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8、花火が散るころに
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「……帰ろっか」
しばらく花火の余韻に浸っていた私たちだけど水瀬くんの声かけで現実に戻ってくる。だけど、立ち上がる水瀬くんをぼんやり見つめる。
なんだか、この場を離れる気になれなかった。
「どうした? なこちゃん」
水瀬くんは困った幼児に向けるみたいな優しい顔で手を差し出してくれる。
そんな顔にもドキドキしちゃって頬が赤くなる。
私は自分が好きだと思ったその人の行動一つでこんなにも心臓が左右されちゃう人間だなんて思っていなかった。
「……。」
「なこちゃん?」
「……好き」
「え」
「え、え! あ、いや、違くて」
どうしようもなく制御しがたい気持ちがあふれて止まらなかった。
水瀬くんの今までに見たことのない困惑した顔にこっちまで慌ててしまって、多分言い訳なんて効く状況じゃないのに諦め悪く言い募ってしまう。
だって、だって思いがあふれてしまっただけなんだ。
本当は告げるつもりなんて一生なかったのに。
「うん、俺も好きだよ。なこちゃんは大切な友達」
「私の好きは……」
友達としてじゃないとは言わせてくれなかった。
「うん。分かってる、だけど……なこちゃんとは友達でいたい」
思わずはっと息をのむ。
友達。
そんな残酷な言葉を放っているんだから、水瀬くんは私を気持ち悪い目で見ているか、言いなれている常套句で何とも思っていないんだと思った。
なのに、顔をあげれば水瀬くんのどこまでも悲しそうな瞳と目が合う。
なんで君がそんな顔をするの?
お願いだからそんな心の底から傷ついたみたいな顔をしないで。
そんな顔をさせたくて抱いた想いじゃないから。
「分かってます。友達のままで……私もあなたとは友達でいたいです」
「なこちゃんはなんでそんなに優しいの? 罵ってよ。前みたいにサイテーって……そう言ってよ」
「できないよ」
私は力なく首を横に振ることしかできない。
好きだと思ったら、私が好きな水瀬くんのいろんな顔を知ってしまったら、何かあるんじゃないかって思えてしまう。
もう無責任に最低だなんて言えなくなっていた。
だって、今も水瀬くんの方が泣きそうな顔してるのに。
そのあと、高台を離れて瑠衣たちとの合流場所につくまでの間もずっと気まずい無言が続いていた。
帰り道、瑠衣には何があったのかと心配された。
「何でもないよ。全然何もなかった」
「……でも」
瑠衣は心配そうに言い募る。
多分、瑠衣は言うほど水瀬くんのことを危険視してなかったんだ。
だからこそ、あの時私のことも花火大会に誘ってくれてそして今それを後悔しているんだ。
だけど、私は勝手にフラれただけで瑠衣は何も悪くない。
「ほんとになんでもないの。……瑠衣は? 遊馬くんとどうだったのー?」
私が思いっきり話を変えたのに瑠衣は眉を寄せた。だけど、私がこれ以上そのことについて話す気がないと悟ったのか諦めて折れてくれた。
深く言わずともわかってくれる親友のちょうどよい距離感にどうしようもなく感謝した。
「瑠衣」
行きに待ち合わせた駅の改札前で別れる前、私は瑠衣を呼び止めた。
「……?」
「ありがとう、瑠衣」
意味の分からないお礼に彼女は眉を下げて優しく笑ってくれた。
あの夏祭りの日から半月が経って夏休みは終わりを告げた。
水瀬くんとは連絡先を交換していなかったし、夏祭りの日からは全く交流がなくなっていた。
それは夏休みが明けてから一週間たって今でも同じで一度も水瀬くんとは話していなかった。
遊馬くんが教室に来ても水瀬くんはいないし、廊下でばったり会うようなこともなかった。
あんなに見かけてたのに。
もうこのまま友達でもなくなっていくのかな。
本当はあの日水瀬くんの言葉に頷いたのを少し後悔していた。
もしかしたらこのまま何もなかったようにして他人として過ごすほうがいいのかもしれない。
「綿谷、おはよ」
「……っ!」
ぼんやりと歩いていたから後ろから急に肩をたたかれて必要以上に驚いた。
振り返ってみれば遊馬くんだった。
「大丈夫か? ぼーっしてたけど」
「う、うん。ちょっと考え事してて」
「それってさ、灯里のこと?」
言いにくそうな顔をしているけどなぜかすべてを知っているように核心をついてくる。
「……うん。なんで?」
「今度、二人で遊ばない?」
こっちが質問してるのに遊馬くんはかみ合わない質問を返してきた。
しかも、遊ぶってどういうこと?
「無理。なんで?」
思わず警戒マックスで拒否してしまう。
「いや、警戒しすぎな。向坂の誕生日プレゼント買うの手伝ってほしくて」
「あっ! 忘れてた。うん、私も買いたいからいいよ」
「今度は警戒心薄いな。灯里が心配するのも分かるわ」
ちょうど一週間後に瑠衣の誕生日があったのを最近のごたごたのせいですっかり忘れていた。
ここぞとばかりに遊馬くんの誘いに便乗すればなぜか苦笑いを浮かべている。
しかも、なんで水瀬くんの話になるの?
「なんで、水瀬くん?」
「ん? あーいや、なんでもない」
目が泳ぎまくっているし何でもないって感じじゃないけど遊馬くんは触れてほしくなさそう。
「なんか怪しいけど?」
キーンコーンカーンコーン!
