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18.火龍の神殿
06.龍を憎む王。
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ベティが主となった火龍神殿があるエルネス王国の南隣りにトロンヘイム王国という大国がある。
この国の王は、ことのほか龍が嫌いだった。いや、嫌いではない憎んでいた。
王が子供の頃にセール王国を守護する水神様に謁見する機会があった。
子供だった王は、水神様の前であっても横着武人な態度を取り続けた。
子供でありながら一国を治める王である自分が、水龍などという訳の分からない魔獣になぜ頭を下げなければならないのだと。
さらに人の上に龍という魔獣が君臨していることに我慢がならなかった。
その考えや行動が水神様への態度にそのまま表れていた。
水神様も最初は、子供のやることと笑って受け流していたが、やがて目に余る態度に我慢を忘れ、王を叱りつけた。水神様の怒りに怯えた王は、皆の前で漏らしてしまった。
皆に笑われた王は、いつかこの水龍に仕返しをすると心に誓った。
そして時は流れ、王は歳をとった。
しかし、いくら歳をとっても水龍への怒りは忘れなかった。その怒りはやがて憎しみへと変わっていた。
トロンヘイム王国には、古くから龍の討伐を生業とする一族が住んでいた。
その一族は、過去にエルネス王国にあった火龍の神殿に住まう龍に対して闘いを挑み、討伐目前のところで取り逃がした苦い過去を持っていた。
龍を討伐できなかった一族は、皆から誹りを受け、山間の人の目に触れない地に移り住み、いつか龍を討伐して先祖の汚名を晴らそうと日々闘いに備えていた。
そんな一族を知った王は、その一族を重用した。
理由は、簡単だ。セール王国の水神を討つためだ。
王は、この一族にセール王国の水龍を討てと命じた。
しかし、一族の答えは"否"だった。
その一族の先祖は、ある武具を用いて龍の討伐に向かった。
その武具は、龍との闘いで消耗し使えなくなっていた。
一族は、その武具を世界中を旅して探し回ったが、数十年の年月をかけても見つけることは敵わなかった。
一族は、その武具さえあればセール王国の水神だろうと討ってみせると王に誓った。
その数年後、王の前にある青年が現れた。
その青年は自らを勇者と名乗った。
勇者と名乗った青年は、腰に"勇者の剣"と"龍殺しの剣"を帯刀していた。
王は、その剣を欲した。
青年は王に言った。
「私は、勇者である。しかし実績がない。故に名声もない。私が名声を得るために龍の討伐に力を貸してほしい。そのためなら私の特殊なスキルを使って構わないと。」
勇者と名乗った青年が持っている特殊なスキルとは"神器複製"であった。
複製した神器は、勇者でなくても使うことができた。
王は、勇者と名乗った青年に貴族と同じ待遇を与え、勇者として名声を得るために力を尽くすことを約束した。
勇者と名乗った青年は、王の命により自身が持っていた"勇者の剣"と"龍殺しの剣"の複製を始めた。
それから数年の歳月が過ぎた頃、勇者と名乗った青年が自らのスキル"神器複製"で複製した神器"勇者の剣"と"龍殺しの剣"は3桁の数に迫っていた。
王は、複製した"龍殺しの剣"のいくつかをあの一族に渡し、龍討伐の準備をするよう命じた。
まもなくだ。王は、セール王国の水龍を討つ時がもうすぐそこまで来ていると確信していた。
そんな時だった。
エルネス王国に火龍が現れ、あの神殿の新しい主となったと言うのだ。
王は、驚愕した。
国境を接した隣国のエルネス王国に火龍がいては、おちおちセール王国の水神を討つこことなどできないと。
いや、逆だ。
話によると神殿の新しい主になった火龍はまだ子供だというではいか。
ならば、複製した神器で試しにその火龍を討ってみてはどうか。
もし、火龍を討つことができれば、セール王国の水龍など敵ではない。
王は、そう考えて勇者を呼び出した。
王の謁見の間に勇者が現れた。
勇者は王の前に出ると片膝を付き、王への服従を示した。
「勇者トロイよ、神器の複製は順調に進んでおるか。」
