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1、良いことと悪いこと
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「俺たちこれを機に一度別れようか」
は?
なんだよ、それ。
全く予想していなかった話を聞いた直後から机に並べられたおいしそうな料理の数々が途端に色褪せて見える。
手元には封筒に入ったお金。
料理の乗ったテーブルをはさんで目の前には僕、宇佐美優月の雇い主で恋人、いや、元恋人の如月澪さんが座っている。
別れ話の最中とは思えないくらい何でもないような世間話をするときと同じ顔で何でもないことのように言ってのけた。
ウェーブがかかって柔らかな黒髪にキリっと吊り上がった瞳には強い意志が感じられる美形だ。
一緒に街を歩いたらみんなが振り返る。
だけど、笑うとふにゃっとして僕はその顔が大好きでたまらなかった。
なんだか、気を許されてる感じがするのだ。
それが今は見慣れた大好きな顔が知らない人みたいに見えて怖かった。
僕は中性的な顔というか普通に女顔であんまり焼けない肌とか伸びない身長で女の子に間違えられることも結構ある。
でも、見た目に反して中身は普通に男だから、よく知らずに告白してくるやつとかには思っていたのと違うなんて言われることも結構ある。
僕はある事情があってこの人のもとで家事代行のバイトとして一年前から雇われていた。
そして、その間はここで一緒に暮らしていたのだ。
もともと暮らしているマンションがタイミング悪く取り壊し予定になってしまったので居候させてもらっていたのだ。
俺は大学生だけど家がそこまで裕福なわけじゃないからバイトをしながら格安で借りれるマンションで暮らしていたから家がなくなって途方に暮れるところだった。
しかし、今日で契約期間が切れて僕はこのバイトをやめる。
ある事情から必要としてたお金が貯まる日なのだ。
それを澪さんがお祝いしてくれると言って手料理までふるまってくれたのだ。
優しくて大人な大好きな恋人だった。
バイトが終わっても恋人としては続いていくと思っていたのに。
別れたくないと口が動きそうなのを必死で引き結ぶ。
だって、給料をもらってここに住まわせてもらっていた身で別れたくないなどとは言えないと思う。
言っちゃだめだ。
バイトが終わればこの家は出ていくつもりだったし、負担にならない対等な恋人でいようと思っていたのに。
そのために新しく安いマンションを見つけていたんだ。
でも、仕方がない。
それに、すがって恋人のままでいさせてもらったところできっと今の関係が同じように続くはずがないんだ。
今何とか頷いてもらえたって、いつなんのはずみでまた別れようと言われるのかおびえながら彼の隣にいるのは耐えられないと思う。
諦めるしかないな。
「わかりました。あ、でも少し待ってください!荷物をまとめますね」
自室として宛がわれていた部屋に逃げるように入る。
最後に見たあの人の顔はなぜだかすごく驚いていた。
だけど、それを機にかけるほどの余裕は僕にはない。
元々出ようとしていた部屋だからそこまでたくさんの荷物はもうおいてなくて荷物をまとめるのはすぐに終わった。
そのあとはせっかく家事代行で綺麗にしていた家を出るのに汚れを残していくのが嫌で隅々までピカピカに掃除した。
僕の痕跡が今すぐにでも消えることを願って。
僕のいない僕の部屋を見て僕のことを嫌いになって元恋人のことなんて思い出してほしいとは思わなかったからだ。
すべてが終わって部屋を出てリビングに戻ればさっきまで食べていた料理はそのままに澪さんだけがいなくなっていた。
もう顔も見たくないということだろうか。
ずいぶんと嫌われてしまっていたみたいだ。
俺はそんなに恋愛経験は豊富じゃない。
だから、そろそろ潮時かもしれないとか飽きられ始めているとかは全然わからなかった。
鈍感なのも嫌われた要因の一つなのかもしれないけど。
最後に別れの挨拶がしたかったのに残念だけど仕方ない。
こんなに嫌われてるならもうきっぱりすっぱり諦めたほうがいいに決まってる。
もらっていた鍵を玄関に返して扉を開ける。
「お世話になりました」
外に出て扉を閉めるとき、彼の部屋の扉が開いたような気がしたけど確かめるのは怖くて目を伏せた。
マンションを出ると雨が降っていた。
今は六月。
もう梅雨になるころだとぼんやり思っていたらあの人との出会いを思い出す。
あの人に初めて会ったのも確か梅雨のはじめ。
こんな雨の日だった。
は?
