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18.火龍の神殿

44.水神様の戯れ。(その1)

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朝、皆の朝食を作るため俺は、台所に立って料理を作っていた。

「あっ、水神様。おはようございます。」

「おう、はようなのじゃ。」

んっ、…じゃ。それに水神様?龍神様の間違いじゃないのか、これはベティか。でも声が違うぞ。

俺が振り返るとそこには水神様とお付きの神官がふたり立っていた。

「ええっ、水神様おはようございます。でもこんな朝からどうしたんですか。」

「いやな、この前"龍殺しの一族"が攻めて来た時にお主らがチームで助けに来てくれたじゃろ。わしの国の兵士では全く相手にならなくて酷いありさまじゃったと聞かされてな、命の恩人にお礼を言いに来たのじゃ。」

「それなら言ってくれれば、こちらから出向いたんですよ。」

「それでは礼にならんじゃろう。わしの命も、子の命もお主が助けたのじゃ。子といってもわしは龍じゃから産んだのは卵だ。本当の意味で生まれるのはもう少し先じゃ。」

「水神様、朝ご飯はもう食べましたか、まだなら食べませんか。神殿のご飯に比べたら美味しくありませんが。」

「そうじゃな、旦那の手料理を食べるのもたまには良いかの。」

えっ、今なんか爆弾発言をされましたよ。俺は龍神様と結婚した覚えはありませんよ。
でも、子の父親は俺です。そうなると俺は水神様の旦那になるんですか。

水神様の旦那発言に場の空気が緊張した。
うちの神器組4人とサティがピリピリし始めた。

ただひとりベティを除いて。ベティは、朝ごはんの準備が出来るのを椅子に座って楽しそうに待っていた。
俺はあえて旦那発言をスルーした。

「すっ、水神様、そこの空いてる席に座ってください。」

神官のふたりには空いている席に座ってもらった。
俺がそう言うと、なぜか俺の隣りの席に座った。

そこは一番面倒くさいクリスの席だ。やってくれたぜ水神様。
クリスが氷の微笑で水神様の後ろに立っていた。微笑というより般若の顔だ。

「クリスとやら、空いてる席に座るのじゃ、でないと食事が始まらぬのじゃ。」

クリスは、般若のような顔をしていたが、俺が両手を合わせて謝る姿勢をしたところ、場の
空気を読んでくれたようで、仕方なく空いてる席へ座ってくれた。

みんなが席に座ったところで朝食が始まった。
俺は焼いたパンを千切って口に運ぼうとしたところ、横からパンが俺の顔の前に出てきた。
俺の顔の前にパンを出した手を見るとそれは水神様だった。

「どうしたのじゃ、旦那にパンを食べさせようとしておるだけじゃ。さあ、榊殿の嫁であるわしが食べさせるのじゃ、ゆっくりと咬んで食べるのじゃぞ。」

朝食の場にガラスの割れる音が本当に響いた。
最初はクリスだった。持っていたコップが粉々に割れていた。続いてアレス、レディ、ガーネ、サティの順に持っていたコップが割れていた。

俺は、水神様が手に持っていたパンを口に入れながら、体中から汗が噴き出していた。
どうしよう、水神様は本気だ。ここにいる女性全員と喧嘩をしに来たんだ。
クリス、アレス、レディ、ガーネ、サティも喧嘩を買う気満々だ。
やばい、やばいぞ。おれのハーレムが崩壊の危機にある。がんばれ、無い知恵を振り絞れ。

「そういえば水神様。セイランド王国の新しい女王様と大臣達が水神様に謁見したいと懇願しておりました。水神様への謁見が叶えば、セール王国の国王様への謁見も叶うとか。ぜひお願いできませんか。」

水神様は、俺にふたつ目のパンを千切って俺に食べさせようとしていたが、俺が面倒な話を振ったので、パンを持つ手を降ろして話始めた。

「無粋な連中じゃのう。しかしお主が住んでいる国の国王だしの。以前聞いた話では、お主がこの国の王の首を挿げ替えたようなものなんじゃろう。なら無碍にもできんな。その話はわしが国王に進言してみるのじゃ。旦那のお願いを聞くのも良き妻なら当然じゃ。」

