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家族になった人族のポムと魔族のポム

34.みのたうろすさんの活躍(その2)

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「さあ、トロール。これで私とあなたの一対一の闘いになりました。私は、あなたを一撃で倒します。
もし、一撃で倒せなかったら私の負けということでこの金貨を差し上げます。」

"みのたうろす"さんは懐から金貨を取り出すと、みんなに見えるように手を高く上げて金貨を見せていました。

「お前、魔獣のミノタウロスか。でも魔獣のくせにえらく高そうな服を着てるし、人の言葉が話せるんだな。お前を倒して見世物にでもすれば金儲けができるな。」

「トロールよ、あの"ミノタウロス"を痛めつけろ。でも殺すなよ。見世物にして金儲けをするんだからな。」

トロールを連れてきた男は、よほどお金が好きみたいです。"みのたうろす"さんがもう自分の物にでもなった気でいるようです。

トロールは"みのたうろす"さんに向かって走り出しました。トロールの手が大きく降り上げられています。

すると"みのたうろす"さんが一気に走り出しました。"みのたうろす"さんの足はトロールに比べると何十倍も速くてあっという間にトロールの足元へとやってきました。

そして"みのたうろす"さんはトロールのお腹に一発のパンチを繰り出しました。

トロールは、空を飛んでいました。

道の遥か先まで飛んで地面に大きな音を立てて落ちていきました。

その後、トロールは立ち上がることはありませんでした。

「ほう、あれはバカだが力だけはあったんだよな。それを一撃か。お前の言う事に嘘はないな。」

また、建物の影から男が現れました。でも、その男は他の盗賊達とは雰囲気が違っていました。

男は、腰にぶら下げた鞘から剣を抜くとゆっくりと"みのたうろす"さんに近づいてきました。

「さて、あなたは私の力量をどう判断されましたか。私に剣で勝てると思いましたか。私の力量が理解できるのであれば、私に剣など抜くはずがないのですがね。残念です。」

"みのたうろす"さんは、腰に付けていた小さなバックに手を入れると剣を取り出しました。

「ほう、アイテムバック持ちか、良い物を持っているな。それを売ればいい金になる。」

盗賊の男は、"みのたうろす"さんの前まで近づくと剣の構えを変えました。

さっきまでと明らかに雰囲気が違っていました。

男は、ゆっくりと"みのたうろす"さんに近づきます。

"みのたうろす"さんは、剣を下に降ろしたまま動こうとはしません。

男が"みのたうろす"さんの左側へと回り込んで剣が降りにくい位置に来ると目にも止まらない速さで剣を振り下ろしました。

僕は、"みのたうろす"さんが斬られてしまったのかと目を閉じてしまいました。

次に僕が目を開けた時には、"みのたうろす"さんだけが立っていました。

盗賊の男は剣を握りしめたまま倒れていました。

「えっ、凄い。"みのたうろす"さん勝ったんだ。」

「当然よ。私が鍛えたのよぉ。あんな弱い剣士に負けたらお仕置きをだったんだから。」

「しかも殺さずに気絶させたのよ。芸が細かいのよぉ。」

悪魔さんが、腕を組んで勝つのが当然という顔で話しています。

職人さん達が倒れている盗賊達の手足を縄で縛っている所へ兵士さんが走ってきました。

「すまん、村の外で馬車が盗賊に襲われていると言われたので行ってみたが、こいつらの仲間だったんだ。この村を襲うために村の外に誘い出されてしまった。」

「おっ、俺のトロールが死んじまった。ここまで言う事を聞かせるまでにどれだけ苦労したと思ってるうんだ。」

トロールを連れて来た男は、兵士に文句を言っていましたが、兵士に縄を打たれて連れていかれました。

「ポム様、トロールに投げ飛ばされた職人さんがかなりケガをしています。ここは治療魔法と回復魔法の出番ですよ。」

悪魔さんが僕の耳元でやさしく呟いてくれました。

僕は、慌ててケガをしている職人さんに近づくと魔法でケガをは治し始めました。

騒ぎが治まった頃合いを見て教会の神官さんがやって来て、ケガ人の治療に当たり始めました。

僕がケガ人を治療魔法で直しているところを見た神官さんが固まっています。

