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18.火龍の神殿

46.魔族国との懇親会。(その1)

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魔族国との友好条約が締結される日が近づいた。

魔族国の前魔王が空間魔法で出した転移門だが、王都から王都近くの村はずれに移された。
今は、そこに小さな村が作られている。
俺は、"コネ"を使ってそこにピッツァ屋を開いた。魔族国との貿易で将来は商売が見込めそうだからだ。

村はまだ建築途中で住民は殆どいない。なので店を開いても殆ど商売にはならない。
とはいえ、昼は建築現場で働く労働者が食いに来るし、夜は冷えたエールを飲みに来る労働者達で賑わっていた。
この建築中の村で店を開けているのは、魔族国の大使館と小さな教会兼治療院と俺の店だけだ。

この街で働く労働者が仕事の後にいっぱいやる飯屋も宿屋もないので、労働者が宿舎に戻る前に、うちの店でいっぱいやっていくという訳だ。

条約の締結をするために魔族国の新しい魔王様が転移門を通って王都へ行くらしいので、店の状況を確認しがてら、新しい魔王様の馬車の車列を見に来たのだ。まあ、半分観光気分だ。

店の前にテーブルと椅子を出して、みんなでお茶を飲みながら、魔王様の馬車の車列を待っていた。
店の前には、俺、クリス、ガーネ、アレス、レディの神器の4人組、エルフのサティ、火龍神殿
のベティ、ダークエルフのローザが来ていた。
ベティの頭と肩の上には、火龍の幼生のがレアとディオネ乗っていた。

飛び入りでレストランの食材運びをお願いしているポムくん、ポムさん(魔族)、悪魔さん(悪魔)
となぜか俺の家に遊びに来ていた水神様とお付きの神官2人が来ていた。

転移門の両脇には、森の要塞で知り合ったオーガ族から派遣されたオーガ4体が特注のフルアーマーを着て転移門の警護にあたっていた。
オーガは、見ているだけで強そうだが、フルアーマーを着ているので、見ただけではオーガには見えない。普通の人は、オーガを見れば怯えてしまうのでフルアーマーを着せて分からないようにしているのだ。

俺の店では、転移門の警護をしているオーガ族に蒸留酒を樽で卸しているので、それを受け取り
にオーガ族が店に寄っていく光景は、この建築中の村では当たり前になっていた。
オーガ族が兵士として働きだしてから面倒事を起こしたという話を聞いた事がない。彼らも良い感じて頑張っているようだ。



目の前の中央通りを魔王様の馬車の車列が通りかかった。目の前を護衛の騎馬隊が通り、その後を何台もの馬車が走り去っていく。
と、1台の馬車が目の前で止まった。馬車の中で何が起きているのか分からないが、馬車が大揺れに揺れていた。
お付きの人が何人も馬車の間を行き交っていた。

何かトラブルなのか。そんな風に気楽に思いながら皆でそれを見て楽しんでいた。
テーブルの上にはお茶や茶請けのケーキや和菓子を出していた。皆、思い思いに茶を楽しんでいた。

しばらくすると、数人の男達が血相を変えて走り寄ってきた。

「あの、榊様ですよね。王都で行われる条約締結の懇親会にぜひ出席して欲しいと女王様からの依頼です。魔族国の魔王様からの依頼でもあります。お願いです。出席してください。でないと私の首が飛びます。本当の意味で首が飛びそうなんです。」

あー、また面倒な事に巻き込もうというのか。でも、この従者さんの首が本当に飛んだら可哀想だよな。仕方ないいくとするか。
俺は、懇親会への出席を了承した。
城で行われる懇親会に着ていく服など持ってはいなかったが、全て用意してくれるらしい。



城に到着して懇親会に出席したが、なぜか俺以外にクリス、ベティ、水神様、それにローザが出席していた。
ローザは、前国王の護衛をやっていたので、こういった会には慣れているようなので急きょ来てもらった。
クリスは、俺の護衛筆頭という訳の分からない役なのでと言ってついていた。