「はい、王様。神器"勇者の剣"と"龍殺しの剣"の複製は順調に進んでおります。」
「ときに、隣国のエルネス王国にある龍の神殿に新たな主が誕生したとの噂があるようじゃが。」
「その噂は私の耳にも入っております。」
「噂によると、神殿の主になった龍は、まだ子供だそうだ。」
「どうじゃ、お主が日々複製しておる"龍殺しの剣"でその火龍を討ってみては。」
「お主が龍を討てば、悪しき龍を討伐した勇者として名声が手に入るじゃろう。お主も龍を討伐したという自信が持てると思うがどうじゃ。」
王は、勇者に神殿の龍討伐を進めた。いや、遠回しに龍の討伐を命じた。
「勇者は龍を討伐する使命を負っています。セール王国の水龍を討つ前の腕慣らしには丁度よいかと考えていたところです。」
「お主が持っておった"勇者の剣"と"龍殺しの剣"は、城で大切に保管しておく。勇者殿は火龍を討伐して勇者トロイの名声を世に広めてくれ。さすれば、わしもお主を自慢できると言うものゃ。」
「はっ。必ずや龍を討伐して御覧に入れます。」
勇者は、王に龍討伐を約束して王の間から姿を消した。
「王様、あの頭の弱い勇者は、少しおだてるだけですぐに話に乗ってきますな。」
王の側近は、思わす本音を漏らした。
「あやつはちと頭が弱いでな。勇者を名乗る割に剣の腕もいまいちじゃ。勇者としては使えぬじゃろう。」
王は、勇者をさほど信用していなかった。使えるとも思っていなかった。王が勇者に信頼を寄せる拠り所はたたひとつだった。
「じゃが、あやつのスキル"神器複製"はよい。あれさえあれば、悲願の水龍を討てるのじゃ。あやつのただひとつの利点じゃ。」
「ときに、あの一族は、どうしておる。」
「"龍殺しの一族"ですか。間もなく行動に移る頃かと。複製した神器"龍殺しの剣"はあの一族にこそ相応しいです。」
王も王の側近も、龍の討伐に関して信頼しているのは"龍殺しの一族"のみであった。
「あの、頭の弱い勇者ひとりに任せておいては不安じゃからの。」
「はい、王の仰せの通りでございます。」
「まもなくじゃ、待っておれ。セール王国の水龍よ。800年の生もあと少しで終わりじゃ。」
「あの時、わしを恫喝したことを悔やみながら天に送ってやろう。」
この国の王は、ことのほか龍が嫌いだった。いや、嫌いではない憎んでいた。
王が子供の頃にセール王国を守護する水神様に謁見する機会があった。
子供だった王は、水神様の前であっても横着武人な態度を取り続けた。
子供でありながら一国を治める王である自分が、水龍などという訳の分からない魔獣になぜ頭を下げなければならないのだと。
さらに人の上に龍という魔獣が君臨していることに我慢がならなかった。
その考えや行動が水神様への態度にそのまま表れていた。
水神様も最初は、子供のやることと笑って受け流していたが、やがて目に余る態度に我慢を忘れ、王を叱りつけた。水神様の怒りに怯えた王は、皆の前で漏らしてしまった。
皆に笑われた王は、いつかこの水龍に仕返しをすると心に誓った。
そして時は流れ、王は歳をとった。
しかし、いくら歳をとっても水龍への怒りは忘れなかった。その怒りはやがて憎しみへと変わっていた。
トロンヘイム王国には、古くから龍の討伐を生業とする一族が住んでいた。
その一族は、過去にエルネス王国にあった火龍の神殿に住まう龍に対して闘いを挑み、討伐目前のところで取り逃がした苦い過去を持っていた。
龍を討伐できなかった一族は、皆から誹りを受け、山間の人の目に触れない地に移り住み、いつか龍を討伐して先祖の汚名を晴らそうと日々闘いに備えていた。
そんな一族を知った王は、その一族を重用した。
理由は、簡単だ。セール王国の水神を討つためだ。
王は、この一族にセール王国の水龍を討てと命じた。
しかし、一族の答えは"否"だった。
その一族の先祖は、ある武具を用いて龍の討伐に向かった。
その武具は、龍との闘いで消耗し使えなくなっていた。
一族は、その武具を世界中を旅して探し回ったが、数十年の年月をかけても見つけることは敵わなかった。
一族は、その武具さえあればセール王国の水神だろうと討ってみせると王に誓った。
その数年後、王の前にある青年が現れた。