なんだよ、それ。
全く予想していなかった話を聞いた直後から机に並べられたおいしそうな料理の数々が途端に色褪せて見える。
手元には封筒に入ったお金。
料理の乗ったテーブルをはさんで目の前には僕、宇佐美優月の雇い主で恋人、いや、元恋人の如月澪さんが座っている。
別れ話の最中とは思えないくらい何でもないような世間話をするときと同じ顔で何でもないことのように言ってのけた。
ウェーブがかかって柔らかな黒髪にキリっと吊り上がった瞳には強い意志が感じられる美形だ。
一緒に街を歩いたらみんなが振り返る。
だけど、笑うとふにゃっとして僕はその顔が大好きでたまらなかった。
なんだか、気を許されてる感じがするのだ。
それが今は見慣れた大好きな顔が知らない人みたいに見えて怖かった。
僕は中性的な顔というか普通に女顔であんまり焼けない肌とか伸びない身長で女の子に間違えられることも結構ある。
でも、見た目に反して中身は普通に男だから、よく知らずに告白してくるやつとかには思っていたのと違うなんて言われることも結構ある。
僕はある事情があってこの人のもとで家事代行のバイトとして一年前から雇われていた。
そして、その間はここで一緒に暮らしていたのだ。
もともと暮らしているマンションがタイミング悪く取り壊し予定になってしまったので居候させてもらっていたのだ。
俺は大学生だけど家がそこまで裕福なわけじゃないからバイトをしながら格安で借りれるマンションで暮らしていたから家がなくなって途方に暮れるところだった。
しかし、今日で契約期間が切れて僕はこのバイトをやめる。
ある事情から必要としてたお金が貯まる日なのだ。
それを澪さんがお祝いしてくれると言って手料理までふるまってくれたのだ。
優しくて大人な大好きな恋人だった。
バイトが終わっても恋人としては続いていくと思っていたのに。
別れたくないと口が動きそうなのを必死で引き結ぶ。
だって、給料をもらってここに住まわせてもらっていた身で別れたくないなどとは言えないと思う。
言っちゃだめだ。
バイトが終わればこの家は出ていくつもりだったし、負担にならない対等な恋人でいようと思っていたのに。
そのために新しく安いマンションを見つけていたんだ。
でも、仕方がない。
それに、すがって恋人のままでいさせてもらったところできっと今の関係が同じように続くはずがないんだ。
今何とか頷いてもらえたって、いつなんのはずみでまた別れようと言われるのかおびえながら彼の隣にいるのは耐えられないと思う。
諦めるしかないな。
「わかりました。あ、でも少し待ってください!荷物をまとめますね」
自室として宛がわれていた部屋に逃げるように入る。
最後に見たあの人の顔はなぜだかすごく驚いていた。
だけど、それを機にかけるほどの余裕は僕にはない。
元々出ようとしていた部屋だからそこまでたくさんの荷物はもうおいてなくて荷物をまとめるのはすぐに終わった。
そのあとはせっかく家事代行で綺麗にしていた家を出るのに汚れを残していくのが嫌で隅々までピカピカに掃除した。
僕の痕跡が今すぐにでも消えることを願って。
僕のいない僕の部屋を見て僕のことを嫌いになって元恋人のことなんて思い出してほしいとは思わなかったからだ。
すべてが終わって部屋を出てリビングに戻ればさっきまで食べていた料理はそのままに澪さんだけがいなくなっていた。
もう顔も見たくないということだろうか。
ずいぶんと嫌われてしまっていたみたいだ。
俺はそんなに恋愛経験は豊富じゃない。
だから、そろそろ潮時かもしれないとか飽きられ始めているとかは全然わからなかった。
鈍感なのも嫌われた要因の一つなのかもしれないけど。
最後に別れの挨拶がしたかったのに残念だけど仕方ない。
こんなに嫌われてるならもうきっぱりすっぱり諦めたほうがいいに決まってる。
もらっていた鍵を玄関に返して扉を開ける。
「お世話になりました」
外に出て扉を閉めるとき、彼の部屋の扉が開いたような気がしたけど確かめるのは怖くて目を伏せた。
マンションを出ると雨が降っていた。
今は六月。
もう梅雨になるころだとぼんやり思っていたらあの人との出会いを思い出す。
あの人に初めて会ったのも確か梅雨のはじめ。
こんな雨の日だった。
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