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2、元カノの証言
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「あの、すみません!コノカさん……であってるかな?」
西日でオレンジ色に染まった昇降口を出ようとしたとき、うしろから控えめに肩をたたかれた。
振り返ってみると話したこともない子がすこし申し訳なさそうに眉を下げて立っていた。
柔らかそうなチョコレート色の髪を横で一つに結んでいた、日に焼けた肌が活発そうな印象を与える女の子だった。
だけど、やっぱり見覚えはない。
「えーっと、はい。……ごめんなさい、どこかで?」
「あっ、ごめんなさい。あの、はじめまして、千田陽莉っていいます」
どこかで聞いたことのある名前に少しだけ引っかかる。
「えっと……。」
「……リンの幼馴染なんです」
あまり芳しい反応を見せない私に陽莉と名乗った彼女は焦れたように自分の正体を口にした。
「あー」
そうだった。
前に一度だけ凛の口から聞いたことがある名前だった。
付き合い始めて一か月くらいの時だっただろうか。
人気カフェの新作を飲みたいという話をした時にこの前「ひまりに言われて飲んだ」と言われた。
そのときは今度友達と行くと私が話したときだったし、彼は美味しかったのだというところを伝えたかっただけだろう。
一緒に行こうという話をしていたわけではなかったし別によかったけど、記憶に残っていた。
あの時の何か言いたそうな凛の顔が今も残っているのだ。
「あなたに聞きたいことがあって」
結局いい反応を示さないままの私に陽莉ちゃんは諦めて本題に入るようだった。
「?」
「コノカさんはまだ、リンと付き合ってるの?」
まだ、というところに若干非難のような色を感じながらも嘘をつくわけにもいかないので頷く。
なんとなく、嫌な予感がして自然と眉間が寄ってしまう。
「言いにくいんだけどリンの告白罰ゲームなんだ」
予感とは少し違ったけどやはりあまりいい内容じゃなかった。
だけど、同時に凛に告白されてからの違和感というか消化しきれない疑問みたいなものが解けたみたいな不思議な感覚になった。
本人から何か聞いたわけじゃないのに。
「そうなんだ」
「驚かないんだね。疑いもしないの?」
陽莉ちゃんは私が自分の思考にとらわれて適当に打った相槌を納得したと勘違いしたようだ。
それに自分で言ったことに納得した私に少しいら立つみたいだった。
「別に、あなたを信じるわけじゃない。ただ、そうなんだって思っただけ。それで、結局何が言いたいの?」
説明するのも面倒でだけど勘違いさせたままなのも嫌で投げやりに答える。
「嫌な気持ちにさせてごめんね、本当はそんなことする人じゃないんだけど一緒にいる人たちと悪ノリしちゃったみたいで。リンはあなたのこと振れないと思うの、だから……。」
なるほど。
やっと、彼女の本当の意図が見えた気がした。
「それって、本人から聞いたの?」
もう、聞く必要はないと判断して彼女の言葉を遮る。。
必死に懇願するような彼女の声にかぶせるように発した自分の声が思ったより冷たいことに驚いてしまう。
「え、いや。同じ賭けをした男子から」
陽莉はすこし気まずそうに目線を下げて告げた。
「わかった。教えてくれてありがとう。急いでるからもう行くね」
別に急いでなんていないけど、今までにないレベルの速さで靴を履き替えて逃げるように昇降口を出た。
正直、本当かどうか見極める余裕なんてなくて何を信じていいのかわからない。
彼女が嘘をついてるのか、それとも東くんなのか。
陽莉ちゃんにそのことを話したという男子が嘘をついたのか。
わかんないよ。
本人に聞くべきだってわかってる。
だけど、もし大したことはないというように肯定されたら多分もう立ち直れなくなる気がした。
長い思考の末、スマホを取り出してメッセージを送ったのは私の一番の相談相手だった。
西日でオレンジ色に染まった昇降口を出ようとしたとき、うしろから控えめに肩をたたかれた。
振り返ってみると話したこともない子がすこし申し訳なさそうに眉を下げて立っていた。
柔らかそうなチョコレート色の髪を横で一つに結んでいた、日に焼けた肌が活発そうな印象を与える女の子だった。
だけど、やっぱり見覚えはない。
「えーっと、はい。……ごめんなさい、どこかで?」
「あっ、ごめんなさい。あの、はじめまして、千田陽莉っていいます」
どこかで聞いたことのある名前に少しだけ引っかかる。
「えっと……。」
「……リンの幼馴染なんです」
あまり芳しい反応を見せない私に陽莉と名乗った彼女は焦れたように自分の正体を口にした。
「あー」
そうだった。
前に一度だけ凛の口から聞いたことがある名前だった。
付き合い始めて一か月くらいの時だっただろうか。
人気カフェの新作を飲みたいという話をした時にこの前「ひまりに言われて飲んだ」と言われた。
そのときは今度友達と行くと私が話したときだったし、彼は美味しかったのだというところを伝えたかっただけだろう。
一緒に行こうという話をしていたわけではなかったし別によかったけど、記憶に残っていた。
あの時の何か言いたそうな凛の顔が今も残っているのだ。
「あなたに聞きたいことがあって」
結局いい反応を示さないままの私に陽莉ちゃんは諦めて本題に入るようだった。
「?」
「コノカさんはまだ、リンと付き合ってるの?」
まだ、というところに若干非難のような色を感じながらも嘘をつくわけにもいかないので頷く。
なんとなく、嫌な予感がして自然と眉間が寄ってしまう。
「言いにくいんだけどリンの告白罰ゲームなんだ」
予感とは少し違ったけどやはりあまりいい内容じゃなかった。
だけど、同時に凛に告白されてからの違和感というか消化しきれない疑問みたいなものが解けたみたいな不思議な感覚になった。
本人から何か聞いたわけじゃないのに。
「そうなんだ」
「驚かないんだね。疑いもしないの?」
陽莉ちゃんは私が自分の思考にとらわれて適当に打った相槌を納得したと勘違いしたようだ。
それに自分で言ったことに納得した私に少しいら立つみたいだった。
「別に、あなたを信じるわけじゃない。ただ、そうなんだって思っただけ。それで、結局何が言いたいの?」
説明するのも面倒でだけど勘違いさせたままなのも嫌で投げやりに答える。
「嫌な気持ちにさせてごめんね、本当はそんなことする人じゃないんだけど一緒にいる人たちと悪ノリしちゃったみたいで。リンはあなたのこと振れないと思うの、だから……。」
なるほど。
やっと、彼女の本当の意図が見えた気がした。
「それって、本人から聞いたの?」
もう、聞く必要はないと判断して彼女の言葉を遮る。。
必死に懇願するような彼女の声にかぶせるように発した自分の声が思ったより冷たいことに驚いてしまう。
「え、いや。同じ賭けをした男子から」
陽莉はすこし気まずそうに目線を下げて告げた。
「わかった。教えてくれてありがとう。急いでるからもう行くね」
別に急いでなんていないけど、今までにないレベルの速さで靴を履き替えて逃げるように昇降口を出た。
正直、本当かどうか見極める余裕なんてなくて何を信じていいのかわからない。
彼女が嘘をついてるのか、それとも東くんなのか。
陽莉ちゃんにそのことを話したという男子が嘘をついたのか。
わかんないよ。
本人に聞くべきだってわかってる。
だけど、もし大したことはないというように肯定されたら多分もう立ち直れなくなる気がした。
長い思考の末、スマホを取り出してメッセージを送ったのは私の一番の相談相手だった。
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