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第2章
12話
しおりを挟むあの日から、俺は健斗さんへの気持ちを抑えながら、毎日アイドルと言う夢に向かって練習をしている。
俺の彼への気持ちが弱まることがなく、彼に会って、彼と過ごすうちに、俺の気持ちはどんどん強くなっていった。
そんな気持ちを抱えたまま彼と初めてあったあの日から半年がたった。
俺達のパフォーマンスは健斗さんの教えもあって見違えるほど上達した。
俺達の仲も相変わらず勝莉は白の事を毛嫌いしているが、前よりは仲良くなり、お互いに高めあえる関係へと変わった。
ただ俺達がいい方向へと変わるのと対照に、健斗さんの顔色は日を追うごとに悪くなって行った。
原因は諸星さんの仕事の増加、それによる諸星さんのアンチへの対応からだと、諸星さんから聞いた。
諸星さんはこの半年で知らない人はいない程の人気アイドルまでのぼりつめた。
有名歌番組などにも出演するようになり、多くのファンを獲得した。
ただその分、オメガ反対側の目に触れる機会が増え、以前より諸星さんのアンチが増えた。
その中には諸星さんに攻撃的な人も多く、実際に事務所に諸星さんのファンレターに見せかけカッターナイフ入りの手紙が届いた時は俺も驚いた。幸い健斗さんが気づいて誰も怪我をせずにするだらしい。
健斗さんは忙しい仕事の中でそんなアンチの対応にもおわれ、最近はほとんど眠れてないようで、時々ふらふらと揺れていることがある。
そんな状態になっているのにも関わらず健斗さんは、俺達の練習には、毎日必ず顔を出してアドバイスしてくれている。
俺は、俺達の練習より健斗さんの体調を優先して欲しい。
無理せず少しでも休んで欲しい。
なんなら疲れている彼がゆっくり休めるように、出来るだけサポートしてあげたい。
健斗さんの家に泊まり込んで3食作って家事をしてあげたい。
最近はそんな妄想ばかり考えていた。
今日も健斗さんはふらふらとしながら今にも倒れそうな様子で俺達の練習を見に来てくれた。
どれだけ忙しくても、彼は必ず一人一人にしっかりアドバイスをくれる。
一通りアドバイスをすると、俺達は直ぐに言われたダメ出しを直し始める。
健斗さんはそんな俺たちの姿を見ると、事務所から持ってきていた熱いブラックコーヒーを飲んでいた。
健斗さんは、甘い飲み物の方が好きだってこの前言っていたがさすがにあの様子。嫌いなコーヒーを、ブラックで飲むほど追い詰められているようだった。
俺はどうしても健斗さんの事が心配になってしまって、健斗さんの顔をのぞき込む。
正直彼の素顔が見たかったて言う、下心もあったのだが、彼の顔はほぼ見えなかった。
ただ髪の隙間からわずに見えた彼の肌が驚く程青白くて、驚いた。
「健斗さん、大丈夫? 顔色悪いけど……」
俺は思わず健斗さんに、のぞき込んだ体制のままそう尋ねた。
「見ないで!」
健斗さんが勢いよく顔をそむけた。
健斗さんが今までこんなに大声を出したことはない。このホールに響く声で拒絶反応されてしまった。
そして彼は何かに怯え始める。
「健斗さんごめん…無理に覗き込んで、」
「俺の方こそ、心配してくれたのにごめん…」
俺は直ぐに健斗さんに謝ったが、逆に健斗さんに謝らせてしまうことになってしまった。
それに彼はずっと何かに怯え手が小刻みに震えていた。
俺はそんな健斗さんを、落ち着かせるように話しかける。
「 健斗さんが、謝る必要なんてないよ
それより体は大丈夫??
諸星さんから聞いたけど、健斗さんここずっと仕事で忙しいのに、毎日俺達の練習を見てくれてるしここ数日忙しくて寝れてないんでしょ。
少しでも休まないと、
俺に昔言ったでしょ、休まないといいパフォーマンスが出来ないって、健斗さんも一緒だよ。」
俺はそう言いながら健斗さんの隣に腰掛け、健斗さんが寝る時の枕になればと思い、自分の太ももをぽんぽんと叩いてアピールした。
健斗さんとの妄想で健斗さんが休めるように、健斗さんの事を膝枕する妄想もしていた。
まさかここで実現するチャンスが訪れるなんて、
だけど彼は俺の隣腰かけるだけで、俺の太ももを枕にすることはないまま寝始めた。
さすがに疲れていたのか、隣に座ってすぐに彼はうとうとしはじめて、その後直ぐに彼の寝息が聞こえてきた。
それから俺はずっと彼が起きるまでずっと彼の隣で彼が寝ているのを眺めていた。
今なら彼の素顔を見ることが出来るかもしれない。だけど彼が、あんなに怯えるほど見せたがらない素顔を、勝手に見る気にはなれなかった。
彼の顔がどれだけ醜くても、酷い傷があっても、俺は健斗さんを愛し続ける自信はあるけど。
それから健斗さんは俺達の練習が終わるまでは起きなかった。
俺の練習が終わると同時に悠一さんが健斗さんを呼びに来てそこで悠一さんによって健斗さんは起こされた。
どうやらこれから諸星さんのラジオの生放送があるそうだ。
健斗さんは1度寝たことで元気になったのか、さっきより安定した足取りで現場へと向かっていった。
俺は現場へ向かう健斗さんと諸星さんの後ろ姿を、苛立ちを堪えながら見ていた。
いつもなら練習終わりは俺と健斗さんの二人きり時間なのに諸星さんに奪われてしまった気がしてしまう。
頭では諸星さんも健斗さんも仕事だからしょうがないて分かってるのに、俺は嫉妬心から握りしめた拳を開くことは出来なかった。
健斗さんは俺のものではないのに、健斗さんはアルファだからオメガに奪われてしまうのが怖い。そしてその恐怖と同じぐらいオメガが憎かった。
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