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1、あの日の話

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 私、香月かづき心果このかのような地味な人間とは正反対だと誰もが口をそろえて言うようなあずまくんと付き合ったのはどうしてだったか。
 ああ、そうだ



 重い。
 クラス四十人分のノートを持って三階まで階段で登るのは想像よりずっときつかった。
 日直の私は、夏休み明けにみんなが出した課題を持ってくる係を頼まれてしまった。そこまではよかったのだが、私と一緒に日直だった花井はない歩悠あゆくんはどうしても外せない予定があると言われてしまったのだ。
 彼はこの学園の生徒会長でもあるし近々文化祭が近づいているから忙しいのだろうと思うと、快く引き受けてしまった。
 放課後だから、友達もみんな部活に行ってしまったりして頼める人もいないし何せ行けるだろうと思ってしまったのだ。

「うー、重い」
「香月さん、半分持つよ」

 私の愚痴のような独り言に返事を返したのはとても優しい申し出だった。
 顔をあげると人懐っこそうな、いっそ胡散臭いくらい愛想のいい笑顔を浮かべた同じクラスの一軍男子がいた。
 明るめの茶髪は緩くパーマがかかっていてチャラそう。
 私はというと肩より少し長いくらいのこげ茶色の下ろしている運動音痴で陰キャで人見知り。
 ただでさえ男子と話すのが得意ではない上に陽キャな彼は私が一番苦手としているタイプの人種だったから正直手伝いを申し出てくれるなんて思ってなかった。

「え、なんで⁉」

 びっくりしすぎて疑うみたいな言葉が口を突いて出た。

「さっき、歩悠が生徒会室行くの見てその代わり」

 東くんは「うちの歩悠がごめんな」なんてふざけたように笑って私の手から確実に半分よりも多いノートの束を奪っていった。

「ほんとにいいの?」

 だけど、失礼すぎる私に東くんは笑って「もちろん」だと頷いてくれた。
 チョロいと思うけどあの時もう好きになってしまったのだと思う。



 それから、教室で東くんに目が行くようになった。
 彼はやっぱり世渡りが上手で女の子にもすごくモテていた。
 私なんかが近づけるような人じゃなかった。
 


 文化祭の日、変な高揚感で友達と打ち上げにファミレスに行こうとしいたらポケットが空っぽなことに気が付いた。

「あ!スマホ忘れたー!ごめん、先行ってて」

 文化祭が終わった後みんなで打ち上げに行くと言って教室はそうそうに空っぽになった。
 私もそこについていこうとしていたのだけど忘れ物をしてしまって教室に戻ってきたのだった。
 そこには異常にびっくりした東くんしかいなくてなんとなく気まずかった。

「香月さん、どうしたの?」
「忘れ物、東くんは?」

 私の質問はまずかったのかすごく気まずそうに苦笑いされた。

「みんな打ち上げに行くって。東くんのこと待ってるんじゃないかな」

 そういえばさっき昇降口のところで東くんとよく話しているクラスメイトがいた。

「香月さん、急でごめんなんだけど……。好きなんだ、彼女になってほしい」

 本当に急すぎる。
 妄想か、幻覚か。
 そんな考えをすんでのところでとどめる。
 そして、気が付けば私は彼に頷いてみせたようだった。
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