アイドルの恋愛模様

山田 日乃

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第2章

10話

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もう夜も遅いあれから何時間練習しただろう。

そろそろ終電がなくなるから終電がなくなる前には帰らないと、この前練習に夢中で、終電を逃してしまった時、父と悠一さんの2人にこっぴどく怒られてしまった、だけど俺は懲りずに定期的に終電を逃すせいで、今度終電を逃してここに泊まったら父がもう二度とここに行かせないと言われてしまった。

最後にあと1回踊って帰ろう。
俺はそう思い、もう一度音楽をかける。
俺は今日彼に教えて貰ったことを意識して、彼の事を考えながら踊った。 

踊り終わると、口からふっと息が漏れる。 
ため息のようなその息が張り詰めた体の筋肉を緩める気がした。
力が緩むと途端に感じる、体の疲れ。
何時間も踊り続けると、踊ってる途中では体の疲れは感じないけど、もう踊らないと、思うと一気に疲れを感じる。

アルファである以上疲れなんて感じてはいけない、ベータやオメガに比べて、身体能力が高いから、泣き言を言ってはいけない、そう幼い時から親に言われ続けてきたから、この疲れが悪いものに感じる。

俺はこの嫌な気持ちを流し込むように、水を飲んだ。

彼に会いたい。
俺はそう思いまた入口の方に目を向けた。今日はもう彼はきっと帰った。そう思ってはいるが、俺は何度も入口の方をみてしまう。
まるで癖のように今日、何度も何度入口を見た。
それももう今日はこれで終わり。
だけどきっと明日からもこうやって何度も入口を見てしまうんだろう。

そう思いながら最後に入口の方を見る。
そこには俺が待ち望んだ彼が居た。
まさか、俺は一瞬自分を疑った。そして俺は彼が俺の幻覚じゃなくて本当に見えている人物なのか、確認するように、彼の名前を読んだ。

「あれ?臥龍岡さん?」

俺が尋ねると、彼はビクリと肩を揺らし、ただでさえ丸い背中を更に丸めて俺に謝った。

「いや、別に見てるのが嫌だった訳じゃなくて、てっきり皆さん帰られたと思ってたので、びっくりして」

俺は謝られたことにびっくりして慌てて言い訳のような言葉を並べた。

「後、残ってるのは俺だけ、まだ練習してるみたいだったから気になって。」

彼が俺の事が気になっていてくれた。
俺はその事が嬉しくて思わず彼に駆け寄った。
そして俺はずっと彼に聞きたかった彼のアドバイス通りに踊れていたかどうかを訪ねた。

「朝言った所は良くなってると思う。
細かい所までちゃんと意識して凄い上達してる。歌も朝に比べてリズムの取り方が良くなってる。」

俺はその言葉を聞いて思わず心の中でガッツポーズをした。
良くなっていると褒められて心が踊るように嬉しかった。
彼はそんな俺をよそに間を置いてから言葉を続けた。

「……だけど練習のし過ぎでダンスのキレも無くなってるし、所々疲れが出てる。 
休んだ方がもっといいパフォーマンスが出来るかも、」

俺はその言葉に驚いて、時が止まったかのように動けなくなった。
初めて言われた、「休んだ方がいい」なんて、

俺はアルファとして産まれてアルファとしての、教育を受けた。アルファとして産まれたからには休息なんていらない。
他の人より恵まれた体を持っているから休む必要なんてないと、言われ続けた。

俺は、てっきりまたアドバイスを貰ってそれを直ぐに改善しようと、意気込んでいたから肩透かしを、食らった気分だった。

俺はどうればいいのか分からずその場に立ち尽くしてしまった。

「……だから今日はもう休んだ方がいいかも
せっかく上達してるのにここで体壊したら、元も子もないから。」

「…ありがとうございます、臥龍岡さん」

俺は帰り支度を始める。
と言っても、俺が持ってきているのは水と、タオルと、練習用にいくつかの曲を入れたMP3プレイヤーだけだったから乱雑に鞄の中に詰め込むと直ぐに終わってしまった。

このまま彼と別れてしまうのは名残惜しい気がして、俺は荷物を片ずける振りをしながら彼に話しかけた。

「俺こんなに細かく教えて頂いたの初めてで凄い嬉しいです。
臥龍岡さん、また練習見てもらってもいいですか?」

「俺でよければ、いいよ。」

俺は思わず心の中で「よっしゃー」と、強くガッツポーズした。これで彼とまた会うことが出来るのがすごい嬉しい。

「後敬語使わなくて大丈夫だよ。名前も呼び捨てで健斗で、多分歳も近いから。」

「いやっでも、、」

「俺も聖太郎くんて、呼ぶから。」

まさか今日会ったばかりなのに、名前呼びまで許させるなんて、今日は最高に幸せな日だと思う。
俺は「健斗さん…」とつぶやいた。
名前呼びを許させた事は凄い嬉しいし、舞い上がって彼の名前を大声で叫びたい気持ちもあるが、いざ面と向かって言うとなると緊張して思わず小声になってしまった。
 
俺は恥ずかしくなってしまって思わず顔を彼から背けた。

「聖太郎くんて、幾つなの?」

多分気を使ってくれた健斗さんが俺に質問をしてくれた。俺は顔の熱を冷ましながら健斗さんからの質問に答える。

「今年高校三年生です。」

「えっ、高校生?」

「健斗さんはいくつなんですか?」

「俺は…今年21…」

健斗さんは21歳なんだ、俺の兄さんの一個下。
俺と兄さんがオメガとアルファじゃなければ兄さんとの関係はこんな感じなのかな?なんて一瞬考えてしまった。
 
さすがにこれ以上荷物をしまうフリを続けられなくなった俺はフリを辞めて、荷物を持って部屋の電気と冷房を消しに行く。

「健斗さん一緒に帰りませんか?」

俺がそう尋ねると彼はコクリと頷いた。

俺達はそのまま2人で並んでビルから出て、歩いて最寄り駅まで向うことになった。

最寄り駅に向かうまで俺達は色々な話をした。
話と言っても、だいたい俺が話して、俺の質問に健斗さんが答えるばかりであまり健斗さんからは話してくれなかった。

長い前髪せいで彼の顔すら見たことない。
彼がどんな経緯でここに来たのか、何が好きか、まだ何も知らない。何も知らないけど、俺は俺が思ったより彼に心を許しているようなそんな気がする。


    
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