これ以上言及する前に朝の予鈴がなってしまった。
「じゃっ! 詳しいことはまた連絡する!」
遊馬くんは「今がチャンス!」とばかりに走り去ってしまった。
私ももう教室に入らなきゃいけないし結局わからずじまいだ。
しばらく花火の余韻に浸っていた私たちだけど水瀬くんの声かけで現実に戻ってくる。だけど、立ち上がる水瀬くんをぼんやり見つめる。
なんだか、この場を離れる気になれなかった。
「どうした? なこちゃん」
水瀬くんは困った幼児に向けるみたいな優しい顔で手を差し出してくれる。
そんな顔にもドキドキしちゃって頬が赤くなる。
私は自分が好きだと思ったその人の行動一つでこんなにも心臓が左右されちゃう人間だなんて思っていなかった。
「……。」
「なこちゃん?」
「……好き」
「え」
「え、え! あ、いや、違くて」
どうしようもなく制御しがたい気持ちがあふれて止まらなかった。
水瀬くんの今までに見たことのない困惑した顔にこっちまで慌ててしまって、多分言い訳なんて効く状況じゃないのに諦め悪く言い募ってしまう。
だって、だって思いがあふれてしまっただけなんだ。
本当は告げるつもりなんて一生なかったのに。
「うん、俺も好きだよ。なこちゃんは大切な友達」
「私の好きは……」
友達としてじゃないとは言わせてくれなかった。
「うん。分かってる、だけど……なこちゃんとは友達でいたい」
思わずはっと息をのむ。
友達。
そんな残酷な言葉を放っているんだから、水瀬くんは私を気持ち悪い目で見ているか、言いなれている常套句で何とも思っていないんだと思った。
なのに、顔をあげれば水瀬くんのどこまでも悲しそうな瞳と目が合う。
なんで君がそんな顔をするの?
お願いだからそんな心の底から傷ついたみたいな顔をしないで。
そんな顔をさせたくて抱いた想いじゃないから。
「分かってます。友達のままで……私もあなたとは友達でいたいです」
「なこちゃんはなんでそんなに優しいの? 罵ってよ。前みたいにサイテーって……そう言ってよ」
「できないよ」
私は力なく首を横に振ることしかできない。
好きだと思ったら、私が好きな水瀬くんのいろんな顔を知ってしまったら、何かあるんじゃないかって思えてしまう。
もう無責任に最低だなんて言えなくなっていた。
だって、今も水瀬くんの方が泣きそうな顔してるのに。
そのあと、高台を離れて瑠衣たちとの合流場所につくまでの間もずっと気まずい無言が続いていた。
帰り道、瑠衣には何があったのかと心配された。
「何でもないよ。全然何もなかった」
「……でも」
瑠衣は心配そうに言い募る。
多分、瑠衣は言うほど水瀬くんのことを危険視してなかったんだ。
だからこそ、あの時私のことも花火大会に誘ってくれてそして今それを後悔しているんだ。
だけど、私は勝手にフラれただけで瑠衣は何も悪くない。
「ほんとになんでもないの。……瑠衣は? 遊馬くんとどうだったのー?」
私が思いっきり話を変えたのに瑠衣は眉を寄せた。だけど、私がこれ以上そのことについて話す気がないと悟ったのか諦めて折れてくれた。
深く言わずともわかってくれる親友のちょうどよい距離感にどうしようもなく感謝した。
「瑠衣」
行きに待ち合わせた駅の改札前で別れる前、私は瑠衣を呼び止めた。
「……?」
「ありがとう、瑠衣」
意味の分からないお礼に彼女は眉を下げて優しく笑ってくれた。
あの夏祭りの日から半月が経って夏休みは終わりを告げた。
水瀬くんとは連絡先を交換していなかったし、夏祭りの日からは全く交流がなくなっていた。
それは夏休みが明けてから一週間たって今でも同じで一度も水瀬くんとは話していなかった。
遊馬くんが教室に来ても水瀬くんはいないし、廊下でばったり会うようなこともなかった。
あんなに見かけてたのに。
もうこのまま友達でもなくなっていくのかな。
本当はあの日水瀬くんの言葉に頷いたのを少し後悔していた。
もしかしたらこのまま何もなかったようにして他人として過ごすほうがいいのかもしれない。
「綿谷、おはよ」
「……っ!」
ぼんやりと歩いていたから後ろから急に肩をたたかれて必要以上に驚いた。
振り返ってみれば遊馬くんだった。
「大丈夫か? ぼーっしてたけど」
「う、うん。ちょっと考え事してて」
「それってさ、灯里のこと?」
言いにくそうな顔をしているけどなぜかすべてを知っているように核心をついてくる。
「……うん。なんで?」
「今度、二人で遊ばない?」
こっちが質問してるのに遊馬くんはかみ合わない質問を返してきた。
しかも、遊ぶってどういうこと?
「無理。なんで?」
思わず警戒マックスで拒否してしまう。
「いや、警戒しすぎな。向坂の誕生日プレゼント買うの手伝ってほしくて」
「あっ! 忘れてた。うん、私も買いたいからいいよ」
「今度は警戒心薄いな。灯里が心配するのも分かるわ」
ちょうど一週間後に瑠衣の誕生日があったのを最近のごたごたのせいですっかり忘れていた。
ここぞとばかりに遊馬くんの誘いに便乗すればなぜか苦笑いを浮かべている。
しかも、なんで水瀬くんの話になるの?
「なんで、水瀬くん?」
「ん? あーいや、なんでもない」
目が泳ぎまくっているし何でもないって感じじゃないけど遊馬くんは触れてほしくなさそう。
「なんか怪しいけど?」
キーンコーンカーンコーン!
これ以上言及する前に朝の予鈴がなってしまった。
「じゃっ! 詳しいことはまた連絡する!」
遊馬くんは「今がチャンス!」とばかりに走り去ってしまった。
私ももう教室に入らなきゃいけないし結局わからずじまいだ。
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