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17.水神様と女神様

02.水神様との出会い。(その2)

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そうだ、こういうときは糖分でもとって無い知恵を絞り出すとしよう。
そう思ってアイテムバックから"シュークリーム"を取り出した。

「あー、なんか美味そうなものを食おうとしておるな、それをよこすのじゃ。」

女の子が両手をバタバタして俺が手に持ったシュークリームを取ろうとしていた。
ケガの功名、シュークリームに食いつた。

「お嬢ちゃん、シュークリームが欲しければ、まずは、その禍々しいオーラを引っ込めてくれないか。」

「おぬしには、このオーラが見えるか、やはり女神アルティナが言っていたとおりじゃな。」

女の子は、体から発する禍々しいオーラを引っ込めようとはしなかった。
仕方なく、俺は手に持っていたシュークリームをひとくち食べた。

「あー、シュークリームとやらを食いよった、それはわしのじゃ。よこすのじゃ。」

えらくシュークリームにご執心のようだ。

「じゃあ、まず名前を教えて。」

とりあえず、俺の膝の上に座る女の子の名前を聞くことにした。

「わしは、この街にある神殿で水神をやっておる水龍じゃ。」

「えー。」

思わず全員で叫んてしまった。

「うるさいぞ、食堂で騒ぐでない。ほれ、頭に角もあるじゃろう。龍神になると頭に角が生えるのじゃ。」

水神様におこられてしまった。

「ほれ、よい角じゃろう。触ってみるか。」

俺は、水神様に言われるがまま角を触ってみた。

「あっ。あん。」

水神様は、子供のくせにいきなりエロい声を出した。

「バカ者。角に触るでない。いきなり龍神の角に触りおって。お主は、わしに求婚でもするつもりか。」

龍神様に怒られてしまった。なんでも、龍神の角に触るというのは、求婚する時に行う行為らしい。

「水龍様って、洞窟の神殿にいるんじゃないんですか。」

さっきの観光ツアーのガイドさんの話では、水神様は神殿にいると言っていたのでサティが疑問に思った。

「神殿の中はつまらん、だからたまにこうやって人化して遊ぶのじゃ。」

「あー、またシュークリームとやらを食べよった、わしによこすのじゃ。」

「さっき"わしの土地"と言っていましたが、あれはどういうことでしょうか。」

さっきまで水神様がベティに真顔で睨み付けていたので、どういうことなのか聞いてみると。

「そうじゃ、ここは水龍であるわしの縄張りなのじゃ、そこに他の龍が入りこむとはどういう了見じゃ、しかもそれが火龍であれば、なおさらじゃ。」

「それは失礼しました。まず彼女ですが、呪いによって人化が解けないのです。殆ど人とかわりません。」

ベティが呪いで人化している事を伝えてみたが。

「そんなことは見れば分かる。わしの目は節穴ではないぞ。」

なんだ、知ってたのね。

「それでもじゃ、わしの縄張りに入るのであれば、挨拶に神殿に来るくるのが筋であろう。土産は忘れるでないぞ。」

おっ、これはうまく場を収められそうだ。俺はそう思いながら水神様を少しからかってみることにした。

「知らぬこととはいえ、失礼しました。」

「では、こういたしましょう。」

「ここに、シュークリームの詰め合わせがあります。これを挨拶と土産のかわりとしたいのですがいかがせしょう。」

アイテムバックからユークリーム12個が入った折詰を取り出して、水神様の目の前に置いてみた。

「ふん、そんなことではごまかされんぞ。」

水神様は、そっぽを向いたが目はシュークリームを見ているようだ。
やった、かかったぞ、もうひと押しだ。
俺は、シュークリームが入った折詰からシュークリームひとつ取り出して食べようとした。

「わーん、またシュークリームを取られた。」

「水神様、どうします?」

「…分かった、そのシュークリームの詰め合わせとやらで手をうつのじゃ。」

シュークリームの入った折詰を水神様に渡すと、折詰からシュークリームを取り出してそそくさと食べ始めた。

「うまい、うまいのじゃ。」

水神様は、シュークリームを気に入ってくれたようだ。
俺は、湯飲みにお茶をつぎ足して、水神様の前にさっと出した。

「水神様、お茶ですよ。誰もシュークリームを取ったりっしませんから、ゆっくり食べてください。」

「おお、おぬし、気が効くな。よいやつじゃ。」

水神様の口の周りはクリームだらけだ。

「他にははないのか。」

3個目のシュークリームを食べ終えた水神様は、次なる食べ物を要求してきた。
これは、攻めどころか。

「これから女神ラティア様の神殿に行くんですが、女神アルティナ様にたのまれてこの和菓子を献上する予定なんです。」

そう言って、アイテムバックから、草餅と道明寺が入った折詰を出して、わざと折詰を開けて中身を見せた。

「それも美味そうじゃ、わしによこすのじゃ。」

「だめです、これは女神ラティア様へ献上するものです。」

「むー、頑固者め。」

「分かったのじゃ、交換におぬしらがここへ来た目的である武具をいくつかやろう、それでどうじゃ。」

「なぜ、それをご存じなのですか。」

「女神アルティナから話はきいておる。おぬしは、美味い甘味を作るのが得意だと聞いておったので、食べてみたかったのじゃ。」

「なんだ、ただの食いしん坊か。」

「食いしん坊いうな!」

俺は、草餅と道明寺の入った折詰を水龍様の前に差し出した。

「では、交渉成立じゃな。」

水神様は、女神ラティア様に献上するはずだった折詰の中から道明寺を取り出して食べ始めた。
こんどは、口の周りが餡子だらけだ。

「水神様、お茶をどうぞ。」

「やはり、おぬしは気が利くな、ますます好きになったのじゃ。」

どうも水神様は、女神アルティナ様から俺たちが来ることを知らされていたようだ。
それで、女神アルティナ様から自慢された甘味を食べてみたくて、小芝居をうったようだ。
肝を冷やして損をしてしまった。
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