その青年は自らを勇者と名乗った。
勇者と名乗った青年は、腰に"勇者の剣"と"龍殺しの剣"を帯刀していた。
王は、その剣を欲した。
青年は王に言った。
「私は、勇者である。しかし実績がない。故に名声もない。私が名声を得るために龍の討伐に力を貸してほしい。そのためなら私の特殊なスキルを使って構わないと。」
勇者と名乗った青年が持っている特殊なスキルとは"神器複製"であった。
複製した神器は、勇者でなくても使うことができた。
王は、勇者と名乗った青年に貴族と同じ待遇を与え、勇者として名声を得るために力を尽くすことを約束した。
勇者と名乗った青年は、王の命により自身が持っていた"勇者の剣"と"龍殺しの剣"の複製を始めた。
それから数年の歳月が過ぎた頃、勇者と名乗った青年が自らのスキル"神器複製"で複製した神器"勇者の剣"と"龍殺しの剣"は3桁の数に迫っていた。
王は、複製した"龍殺しの剣"のいくつかをあの一族に渡し、龍討伐の準備をするよう命じた。
まもなくだ。王は、セール王国の水龍を討つ時がもうすぐそこまで来ていると確信していた。
そんな時だった。
エルネス王国に火龍が現れ、あの神殿の新しい主となったと言うのだ。
王は、驚愕した。
国境を接した隣国のエルネス王国に火龍がいては、おちおちセール王国の水神を討つこことなどできないと。
いや、逆だ。
話によると神殿の新しい主になった火龍はまだ子供だというではいか。
ならば、複製した神器で試しにその火龍を討ってみてはどうか。
もし、火龍を討つことができれば、セール王国の水龍など敵ではない。
王は、そう考えて勇者を呼び出した。
王の謁見の間に勇者が現れた。
勇者は王の前に出ると片膝を付き、王への服従を示した。
「勇者トロイよ、神器の複製は順調に進んでおるか。」
「はい、王様。神器"勇者の剣"と"龍殺しの剣"の複製は順調に進んでおります。」
「ときに、隣国のエルネス王国にある龍の神殿に新たな主が誕生したとの噂があるようじゃが。」
「その噂は私の耳にも入っております。」
「噂によると、神殿の主になった龍は、まだ子供だそうだ。」
「どうじゃ、お主が日々複製しておる"龍殺しの剣"でその火龍を討ってみては。」
「お主が龍を討てば、悪しき龍を討伐した勇者として名声が手に入るじゃろう。お主も龍を討伐したという自信が持てると思うがどうじゃ。」
王は、勇者に神殿の龍討伐を進めた。いや、遠回しに龍の討伐を命じた。
「勇者は龍を討伐する使命を負っています。セール王国の水龍を討つ前の腕慣らしには丁度よいかと考えていたところです。」
「お主が持っておった"勇者の剣"と"龍殺しの剣"は、城で大切に保管しておく。勇者殿は火龍を討伐して勇者トロイの名声を世に広めてくれ。さすれば、わしもお主を自慢できると言うものゃ。」
「はっ。必ずや龍を討伐して御覧に入れます。」
勇者は、王に龍討伐を約束して王の間から姿を消した。
「王様、あの頭の弱い勇者は、少しおだてるだけですぐに話に乗ってきますな。」
王の側近は、思わす本音を漏らした。
「あやつはちと頭が弱いでな。勇者を名乗る割に剣の腕もいまいちじゃ。勇者としては使えぬじゃろう。」
王は、勇者をさほど信用していなかった。使えるとも思っていなかった。王が勇者に信頼を寄せる拠り所はたたひとつだった。
「じゃが、あやつのスキル"神器複製"はよい。あれさえあれば、悲願の水龍を討てるのじゃ。あやつのただひとつの利点じゃ。」
「ときに、あの一族は、どうしておる。」
「"龍殺しの一族"ですか。間もなく行動に移る頃かと。複製した神器"龍殺しの剣"はあの一族にこそ相応しいです。」
王も王の側近も、龍の討伐に関して信頼しているのは"龍殺しの一族"のみであった。
「あの、頭の弱い勇者ひとりに任せておいては不安じゃからの。」
「はい、王の仰せの通りでございます。」
「まもなくじゃ、待っておれ。セール王国の水龍よ。800年の生もあと少しで終わりじゃ。」
「あの時、わしを恫喝したことを悔やみながら天に送ってやろう。」
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