ああっ、さっきよりかは良くなったが、まだ空気は最悪だ。
とっ、そこへレストランのコックが話があると食事中の食堂へと入ってきた。
えらい。おまえ偉いぞ。後でボーナス出す。

「ちょっとすみません。従業員が話があるとかで、ちょっと席を外します。」

俺は、いそいで席を立つとコックと一緒にレストランへと向かった。

「おい、偉いぞ。あの場にお前が来なかったら今頃血みどろの闘いになっていたぞ。」

俺は、財布から金貨を取り出してコックの手に握らせた。

「榊さん、何の事か分からないのですが、それにこの金貨はなんですか。」

「いいんだ、取っておけ。俺からの臨時の"こずかい"とでも思ってもらえばいいさ。でも他の従業員には言うなよ。」

「なんだかよく分かりませんが他の従業員には黙っておきます。」



「水神様、今日の態度はあからさますぎます。ここは皆で住んでいる家です。水神様の家ではありません。以後、お言葉にはご注意ください。」

クリスが皆の言葉を代弁するように話始めた。

「そうか、妻が旦那様と話すのじゃ。そんなに目くじらを立てる必要もなかろう。」

皆が水神様の顔を睨み始めた。

「なんじゃ、水神様が妻なら第1婦人かの。ならわしは第2夫人じゃ。」

突然、ベティがあらぬ事を言い始めた。

「榊殿は、水神様の角を掴んだのは事実じゃ、それは皆も目の前で見ておるじゃろう。それは龍神にしてみれば求婚をしたという意味じゃ、わしの角も榊殿は掴んでおる。じゃからわしも榊殿に求婚されたと思っても不思議ではないのじゃ。」

「でも、皆は榊殿に結婚してくれと言われた事はないはずじゃ。違うか。」

ベティが至極当然な事を言い出した途端、皆の顔が急に青くなりだした。

「水神様よ、水神様にも言い分はあるのは分かる。じゃがな、この家の中でそれを言い出すのはちと大人げないのじゃ。800年も生きておる水神様だからこそ、皆の気持ちを汲んで欲しいのじゃ。これはわしからのお願いじゃ。」

なんと、ベティがベティらしからぬ言葉で皆を説得していた。

「そうじゃな、わしも大人げなかった。それにわしはベティに助けられたし、皆にも助けられたのじゃ。その恩を仇で返すとは、わしは間違っておったのじゃ。すまぬ。」

ベティは、さっきまでの話の事などお構いなしに朝食のパンをバクバクと食べていた。
皆も、割れたコップを片付けて朝食を再開した。
その後は、水神様の"わしが第1夫人"発言もなく静かに朝食は終わった。



今日は、これから魔族の魔王様が出現させた転移門を移転させた村に皆で行く事を伝えた。
その村に出店させた店の前で、魔王様の馬車の車列を見学に行くという話をしたところ、水神様も一緒に行くといいだした。

「つまり、お主らが居る事を魔王に見せつけるんじゃな。なら龍神がふたりいた方がもっとアピールになるぞ。魔王もよもや龍神がふたりもいるところへ戦争などしかけぬじゃろう。きっと腰を抜かすぞ。」



魔王様が転移門を通って村に到着するのは、昼ごろなのでもう少し時間があった。

居間のソファに座って水神様と雑談をしていたところ、この街の冒険者ギルドのギルド長が昔、水神様と同じ冒険者チームに居たという話をしたところ、水神様は"にやり"と笑って立ち上がった。

「よし、まだ時間はある。今からその冒険者ギルドへ行くのじゃ。」

話をするんじゃなかった。悪い予感しかしない、きっと後悔することになるんだよ。
俺は、仕方なくこの街の冒険者ギルドへ水神様を案内することになった。
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