ベティと水神様は、ある意味国を代表するような役回りを背負っているので思わず了承してしまった。

懇親会は、最初は和やかな雰囲気で始まった。そう最初だけは和やかだった。

この国の新女王がセール王国へ会談を申し入れるため、あちこちに手を回していた所へ俺が水神様を城へ連れて来たので、早速女王様が水神様の所へ挨拶にやってきた。
なかなか会えない水神様が自ら城へ赴くなどありえない事なので、大臣達も総出で水神様への挨拶合戦となっていた。

その後、女王様はベティ(龍神)の所にも挨拶へとやってきた。ベティは、女王様と会うのも2回目
なので気さくに話をしていた。というか、女王様と話をする時にお菓子を食べながら話をするなと何度も注意したんだが、全く聞き入れられなかった。困ったやつだ。

懇親会が始まって間もなくだった。魔族国の新しい魔王様がいろいろごね始めたのだ。

ごねた理由は、主に俺と俺の仲間のことらしい。
国王のオフェリア女王様から魔族国の魔王様を紹介されたのだが、魔王様の側近の女性が魔王様とヒソヒソと何かを話したと思ったら俺に話かけてきた。

「まず最初に聞きたいのだが、転移門の門番にオーガ族がいたがあれは魔術で使役しているのか。」

「いえ、とある森のオーガ族と仲良くなりまして、そのオーガ族からの依頼で兵士として雇っています。」

俺がそう話すと、魔王様の側近とコソコソ話を始め、また側近が話始めた。

「わが魔族国ですら魔術で魔獣達を使役しているのに、オーガ族と対等に話ができるとは、どういった魔術なのか。」

あー、なんか勘違いしているなこの魔族の人達。

「えーとですね、本当の意味でオーガ族とは、対等な関係なんです。物品の売り買いとかも行ってますし、普通に話せる物分かりのいいやつらですよ。」

俺がそう話すと、また魔王様と側近はコソコソと話始めた。

「魔王様は、信じられぬと申しておる。」

「どうやってオーガ族と仲良くなったかは"商売上の秘密"ですので言えません。」

俺は、面倒になったので"商売上の秘密"という便利な言葉を使ってそれ以上の詮索をしないで欲しいと暗に促した。

「わかった。では、馬車の車列で見たが神器が4人もいたが、あれは全てお前達の仲間か。」

やっぱりあれが気になるのか。

「そうです。以前、魔族国がセイランド王国を攻めた時に対抗手段として闘った仲間達です。」

「あの者達の闘いで魔族国の魔獣や魔族の方達がどうなったかはご存じかと思います。」

魔王様と側近はコソコソと話始めたが、魔王様の額から汗がにじみ出ているのが見てとれた。

「次に、魔族の者がひとりおったが、あれはどうしたのだ。まさか捕虜か。」

「ああ。彼女は闘いの最中に頭にケガをして記憶が戻らないそうなので、助けた人族の少年の家で一緒に生活をしているんです。本人も楽しんで生活していますし、決して捕虜などではありません。」

魔王様と側近はまたコソコソと話始めた。
もうこの話方は面倒だな。そう思った時だった。魔王様自らが話はじめた。

「そちらにいる龍神のおふたりはどうしてあの場にいたのだ。」

おっ、魔王様の声、すごく綺麗な声だ。美人だが水神様とは違う美人だな。

「水神様は、とある理由で懇意にしているためです。龍神様は、元々俺のチームのメンバーなんです。いろいろあって最近、火龍が昇華して龍神になったんです。」

「水龍と火龍の仲は悪いと聞いていたが、ああして席を並べている所を見るとそうでもないのだな。しかし龍神がふたりとは信じられん。」

魔王様は、先ほどよりさらに真剣な顔つきで"本当に聞きたかった本題"の話を始めた。
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