ、子供達よ。こっちに座りなさい。しかし、村を襲ったかもしれないオークを退治してくれたにも関わらず、その肉まで振る舞ってくれるとは、なんと礼を言ってよいやら。」
お爺さんは、子供達に礼を言いたかったのだが、その言葉が見つからなかった。
「いいですよ。神官のアイリスさんがお爺さんにお世話になっていると言っていたので、そのお礼と思ってください。」
「なんと殊勝な子供達じゃ。」
「しかしこのオークの肉は、なんというのか食べると力がみなぎってくる感じがするが気のせいかの。」
「オークの睾丸は、精力剤になるとかで貴族に高く売れるそうです。だからお肉にも多少はそういった効能があるかもしれません。」
双子の姉弟は、オークの串焼きを食べながら、お爺さんにオークの肉の効能について話していた。
「やはりそうか。しかし、体がこれ程ほてってしまっては今夜は、誰ぞの娘っ子の寝床で寝るしかないかの。」
「お爺さん、子供の前で話すこ話じゃないですよ。」
「そうですよ。でも、このお肉を食べると体があったまります。」
「今夜食べたお肉のせいで村に子宝が出来たら嬉しいですね。」
「今夜は、寝ない人が増えそうだな。」
お爺さんは、村の人々から注意を受けつつも、村人たちもオークの肉を食べた影響なのか、夫婦で見つめ合い手を握っている人達が多く見かけられた。
それは、若い男達と女達にも言えた。
村の広場の周りに立っている木の陰で、何人もの若い男女が愛を語らっていた。
焼いたオークの肉を食べながら神官のアイリスは、泣いていた。自分が矮小に感じられたからだ。
「アイリスさん泣いているんですか。どこか体の具合でも悪いんですか。」
神官見習いのハンナが、気を使い声をかけてくれた。
「ハンナさん、ありがとう。でも違うの。」
村人達は、こんなにも喜んでくれている。
数日前に教会で行った炊き出しには、500人以上の人が来てくれた。
次の日の礼拝には、200人以上の人が参加してくれた。
それも全て、ふたりの子供達が手を貸してくれた結果なのだ。
そんなふたりをただ怖いと恐怖心ばかりを抱いていた。そんな自分が小さく感じられた。
ふたりは、私達のために皆のために働いてくれていたのだ。
「あのふたりには、感謝をしてもしきれない。そう思うと涙が出てしまったの。」
「そうですね。あの子達が教会に来てまだ数日しか立っていませんが、たった数日でこれ程の変化を起こす事ができるんですね。私もあの子達が教会に居るうちに料理をもっと美味くできるように勉強します。」
何かのきっかけで、物事の流れが変わる事があると、神官見習いの時に自分にいろいろな事を教えてくれた神官の言葉を思い出していた。
多分、あの子達がそのきっかけなんだと神官のアイリスは確信していた。
止まらない涙を拭きながら、夜空に光る星が妙に綺麗に見えた夜だった。
この日、双子の姉弟がオークの肉を振る舞った後、村には何組もの若い夫婦が誕生した。
さらに数ヶ月後、何組もの夫婦の間に新たな子供が誕生し、今まで子宝に恵まれなかった夫婦にも子供が誕生した。
のちに教会には、馬車に山積みとなった野菜が運ばれて来た。お礼の手紙と共に。
村人たちは、口々に言っていたそうだ。"子宝を運んだ教会の子供達"と。
神官達は思った。あの子達は、こうなることを最初から分かっていたのではないか。
それは龍の力がそうさせているのだと。
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