「えっ、こんなに深い傷なのに直に治るなんて。」

職人さんが痛そうに腕を押さえています。

「ちくしょう、腕の骨がいっちまった。これじゃ仕事ができん。カミさんに怒られる。」

職人さんは腕が折れた事より奥さんに怒られる方が怖いようです。

「こっちの人は、骨が折れてます。でも私の魔法では直ぐには治りそうもありません。」

神官さんの治療魔法では荷が重いようです。

「僕が見ます。」

僕が腕の骨が折れているという職人さんに治療魔法をかけると、あっというまに腕の骨がくっついて治っていきます。

「すごい、この子の治療魔法。こんなに強力な治療魔法は見たことない。」

ふたりの神官さんは僕の治療魔法を見てただ唖然としています。

「おっ、腕が痛くなくなったぞ。すごいな坊主。骨が折れたのにあっという間にくっついたぞ。カミさんに怒られなくて済んだよ。ありがとう坊主。」

職人さんは、腕をぶるんと振って喜ぶと僕を抱きしめてくれましたが、治った腕の力が強すぎて苦しくて大変でした。

僕が職人さんから解放され、辺りを見回すとまだまだケガをしている職人さんがたくさんいました。

「神官さん、他にもケガをしている人が大勢いるから手分けをして治していこう。」

「えっ、そっうね。私はこっちの人を見るから、あなたはそっちをお願い。」



「ねえ、ポム様は、治療関係の仕事に向いてるわねぇ。」

「そうですね、店で勉強を教えながら教会に話をして治療院で経験を積ませるっていうのもいいかもしませんね。」

榊さんと悪魔さんがポムさんの将来についてなにやらお話をしていますが、ポムさんは、治療が忙しくてその事に気が付きませんでした。



「あの、あなたのその力をこの村の治安維持に役立てませんか。」

この村の警備を任されている隊長が"みのたうろす"さんに話しかけてきました。

「お恥ずかしながら俺達では、あのトロールと剣士には太刀打ちできなかったと思います。」

「ここには、転移門を守るオーガの兵士がいますが、彼らの役目は転移門を守る事なのです。」

「この国は、魔族国との戦争で兵士が足りなくて、警備も工事の人手も足りなくて困っております。
せめて村の城壁ができるまで、この村の警備の助っ人をお願いできませんか。」

「…そうですか、では主様に聞いてみます。」

"みのたうろす"さんが悪魔さんに相談しようと歩み寄ってくると。

「いいわよ。ただし、ポム様がこの村にいる時だけね。でも榊さんがポム様をこの村の治療院で面倒見て欲しいとか言っていたから大丈夫じゃない。まあ、要相談ね。」



それ以来、この村はタキシードを着たミノタウロスが守る村として有名になりました。

たまに村の外で、オーガ族と"みのたうろす"さんが力比べをしていることがあります。

オーガさんも"みのたうろす"さんも全力で戦える相手がいると言って喜んでいました。



ポムさんは食材の配達が終わると、この村の教会の治療院で短時間ながら働く事になりました。

たまにケガをした職人さんが運ばれてきますが、ポムくんの治療魔法のおかげて職人さん達は、安心して仕事に専念できると喜んでいます。

それがつの間にかこの村の治療院には、他の村や街からケガ人やん病人が運ばれてくるようになり
ました。

さらにポムくんの治療魔法を見学しようと、他の街の神官達までもが、この村に来るようになりました。

いつの間にか治療院で働くポムくんの周りには、人の輪ができていました。

ポムくんは忙しそうにしていますが、笑ってケガや病気を治していました。



ポムさんは、この村に出来た魔族国の大使館付きの魔術師見習いになりました。

榊さんがポムくんと一緒にいられるように、この村で働けるようにと魔術院というところに話をつけてくれたようです。

ポムさんは、大使館に勤めているのでかっこいい制服を着ていますが、背の小さいポムさんが着ると服が大きくてダボダボです。まるで子供に大人の制服を着せたようです。

それでもポムさんは満足そうな顔で笑っていました。それは、ポムくんに制服が似合っていると褒められたからです。

これがポムくんとポムさんの将来の姿なのかは分かりません。

でも少しずつ将来へ向かって進んでいることは確かなようです。
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